消防吏員(しょうぼうりいん)は、消防本部に勤務する消防職員のうち、階級を有する者をいう。 消防吏員とは消防本部に勤務する消防職員のうち、消火・救急・救助・査察などの業務を行う者である。「吏員」という言葉が一般になじみがないため、警察官や自衛官との類推から「消防官」という呼称が当局の公式な文書(例として消防本部の職員募集ポスター)でさえ使用されることもある。一例として、名古屋市消防局では、訓令で「消防吏員の職名は、消防官とする」と規定し、公式に「消防官」を使用している[1]。しかしながら、法律上の正式な身分呼称は消防吏員である。日本においては消防本部に勤務する公務員は消防職員であり、その中で消火・救急・救助・査察などの業務を行う者が消防吏員でその消防吏員の一番下の階級が消防士である。 消防本部の長たる消防長は行政規模や人口、消防吏員の員数によりその階級が異なり、東京都特別区の消防総監をはじめ、政令指定都市などでは消防司監や消防正監が多い。通常の市町村では消防監以上が消防長となる。消防長は消防本部管内の消防署を統括し、消防署は消防本部の指令を受けて消防署長(大隊長)の指揮の下、消防署総務・警防・予防各課と消火隊・救急隊・救助隊(レスキュー隊)の各隊により消防行政及び火災救急の任務が遂行される。自治体に吏員として採用されると、まず各都道府県に最低一つある消防学校に送り込まれ、ここで半年掛けて研修を受けることになる。なお、消防吏員の採用数の上位30校はすべて私立大学で占められている[2]。 なお、消防吏員が消防業務に専門的に従事する常勤の一般職地方公務員なのに対して、消防団員は普段は別の職業に従事する地域住民の志願者が任命される非常勤の特別職地方公務員である。 消防吏員の階級は、消防組織法に基づき消防庁長官が定める消防吏員の階級の基準(昭和37年消防庁告示第6号。旧題名の「階級準則」が広く通用)を参考として、市町村の規則(東京消防庁にあっては東京都規則)によって定められており、1968年の改正により現行制度となった。この階級準則による消防吏員の階級制度は、最高位の消防総監から消防士までの10階級が定められている。 消防吏員の階級が上がることを昇級という(消防団員の場合は補職)。消防本部の最高位者を消防長というが、消防庁の階級基準に沿って、消防本部の規模に応じて消防長の階級が決められている。例えば人口10万人未満の消防本部の消防長は、消防司令長の階級とされている。しかし、消防庁の基準は単なる参考に過ぎないので、ほとんどの場合、消防司令長より1階級上の消防監としているが、近年政府の指導が入った事によりこういった事例は減少している。 消防吏員はあくまで地方公務員であり、主に市町村(あるいは一部事務組合、広域連合)の職員として採用されるが、東京消防庁の場合は東京消防庁が採用を行う都の職員となる(東京消防庁は東京都庁の内部機関で特別区23区を所管し、島嶼部及び稲城市を除く多摩地区各市町村の消防事務を委託されている)。 現行の消防吏員の階級区分階級英訳役職 消防総監 警察消防時代 吏員 警察消防時代における消防吏員の階級序列階級 消防傭員の階級序列階級 自治体消防移行前の消防吏員の階級序列階級 1948年頃の消防吏員の階級序列階級 1952年頃の消防吏員の階級序列階級 1962年に現行制度へ 消防総監は東京消防庁の長、すなわち東京都特別区消防長の職名でもあり、その職にある消防吏員にのみ付与される階級である。消防組織法と旧警察法が施行される前、消防は警察の一部署であった。消防総監の職は本来、東京都の消防本部の責任者である消防本部の長(消防長)という位置づけだが、敗戦後の占領中に、GHQから警察と消防は同格であるべきで、警視庁のトップが警視総監なのに東京消防庁の長が消防本部長ではおかしいという指摘がなされ、消防総監という階級・職名になった。よって消防総監は警視総監と同様に役職名と階級名が一致している。消防総監は通例として全国消防長会の会長も務める。消防署長の階級は消防監ないし消防司令長とされるが、消防監の任用が多い。また副署長ないし課長は消防司令長、担当課長ないし係長は消防司令、主任は消防司令補の階級の者が任用されることが通例とされる。ちなみに消防吏員の階級においては消防司令を上級幹部(警察官上級幹部は警部相当、消防団上級幹部は団長ないし副団長相当)、消防司令補を中級幹部(警察官中級幹部は警部補相当、消防団員中級幹部は分団長ないし副分団長相当)、消防士長を初級幹部(警察官初級幹部は巡査部長相当、消防団員初級幹部は部長ないし班長相当)としている。しかし、消防吏員のうち幹部と称するのは、消防司令補以上を指すのが通例である。 常備消防の担い手である消防吏員は常にローテーションで交代しながら常に緊急時に備えている。しかし、消防にかける予算・人員には限りもあり、平時は消防署と並列関係にある消防団と連携する場面もある。大震災など大きな有事の際は消防団が消防長・消防署長の指揮下に入るため、消防吏員が地域住民により編成された消防団員を指揮して消防・救急にあたる場合もある。 アメリカの消防は火災に係る犯罪の調査官には警察官と同様の捜査権や逮捕権を与えているが、日本の消防は放火・失火で発生した火災に対する消火活動を行うことはできても、放火・失火の被疑者を逮捕する権限は現行犯を除き無い。同様に日本の消防が火災鎮火後に行うのは調査であり捜査ではない[3]。
概要
消防吏員の階級
上級幹部消防総監Fire Chief
東京消防庁:消防長
上級幹部消防司監Chief Fire Superintendent, Deputy Chief
東京消防庁:次長
政令指定都市:消防長
上級幹部消防正監Senior Fire Superintendent, First Assistant Chief
東京消防庁:本庁の部長、方面本部長
政令指定都市:本庁の部長、消防学校長
消防吏員の数が200人以上又は人口30万人以上の市町村:消防長
上級幹部消防監Fire Superintendent, Assistant Chief
東京消防庁:参事、方面副本部長、消防署長
政令指定都市:消防署長、部長、担当部長
消防吏員の数が100人以上又は人口10万人以上の市町村:消防長
(現場での役割)署隊長、大隊長など
中級幹部消防司令長Battalion Chief
東京消防庁:副参事、課長、担当課長、副署長、分署長
政令指定都市:課長、担当課長、副署長、分署長
人口10万人未満の市町村:消防長
(現場での役割)大隊長、指揮隊長など
中級幹部消防司令Fire Captain
課長補佐、係長、担当係長、出張所長
(現場での役割)大隊長、中隊長、小隊長など
中級幹部消防司令補Fire Lieutenant
係長、担当係長、主任
(現場での役割)中隊長、小隊長、分隊長、機関員、隊員など
初級幹部消防士長Fire Sergeant
主任、担当
(現場での役割)小隊長、分隊長、機関員、隊員など
幹部候補消防副士長Assistant Fire Sergeant
副主任、担当
(現場での役割)機関員、隊員など
幹部候補消防士Fire Fighter
担当
(現場での役割)機関員、隊員など
階級章
消防司監消防正監消防監
消防司令長消防司令消防司令補
消防士長消防副士長消防士
階級制度の変遷
1本部長
2副長
3司令長
4一等司令
5二等司令
6三等司令
7四等司令
8五等司令
9伝令使
1嚮導
2伍長
3消火卒
4消火卒見習
1消防司令
2消防士/消防機関士
3消防士補/消防機関士補
4消防曹長
5消防手
1消防本部長
2副消防長
3消防司令長
4消防司令
5消防司令補
6消防士長
7消防士
1消防総監
2消防監
3消防監補
4消防司令長
5消防司令
6消防司令補
7消防士長
8消防士
現行の階級制度
アメリカの消防との対比
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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