洗張・染物業
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「張物」を専門に行う職人、張殿(『三十二番職人歌合』、1494年、その1838年の模写)。無数の?(しんし)で布をぴんと張る作業である。

洗張、または洗い張り(あらいはり)は、和服(呉服)専門の洗濯方法の一つである[1][2][3][4][5]。着物等、縫い合わせて衣服の形状をなしているものから抜糸をして、解き離しての洗浄を行う[1][2][3][4][5]。この手法から、解洗・解洗い(ときあらい)ともいい、対義語は丸洗(まるあらい)[3][6]

「解洗」を行った後、「張」(はり)の作業で仕上げ・乾燥を行うが、この作業およびこの手法で乾燥させる布地を張物、または張り物(はりもの)という[7]板張りに使用する板を張板(はりいた)、張物板(はりものいた)といい、この作業を生業とする者を張物屋(はりものや)、張屋(はりや)、張物師(はりものし)、あるいは張殿(はりどの)という[7][8]

「洗張」を行う手工業者職人を洗張屋(あらいはりや)と呼ぶ[5]。現在では染物屋、とくに関西では悉皆屋(しっかいや)に発注する[3][4][9]
目次

1 略歴・概要

2 工程

3 洗張・染物業

4 脚注

5 参考文献

6 関連項目

7 外部リンク

略歴・概要 岩瀬京伝(山東京伝)『洗張浮世模様』(1786年)のとあるページ。

「洗張」がいつごろ始められたかはわからないが、10世紀末の970年ころに成立したとされる『宇津保物語』には、「張物」を行う人物がすでに登場している[7]

「洗張」は、室町時代14世紀 - 16世紀)にはすでに存在し、染物屋が兼業で手がけていたとされる[10]。「解洗」のうち、「張物」の工程を専門に行う職人「張殿」(はりどの)が、15世紀末の1494年(明応3年)に編纂された『三十二番職人歌合』に紹介されており、遅くともこの時期には「張物」の専門職が存在していたといえる[8]。同歌合には「いやしき身なる者」として、「へうほうゑ師」(表補絵師)とともに対になっており、小袖を着た女性が無数の?(しんし)で布を張っている姿が描かれている[8]。この歌合に載せられた歌は、

きぬ共を 春の日しめし おきもあへず 花見の出立 急がるるころ

雨の日を もらすは惜しき 商ひに うちばり広き 殿作りせん

というもので、「張殿」の仕事が春になると花見を目前に繁忙期になること、野外で行う作業であるため雨天は休まざるをえず、室内で「張物」ができるような豪邸をつくりたいものだという歌に「張殿」の職能の特徴を描いている[11]

近世の17世紀末、1690年(元禄3年)に刊行された風俗事典『人倫訓蒙図彙』には、

練物・張物師 - 絹を練る家、張物をなす。一切の染物又は洗沢物これをはるなり。

と紹介されている[7]。洗沢物とは洗濯物の意で、生絹の膠質を除去する「練物」の作業をする家では、「張物」を行うのだということである。江戸時代17世紀 - 19世紀)には、「洗張」を専業で行う「洗張屋」が登場した[10]。この時代になると、大坂(現在の大阪府大阪市)に「悉皆屋」が登場し、大坂で衣服の染め・洗張の注文を受け、京都の専門店に出す、という仲介業で、のちには染め・洗張を行う業者・職人を指すようになり、現在に至る[9]。1786年(天明3年)[12]、岩瀬京伝(のちの山東京伝)が上梓した『洗張浮世模様』は、「洗張」の姿の華やかさになぞらえて、当時流行した模様を紹介したイラスト集である。

近代以降、家庭で「洗張」をすることができたが、第二次世界大戦(1940年代)以降、染物屋・悉皆屋に外注するケースが増えている[9]。1949年(昭和24年)に設定された日本標準産業分類では、細分類「洗張・染物業」(8291)として「洗張業」は「染物業」とともに1カテゴリを形成していたが、2007年(平成19年)の改正で「その他の洗濯・理容・浴場業」と統合され、小分類「その他の洗濯・理容・美容・浴場業」を形成した[13]

現在の日本での費用相場は、「洗張」が12,000円、ガード加工に12,000円、さらに仕立てる必要があるので、仕立て代が38,000円といったところだという[6]
工程

「洗張」の工程は、文字通り「洗」段階(洗浄)と「張」段階(仕上げ・乾燥)に大別される[4]

「洗」段階では、まず衣服の形状から反物の形状へと解きほぐし、糸くずやごみを除去してから、水洗(洗浄)を行う[4][6]

次の「張」段階、「張物」が仕上げであり、反物の素材によって方法が分かれる[4]。「湯のし」を除き、いずれもを使用して、張って乾燥させることで光沢や風合いを出す[9]
板張(いたばり)仕上げ - 木綿レーヨン、交織地

?張(しんしばり)仕上げ - 縮緬(ちりめん)、お召大島紬等のといった高級絹織物

湯のし(ゆのし)仕上げ - 縮緬等の強撚糸物(糊を使用しない)

アイロン仕上げ - 近代以降の方法「板張り」、「?」、および「湯のし」を参照

洗張・染物業

洗張・染物業(あらいはり そめものぎょう)は、日本の職業のカテゴリの一つであり、日本標準産業分類の細分類である[13]。「染物業」とともに1カテゴリを形成している。かつては大分類「Q サービス業(他に分類されないもの)」、中分類「82 洗濯・理容・美容・浴場業」、小分類「821 洗濯業」にカテゴライズされていたが、2007年(平成19年)の改正以降、下記のカテゴリに置かれている[13]


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