泡沫候補
[Wikipedia|▼Menu]

泡沫候補(ほうまつこうほ)とは、当選する見込みが極めて薄い選挙立候補者。特殊候補、インディーズ候補[1]とも呼ばれる。「沫」が常用漢字に含まれないため、新聞などでは泡まつ候補とまぜ書きしたり、泡末候補と書き換える場合もある。

英語では一般にminor candidateと呼ばれ、Perennial candidate(en)という言い方もある(ただし後者は頻繁に立候補するものの当選には至らない著名・有力候補もしくは「万年候補」というニュアンスが強く、一度だけ立候補する場合は含まれない傾向がある)。
概説

「立候補してものように消えてしまい落選する候補」という意味からつけられており、候補として立候補する以外に、政治的活動があまり注目されない場合にそう呼ばれることが多い。

選挙に立候補しても法定得票数未満となったり、供託金制度のある国家では、供託金没収点未満となる事例が大半である。それでも選挙活動を通して、名前や顔・公約・政治信条などを知ってもらい、知名度を上げることなどが、立候補者にとってのメリットとなる[2]

ただし、最初は泡沫候補と呼ばれていても、選挙活動を通じて大きく注目されて、有力候補になったり選挙に当選したりする事例も稀に存在する。特に有力な現・前職のいない選挙や、長く無投票当選の続いた選挙など、波乱の起きやすい状況で予期せぬ善戦・当選が見られる[要出典]。逆に、かつては大物政治家であった人物でも、曲折を経て当選の見込みが極めて薄くなっている場合には「泡沫候補」と呼ばれることがある[3]
日本

日本では地盤(後援会組織)・看板(知名度)・鞄(資金)の三バンがそろっていない候補者ほど泡沫候補と呼ばれる傾向がある。

東京都知事選挙では多数の泡沫候補が立候補する傾向にあり、近年では1991年に16人・1999年には19人・2007年には14人・2014年には16人・2016年には21人・2020年には22人がそれぞれ立候補している。1960年4月の栃木県桑絹村における村長選挙では分村を巡って村長派と対立した陣営が大量立候補をしたため、計202人が立候補する事態が発生した(1962年の法改正以前は町村の首長選挙の供託金は不要であった)。

かつては参議院議員通常選挙東京都選挙区にも多数の泡沫候補が立候補し、第17回参議院議員通常選挙(1995年)は改選議席4に対して72人が立候補した。これには、選挙の確認団体となるには一定の候補者をそろえる必要があり、そのために比例区よりも供託金の比較的安い選挙区を選んだことも一因である。比例票の積み増しも狙ってか改選数2以上の都市部での出馬が多く、候補者を1人に絞っても当選の見込みが薄いような場合でも定数いっぱいに候補者を立てる団体も多かった。
実際の政治活動

いわゆる有力候補と同様の選挙運動を行う候補者はもちろん多い。一方、候補者の中には、荒唐無稽な主義・主張を行う者や、ほとんど選挙運動をしない者なども少なからず存在する。また、組織力が低いか皆無に等しい候補が多いため、公営掲示場への選挙ポスター貼りなど、手間の掛かる選挙運動はできないか不十分な場合が多い。

単記非移譲式投票の下では、「次点より低い順位の候補者の得票数は選挙が行われる度にゼロに近づいていく」というデュヴェルジェの法則があり、選挙ごとに泡沫候補化していく傾向がある。

一般的に候補者自身は「泡沫」と呼ばれることを極度に嫌っている。そこでさまざまな言い換えが試みられている。大川興業総裁の大川豊は、大政党からではなく無所属ミニ政党(多くの場合、候補者自身が代表)所属で出馬する彼らに敬意を表して「インディーズ候補」と呼んでいる。この呼び方は著書の中で頻繁に使われ、好事家の間で普及している。また、フリーライターの畠山理仁は、著書『黙殺』において「無頼系独立候補」と呼んでいる。泡沫候補が報道される際、所属党派名が省略され「諸派」「無所属」と扱われることから「しょむ系候補」(諸無系候補)と呼んでいるサイトもあるが、さほど定着しているとはいえない。

ただ、過去の選挙においては選挙運動用のはがきなどを他の陣営への横流しを目的に売却した候補が現れたことや選挙公報等を用いて特定の商品の宣伝を行った政党などが問題になった事例(第16回参議院議員通常選挙の宣伝を行った日本愛酢党など)や、特定の右翼団体が政党から資金援助を受けて立候補していた実例(第30回衆議院議員総選挙における肥後亨事務所の実例)があって問題となったこともある。現在においては、こうした事例は供託金が引き上げられたこともあり露骨な形で問題となる事例は少ない。詳細は「肥後亨#背番号候補」および「第30回衆議院議員総選挙#概要」を参照

また、小田俊与が昭和20年代から30年前半にかけて数多くの選挙について立候補届を書留速達郵便で予告無く送り付けて無差別連続立候補するが政治活動はおろか現地にすら赴かない売名行為があちこちで起ったため、国会の場でも問題となったことがある。このような事態に対処するために1964年公職選挙法が改正され、立候補の届出は郵送等を禁止して選挙管理委員会への直接持ち込みに限定する規定が設けられた。
法律上の扱い

公職選挙法など法律上は、原則として候補者の差別はない。

しかし、実態は法律上の政党とそれ以外の“その他の政治団体”・無所属候補に格差を設けている。政党要件を満たしていなくても、参議院選挙などほとんどの選挙では、政治団体は確認団体の要件を満たすことで、選挙では政党に準じる扱いを受けることはできる。しかし衆議院選挙では、確認団体制度が存在しない上、非政党候補は小選挙区での政見放送不可、小選挙区比例区重複立候補禁止など、法律上も非常に大きな格差が設けられている(詳細は政党の項目参照)。

候補者間の制度上の格差については、2005年第44回総選挙後、日本国憲法第14条にある法の下の平等に反し違憲であるとして、選挙無効訴訟一票の格差などと共に争われた。しかし、2007年6月13日最高裁判所大法廷(裁判長島田仁郎)は12対3で原告の上告を棄却し、原告を全面敗訴とする高裁判決が確定した[4]
マスコミでの扱い

公職選挙法により、マスメディアは特定の候補を差別することは禁じられている。一方で、評論として批判や評価することは認められている。また、ニュース価値の判断から、結果的に扱いに差が生まれても違法ではないとされる。たとえば新聞・テレビなどの報道では、有力候補は細かい政策や選挙活動のレポートなどを報じたり、日本記者クラブ主催の討論会に参加できるが、そのほかの候補は「このほかにもご覧の方が立候補を表明しています」と、最低限の立候補情報のみしか報じない、という差別が常態化している。しかし、タレント候補については泡沫候補とみなされる場合でも比較的優遇される傾向がある。また、特定の候補者の顔が写らないようにモザイク処理を入れたり、カットするなどされることもある。
「独自の戦い」

泡沫候補・弱小候補が行う選挙活動を表現するために報道機関が用いる慣用句として、「独自の戦い」という表現が用いられることがある。転じて、主流・本筋とはかけ離れた方向・距離・観点において独特の活動を行うことを揶揄して用いることもある。

選挙に関する報道においては公平性が求められ、報道機関は全ての立候補者氏名や政党名、肩書き、その所信などを報道することが求められる。

しかし、いわゆる泡沫候補については有権者の関心が非常に低いばかりではなく、その選挙活動が、特に独特な主義・主張を掲げている場合や、売名目的などの本来の選挙制度の趣旨から逸脱していると考えられる場合も少なくない。そこで、限りある紙面や放送時間をこれらの候補者に費やすことは適当ではないとして、報道機関の裁量(編集方針)として、主な候補者と泡沫候補・弱小候補については取扱いについて軽重をつけているのが実情である。

このような事情から、泡沫候補・弱小候補については最低限必要とされる形式的な公平を保ちつつ、出来うる限り簡潔な表現を用いて報道することとなる。

また、泡沫候補においては所属政党が無い場合や、従前の政治活動や経歴が不明瞭であることも少なくない。また、選挙ポスターを貼らない、街頭演説を行わない、選挙公報の原稿を提出しない、顔写真を公表しない、政見放送を申し込まない(政党所属候補以外の政見放送が流されない衆議院議員総選挙を除く)等、報道機関としても選挙活動の状況について把握できない場合もある。

そこで、このような候補者について文字通り「独自・独特の観点や価値観で立候補し選挙活動を行っている」という意味を表し、且つ、短く簡潔に表現した慣用句として「独自の戦い」が用いられている。


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:65 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef