活性水素水
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水素水(すいそすい)は、水素分子のガスを溶解させたであり、無味、無臭、無色である。水素は水に溶けるが、溶解度は低く、ごくわずかな量しか溶けないため、水素水は基本的には水と同じ性質を持つ。

工業用の水素水は半導体や液晶の洗浄に用いられる[1]。農業では作物成長や食品保存での研究が行われている[2][3]。また飲用のアルカリ性電解水の生成に伴い水素水が生成される(水素水ではなくアルカリイオン水生成装置には「胃腸症状の改善」の効能表示が認められている)[4][5]

2016年5月には、国立健康・栄養研究所は、6つのランダム化比較試験を元に、ほとんどが病気の患者での予備的研究であるため、健康な人への有効性について「信頼できる十分なデータが見当たらない」としている[6]。なお健康者を対象とした試験は実施されている[7][8]。2016年3月に、国民生活センターは水を電気分解して水素を発生する2製品で事業者の検証方法(臨床試験ではない)にそって実験し、ヒドロキシルラジカルを抑制するが飲用による効果を表していないとする広告通りの結果が得られたことを発表した。ただし、人体にどのような効果があるのかを明確にするよう要望している[9]

岡山大学大学院教授である中尾篤典によれば、水素自体の効果は基礎研究が蓄積されているが、水素水については「信頼できる臨床データは少なく」「いまだエピソードの類である」としている。また、同雑誌に掲載の論文によれば、研究結果の共通性から水素と水素水の抗酸化作用はあるとされているが、作用機序はまだ明確には特定されていないものとされている[10]

市販の水素についてうたわれた飲料水ならびに生成器に対しては、国民生活センターの発表(2016年12月15日公表、2017年1月20日更新)で、時間経過に伴って溶存水素濃度の低下が観測される例があることが示されるとともに、ペットボトル販売の飲料水の中には溶存水素が検出できないものもあったとされた。また、販売元のサイト等でうたわれる記載において、健康保持増進効果等と受け取れるものがあるものの、これらは場合により、医薬品医療機器等法や健康増進法や景品表示法等に抵触する可能性があるものであることを示唆している[11]
生成

水素水の生成は、水素ガスの溶解や、水の電気分解によって容易に調整できる[12]。また、マグネシウムと水の化学反応でも生成できる[10]

洗浄用水素水の製造法のひとつとして、水は通過しないがガスは通り抜ける高性能の中空糸状の気体透過膜を内蔵したモジュールによる方法がある。これは、高純度の水素水を安全かつクリーンに経済的に製造することを目的としたものである[13]

アルカリ電解水を生成する過程で水中に水素が過飽和に溶解しており、一部はコロイド状の微小の水素気泡となって存在し、微小の水素気泡は1日放置後にも安定して存在する[14]。アルカリ電解水に溶存する水素濃度が増加するにつれて、酸化還元電位は低くなる[14]。パナソニックでは、飲用アルカリ性電解水は安定したpHの生成が主眼に置かれていたが、後に溶存水素量にも着目され研究開発が進んできた[15]
保存

水素は、ガラスやプラスチックを短時間で通過してしまうため、長時間の保存にはアルミニウム製の容器が向いている[16]

ただし、アルミニウム製の容器に入れたとしても水素は大気圧では容易に水の中から抜けていき容器内で水と気体の水素に分離してしまうが、容器内で水素を発生させることにより容器内を加圧すればヘンリーの法則により水中に高濃度の水素を存在させることができる[17]
洗浄

半導体や液晶の洗浄に用いられる[1]超純水に水素ガスを溶解させて作られ、洗剤を使うよりもコストと環境負荷が低い洗浄液となる[1]。水素が微小気泡として存在すれば、これを核としてキャビテーションが発生するため、洗浄効果が高まる[14]。超音波やアルカリと組み合わせて使用される事が多い[13]。同様な洗浄水として炭酸水やオゾン水が存在する。
農業

高等植物では、水素(水素水ではない)によって早くには1964年にライ麦の発芽が早まることが中国で発表された[2]

水素水では、緑豆植物の成長促進、米の塩分や水不足時のストレス耐性の向上や、バラでは開花を遅らせ、キウイフルーツでは熟成と老化を遅らせることが示された[2]。植物ホルモンのタンパク質遺伝子の発現を調節することが発見されたため、病害や害虫への抵抗性の向上につながる可能性がある[2]

また水素の抗酸化の特性は、農産物の保存に寄与する[2]。大阪府立大学大学院生命環境科学研究科の研究者は、野菜や果物を水素水に10分間浸すことで酸化や水分減少が抑制されることを確認し、食品物流につなげたいとした[3]
毒性・安全性「水素#生体研究」も参照

日本では水素は食品添加物として、製造用剤の用途で承認されている[18]。製造用剤としての「油脂の硬化等の水素添加」では[19]、最終製品には水素は残らない。アメリカでは、水素ガスは、従来の油脂の硬化等の水素添加以外の目的では、2014年に、酸化防止のために飲料への食品添加物としてGRAS(概して安全とみなせる)に認められた[20]

国立健康・栄養研究所は、安全性の検討は病気の人での予備的研究が多く「ヒトに対する安全性については信頼できる十分なデータが見当たらない」としている[6]

なお、水素水ではないが、水素50パーセントを含む飽和潜水用のガスに毒性や安全性の問題はみられていない[21]
生体研究「水素#生体研究」も参照

1671年にはロバート・ボイルによって、水素ガス(水ではない)が生成され、水素はガスであると認識され、生理的に不活性なガスだと考えられ、1975年に水素ガスによる研究が報告されたが注目されなかった[22]

1997年に、白畑實隆らは電気分解した水(電解還元水)を使った実験を行い、活性酸素種によるDNA損傷を抑制することを報告し、その作用は活性水素[23]と呼ばれる水素原子によってもたらされていることを示唆しているとの仮説を、Biochemical and Biophysical Research Communicationsにて報告した[24][25]。2000年にも白畑は、そうした作用を起こす原因が「活性水素であろうと推定」し、その検出法の開発に取り組んでいることを記している[26]。とはいえ、水素原子は長い時間体内に存在することはできず、電解水に存在するのは水素分子(つまり水素)であるため[25]、2002年には白畑は、水素原子が水中に長時間存在するとは考え難いが、電解還元水の活性酸素消去能力が1か月以上安定してみられることから、水の電解時に、電解のための白金の電極棒の金属と結合し吸蔵されているものと考えた[27]。後の研究者は水素分子の作用だとみなしている[25][4]。白畑自身を含めた研究者らによる最近の研究では、作用の原因として水素分子に言及している論文もある[28]。しかし2017年の研究では、電解水素水は単に水素を溶存させたよりも活性酸素消去能力が高く、白金ナノ粒子などほかの要因が仮定できるとされる[29]

2007年には太田成男が、動物実験において脳虚血などによって生成されるヒドロキシルラジカル(・OHと表記される)に対して、水素がもつ抗酸化、抗アポトーシス作用によって選択的に保護できることを『ネイチャー メディシン』にて報告し[30]、これ以降、水素の研究が進展している[22][25]


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