海兵隊(かいへいたい、英: Marine)は、陸戦兵器の取り扱いを専門とした将兵によって構成された、海上勤務のための軍事組織。所属や規模、任務は国や時代によって異なる。
漢字文化圏の中華人民共和国と中華民国(台湾)では陸戦隊と訳され、日本語でも中国人民解放軍海軍陸戦隊及び中華民国海軍陸戦隊と表記されることがある。一方、日本においては旧日本海軍の下に組織されていた海軍陸戦隊のように、本来は艦艇の運航を本務とする水兵によって編成された陸上戦闘部隊を「海軍陸戦隊」と称し、欧米のMarineに相当する陸戦本分の海兵隊とは区別されていた[1]。しかし、両者を混同した記述も多く見られる。それに対して欧米の陸戦隊(landing party)は、艦船に配属された海兵隊員と艦船の乗組員である水兵により編成される。
一部の国(スペイン語圏諸国やロシア)の組織については海軍歩兵の語が充てられている。
歴史トラファルガーの海戦でネルソンを看取る旗艦「ヴィクトリー」乗組員。赤い服が海兵隊員。1943年にソ連で発行された郵便切手。イラストはソ連海軍歩兵。大韓民国海兵隊
中世ヨーロッパの艦船[注 1]には敵の船体を破壊するような艦砲は装備されておらず、初期の海軍は実質的に陸上部隊を運ぶ輸送船団であり、この時代の海戦とは兵士を乗せた船同士が遭遇した際に行なわれる接舷戦闘[注 2]であった。艦船に大口径砲が装備されて水上艦同士の砲撃戦が行なわれるようになり[注 3]、海軍が常設の海上戦闘組織になると、接舷戦闘や目的地での上陸戦闘を行なうために、陸軍が艦船に配属する専用部隊を設けたり、海軍が歩兵部隊を組織するようになった。これが海兵隊の始まりである[2][3][4]。現在でも海兵隊の所管が海軍(アメリカ海兵隊は海軍とともに海軍長官の管轄)であるか陸軍なのか、あるいはどちらにも属さない独立した軍組織なのかは国によって異なるが、そうなっている経緯についてはそれぞれの国に於いて紆余曲折がある。世界で最も古い歴史を持つのは1537年設立のスペイン海兵隊である。
古い海兵隊が創立されたのは16世紀から17世紀であるが、当時の艦艇乗組員は士官の一部を除いて軍人ではなく、制服も存在しなかった。一方、海兵隊は艦艇に配属された歩兵であり、当時の海兵隊の規則や制服は陸軍の歩兵に準じていた[5][4]。ヨーロッパ各国の陸軍に制服が導入されたのは17世紀だが[6][7][8]、海軍士官に制服が制定されたのは18世紀中頃であり、水兵はアメリカ海軍が1841年[9]、イギリス海軍は1850年代(1853年[10]や1857年[11]等諸説がある)であった[12]。このような経緯から、その後古い海兵隊を手本に創設された部隊も含めて、軍律や制服が海軍より陸軍のものに近い組織が多い。
艦砲等の対艦兵器が発達していなかった時代は接舷戦闘が海戦において大きな位置を占めており、海兵隊はその任務を担っていた。