液晶ディスプレイ
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腕時計の液晶ディスプレイパソコンのTFT液晶ディスプレイ

液晶ディスプレイ(えきしょうディスプレイ、liquid crystal display、LCD)は、光源等の表面に、液晶の光学特性を利用した複数のシャッターを配置し、様々なパターンでシャッターを開閉することによって図画等を表示する装置である。
概要

液晶ディスプレイはデジタル化された電子機器の普及に伴いごく一般的な表示装置となっている。特に、数値や機器動作状態等の情報表示装置、映像などの画像表示装置として多様な電子機器において利用されている。

液晶ディスプレイには、「液晶モジュール」と呼ばれる部品が含まれており、その液晶モジュールは、主に「液晶パネル」と呼ばれる液晶を含む板状の部品と、液晶パネルに対して電気信号を供給するための駆動回路とを含んで構成されている。

液晶ディスプレイの典型例には、液晶テレビコンピュータ・ディスプレイがある。液晶モジュールは、これら以外にも、携帯電話端末携帯型ゲーム機電卓時計などの表示部として使われている[注 1]

つまり、単に「液晶ディスプレイ」と呼ばれた場合であっても、製品全体を指す場合と製品の表示部だけを指す場合がある。本記事では、便宜上、製品全体を指す場合には液晶ディスプレイと呼び、製品の表示部だけを指すには液晶モジュールや液晶パネルと呼ぶ。テレビPCなどの表示装置の製品としての「液晶ディスプレイ」と、携帯電話デジタルカメラなどに組み込まれる製品の一部の部品としての「液晶パネル」と「液晶モジュール」について、それぞれを分けて記述する。また、本項目では液晶プロジェクタは扱わない。
液晶パネルの原理LCDモニターの一部を拡大した画像液晶パネルの構成(単純な構造のもの)
1.偏光フィルタ(垂直)
2.ガラス基板(個別電極)
3.配向層に挟まれた液晶
4.ガラス基板(共通電極)
5.偏光フィルタ(水平)
6.光源

単体装置としての液晶ディスプレイは、光源、駆動回路や電源回路、接続コネクタ、ケース等を除けば主要部分が液晶パネル[注 2]と呼ばれる薄い板状部品で構成されている。

電卓時計の液晶は、あらかじめ「絵」の形に電極を配置して液晶に電圧を加える反射型の液晶が使用されることが多い。カラーの画像や映像を表示するものでは、格子状に配列したサブ画素 (Sub-pixel, sub-dot) を用いる。
表示原理

液晶パネルは、外光や、フロントライトバックライト等の光源により発せられた光を部分的に遮ったり透過させたりすることによって表示を行う。一般的な透過型液晶パネルを例として表示原理を説明する。
偏光
光源となるバックライトからは360度多様な方向に振幅成分を有する光が放たれる。裏面の偏光フィルタ(偏光板)は、この光の内の特定の方向の振幅成分を持つ光(偏光)だけを通過させ[注 3]、残りはヨウ素分子のような偏光素子[注 4]に吸収される[注 5]。最初の偏光フィルタを通過した光は、直線偏光となって液晶層に入射される。直線偏光の入射光は、液晶層を厚み方向に伝播しながら、液晶のもつ屈折率異方性(複屈折)に応じて偏光状態を変化させて行く。液晶層を通過した出射光の内の、表側の偏光フィルタが制限する特定方向の偏光成分の光だけが表示光として出射される。表示を変化させるためには、電圧を変化させて液晶配向を変化させる。液晶配向の変化に合わせて、液晶層をはさんでいる偏光フィルタ2枚を含めた全体の透過率が変化し、表示される明るさが変化する[注 6][注 7]。偏光板が不要な液晶表示パネルも存在する
配向
液晶層の表裏には2枚の配向層を備える形式が多く[注 8]、電圧を掛けない場合に液晶分子を特定方向に整列させる役割を担う。
電界
液晶配向を変化させるために電圧を掛け電界を作る。多くの形式では表裏の両面に平面電極を備えている[注 9]

このように液晶層を表裏2枚の配向層がはさみ、さらに2枚の偏光フィルタとその外側に電極が位置する。表側の偏光フィルタを透過する光が多い場合に表示が明るくなり、少ない場合には表示は暗くなる。
中間調
液晶パネルは単なる光シャッター[注 10]として動作しており、真っ黒や真っ白といったデジタル表示以外にアナログ的な中間の明るさを得るためには、電圧も中間の値を加えることで光の透過率を調節する。
交流印加
液晶パネル自身は直流の印加で動作できるが、電極側に正負電荷の偏りが生じて寿命が短くなってしまう。これを避けるために正と負の電圧を交互に掛ける交流を印加している。

こうして光学的なシャッターを実現し、このような微細なシャッター1つを1つのサブ画素とする多数のサブ画素によって望む画像を表示する。このシャッターは光の透過と遮断だけを行うので多様な色は、概ね3原色を備えた色フィルタで実現される。
表示モード

2枚の電極に挟まれた各画素での表示には偏光フィルムの配置方向に応じて、2種の表示モードが存在する[注 11]

ノーマリー・ホワイト・モード(NWモード) - 電圧の無印加状態で明表示(白表示)となる

ノーマリー・ブラック・モード(NBモード) - 電圧の無印加状態で暗表示(黒表示)となる

液晶パネルの構造液晶パネルの構造概略
説明のために光源と導光板も加えたがこれらは通常、液晶パネルには含まれない。液晶層は厚みが誇張されているが、実際には3μm程と極めて薄い。

液晶パネルは、大きくは表裏2枚の基板とその間の液晶材料から構成される[注 12]

液晶パネル(表面より順に示す。カッコ内は厚みの例)

偏光フィルタ(0.2mm程度)

カラーフィルタ基板(BMとカラーフィルタ、共通電極、場合によりスペーサ、0.65mm程度)

配向膜


液晶層(液晶材料、場合によりスペーサ、3μm=0.003mm程度)

配向膜


アレイ基板(配線やTFT回路、サブ画素となる電極、0.65mm程度)

偏光フィルタ(0.2mm程度)

上記に加えて基板の周囲に「封止剤」が使われる。

液晶パネルは、油状の透明な液晶組成物(液晶材料)が2枚の透明な基板の間にサンドイッチされ、周囲が封止剤によってシールされていて、液晶材料が漏れ出すことなくまた液晶材料が清浄に保たれるようになっている。セルギャップという基板同士の間隔を一定に保つためのスペーサやギャップ材として、粒の大きさが揃ったプラスチック球が少しだけ液晶層に散布されていたり、カラーフィルタ基板に柱状のスペーサが作り込まれている[注 13][注 14][注 15][1]。カラーフィルタ基板よりもアレイ基板の方が周囲の接続端子などの分だけ大きくなる。

2枚の基板は表側にカラーフィルタ基板、裏側にアレイ基板が配置される。アレイ基板は液晶側にTFTなどのアクティブ素子とサブ画素となる電極がアレイ(配列)状に作り込まれている[注 16]。カラーフィルタ基板の液晶側には、ブラック・マトリックス (BM) やR(赤)、G(緑)、B(青)というカラーフィルタを配列し、さらに透明電極による共通電極またはコモン電極と呼ばれるものが基板全面に作られる。これらの基板は光をできるだけ無駄なく透過させるために、ガラス基板が用いられることが多い[注 17]。耐衝撃性、フレキシブル性などの点からプラスチック基板を用いることもある。透明電極の材料としては、電気抵抗が低くパターン加工の容易なインジウムスズの酸化物であるITO (Indium-tin-oxide) が広く用いられている[注 18][2]。また、透明電極に印加される電圧は、アレイ基板ではTFTなどのアクティブ素子を通じて外部から印加されるが、外部からサブ画素までの配線として金属配線もアレイ基板の内面に配置されている[注 19]。アレイ基板の端部には、配線電極の接続部が露出しており、ここに駆動回路が接続されて電気的に実装される。表裏2面の透明電極のそれぞれの内側には、ポリイミド材料の配向膜が配置されて、液晶材料を所望の配向状態になるようにしている[3]

液晶パネルでは、液晶を封入した表裏の透明基板のさらに外側に、1組の偏光フィルタ(偏光板、Polarizer)を設ける形式が主流である。透過型の液晶パネルでは、裏側の光源(バックライト)から出た光は、光源⇒偏光フィルタ⇒アレイ基板⇒サブ画素の透明電極⇒配向膜⇒液晶⇒配向膜⇒共通透明電極⇒カラーフィルタ基板⇒偏光フィルタ、という順に各要素を通過して観察者の目に届く。ごく安価な表示用途で使われる簡易な反射型の液晶パネルでは、散乱性の反射板を液晶パネルの背面(裏面)に配置してそれ自体には光源を設けず、周囲の光(外光)によって表示する[注 20]。アレイ基板からカラーフィルタ基板の共通電極へ接続するのはトランスファ (Transfer) と呼ばれ、またこの接続材はコモン転移材 (Common transfer material) と呼ばれ、一般に銀ペーストやカーボン・ペーストといった導電ペーストが使用される。

実際の製品ではこういった基本構造の他にも、視野角特性を改良するための光学フィルム(視野角補償フィルム)などが偏光フィルタとガラス基板との間に追加して挿入される場合がある。また、バックライトシステムの一部にも、視野角や輝度を向上させるための光学フィルム(輝度上昇フィルム)を用いる場合もある。
カラーフィルタ


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