泣く
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2歳の幼児の泣き顔

泣く(なく、: cry)とは、ある感情の物理的刺激への反応としてを流す、または目に涙を浮かべることである。泣くことを促す感情としては、怒り幸福悲しみなどがある。泣くという作用は、「眼構造の刺激を伴わずに、涙器から涙が流れることを特徴とする複雑な分泌促進現象」と定義されてきた[1] [2]。関連する医学用語に流涙(りゅうるい)があり、感情によらず涙を流す反応を言う。

泣き方にはむせび泣きや号泣など様々な形がある。すすり泣き(sobbing)と言われる泣き方には通常、ゆっくりとした不規則な吸気、また時には息のしゃくり上げや筋肉の振戦などの他の仕草が伴う。
泣くことの機能

感情的に流れる涙の機能もしくは起源についての問題はいまだ解明されていない。被った痛みに対する反応であるなどの単純なものから、他人から利他的な行為を引き出すための非言語的コミュニケーションであるなどのより複雑なものまで様々な理論がある。ストレスを和らげるなどの生化学的な目的に資するものだと主張する者もいる[3]。泣くことは 、苦しみ・驚き・喜びなどの激しい感情的感覚のほとばしりに対する捌け口、またはその結果であると考えられている。この理論は、なぜ人が悲しい出来事だけでなく楽しい出来事があった場合にも泣くのかを説明しうる[4]

人は泣くことの肯定的な面を記憶する傾向にあり、悲しい感情から解放されるなどの、同時に起こった前向きな出来事と結び付けている可能性がある。併せて、こうした記憶の特性は、泣くことが人に利するものであるという意見を補強する[5]

ヒポクラテスの医学では、涙は四体液説に結びつけられ、泣くことは脳からの余分な体液の浄化作用と考えられていた[6]。ヨーロッパの中世医学では、人間の体液は全て血液に由来し、感情の中枢である心臓から、感情の高揚とともに目に上ってくるものであると考えられた。中世フランス語には「心から眼に水が上る(l'eve del cuer li est as elz montee)」という言い回しが多用されている[7]。一方、中国・明代の薬事書『本草綱目』においては、涙は肝臓の組織液であり、心の系が急して器官が揺れ動くことで液道が開かれ涙が出てくる旨が記されている。ここでは、涙が塩辛く、毒性を持つものと説明され、母親が子を抱えながら涙することは悪影響をもたらすと説明されている[8]ウィリアム・ジェームズは、感情を理性的思考に先立つ反射として考え、泣くという生理的反応はストレスや刺激と同様に、恐怖や怒りなどの感情を知覚的に認識するための前提条件であるとした。
生物学的解釈

ミネソタ大学の生化学者ウィリアム・H・フレイ2世は、人が泣いた後に「すっきり」するのは、ストレスに関連するホルモン、特に副腎皮質刺激ホルモンを排出することによるものだと指摘した。泣いているときに粘膜の分泌が増加する現象と合わせると、泣くこととは、ストレスホルモンの水準が高まった際にこれを処理するための人間に発達したメカニズムである、という理論を導きうる[9]。しかし、涙が化学物質を排出する能力は限定的であり、この説も説得力に欠ける。スペイン眼科学会のフアン・ムルーベ会長は、涙腺を通過する血液の量は体の5リットルの血液と比較して小さいことを報告している。また、呼吸や汗などの他の軽度の体排泄方法とは異なり、涙はほとんどが身体に再吸収される[10]

人間が感情的反応として涙を生成する唯一の動物であるかは議論がなされてきた[11][12]チャールズ・ダーウィンは『人及び動物の表情について』の中で、インドゾウが悲しいときに涙をため込むさまについてロンドン動物園のインドゾウの飼育員から語られたことを記している。近年では、カルロ・V・ベリーニが泣く行為を分析し、ほとんどの動物は泣くことができるが、人間だけが心理的感情から涙を流している(weeping)と結論付けた。涙を流すことは、おそらくミラーニューロンネットワークを通じて共感を誘うとともに、頬を伝う涙のマッサージ効果によって誘発されるホルモンの放出、またはすすり泣きのリズムの解消を通じて情緒に影響を及ぼす行動である。
心理学的解釈

近年の泣くことに関する心理学的理論は、泣くことと無力感の認知経験との関連性に重きを置いている[13]。この見地に立つと、無力感という基本的経験から一般に人が泣く理由を説明することができる。例えば、人が予期せぬ朗報を受け取った時に泣くのは、表向きには、起こっている事態に対して無力である、影響を与えることができないと感じるためである。

感情性の涙は進化論の文脈にも位置付けられてきた。ある研究では、泣くことは、視覚をぼかすことで攻撃的・防御的な行動を不利益にし、譲歩・要求または愛着を示す確実な記号として機能しうるとする仮説を立てている[14]テルアビブ大学進化心理学者オーレン・ハッソンは、泣くことは攻撃者に対し脆弱性や服従を示し、傍観者からの同情や援助を求め、互いの愛着を示すものであると主張する[15]

進化心理学に従う別の理論がポール・D・マクリーンによって提唱されている。彼は泣き声は初め、親と子の再会を助けるための「別れ泣き」として使われたと主張する。 彼の推論によれば、涙は、大脳の発達と火災の発見とが結びついた結果である。マクリーンの考えでは、初期の人類は火に大きく依存していたため、彼らの目は煙に反応してしばしば反射的に涙を作り出していた。人類の進化に伴って、煙がおそらく人生の喪失、すなわち悲しみと強く結びつくようになったのである[16]
社会学的解釈

感情の社会的・文化的側面に注目する感情社会学では、まずある状況に対する初期的感情があり、それを「この場ではこう感じるべきである」という状況に照らして経験しなおす二次的感情が存在するとする。ホックシールドは、場にふさわしい感情の持ち方を「感情規則」、それに基づく感情の再経験を「感情管理」と呼んでこれを定式化した[17]

例えば葬式で泣く場面においては、泣いてよい優先順位が故人との関係によって規範的に決定されている[18]。葬式で実際に泣くのは主としてごく近親者に限られており、近親者でない人間が泣いていればかえって訝しがられ、何らかの関係性が詮索されることになる。


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