治験
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治験(ちけん)とは、臨床試験(: Clinical trial)のうち未承認や適応外の医薬品もしくは医療機器の製造販売[注 1]に関して、医薬品医療機器等法上の承認を得るために行われる試験である[1][2]。臨床試験は、ヒトを対象とした医学系研究臨床研究)のうち、医薬品や治療などにより人体に変化を伴う研究(介入研究)を行うものを指す[3][4]。治験以外の臨床試験は、医薬品や医療機器、外科的手技などの治療を試験的に行い、有効性や安全性を調べることを目的とする[4][5]。ヒトを対象にする前に細胞実験動物を用いた非臨床試験で検討し、有効性が期待でき、安全性にも問題がないと考えられた場合に行われる[6]

治験は薬事承認を取得することが目的であるため、製薬企業が医師に依頼をする「企業治験」が行われてきた[3][4]。2003年に薬事法が改正され、「医師主導治験」として医師が主体となって治験を行えるようになった[7][8]。それにより医師自らが国内未承認薬や適応外処方薬の薬事承認を取得して、臨床の場で使うことが可能となった[3][8]

臨床試験には3つの段階があり、各段階で安全性や有効性を確認しながら進めていく[3][9]。この3段階を、第T相(フェーズ1)、第U相(フェーズ2)、第V相(フェーズ3)と呼ぶ[3][9]。第T相よりも第U相、第U相よりも第V相のほうが治療法の開発が進んだ段階にあり、より承認に近い状況にある[3][9]
治験の流れ

治験は第I相から第V相までの3段階で行われることが多い[10]。ただし、抗がん剤(特に細胞傷害性の抗がん剤)に関しては、第I相臨床試験は既知の予想される大きな不利益があるために通常がん患者を対象に行われ、第II相臨床試験に関しても国際規準RECIST(レシスト)による腫瘍縮小効果(奏効率)が検討されたり、強い副作用や、生命倫理問題[11]の大きさから、一般薬に比べてランダム化比較試験が簡単に行いづらいなど、デザインや方法を異にする場合が多い。
第I相試験(フェーズ I)

自由意思に基づき志願した健常成人を対象とし、被験薬を少量から段階的に増量し、被験薬の薬物動態(吸収、分布、代謝排泄)や安全性(有害事象、副作用)について検討することを主な目的とした探索的試験である。動物実験の結果をうけてヒトに適用する最初のステップであり、安全性を検討する上で重要なプロセスである。しかし、手術や長期間の経過観察が必要な場合や、抗がん剤などの投与のようにそれ自体に事前に副作用が予想されるものは、外科的に治療の終わった患者(表面的には健常者)に対して、補助化学療法としての試験を行うことがある。また、抗がん剤の試験の場合は、次相で用いる用法・用量の限界を検討することも重要な目的となる。
第II相試験(フェーズ II)

第II相試験は第I相の結果をうけて、比較的軽度な少数例の患者を対象に、有効性・安全性・薬物動態などの検討を行う試験である。多くは、次相の試験で用いる用法・用量を検討するのが主な目的であるが、有効性・安全性を確認しながら徐々に投与量を増量させたり、プラセボ群を含む3群以上の用量群を設定して用量反応性を検討したり、その試験の目的に応じて様々な試験デザインが採用される。探索・検証の両方の目的を併せ持つことが少なくないため、探索的な前期第II相と検証的な後期第II相に分割することもある。その他にも、第I/II相として第I相と連続した試験デザインや、第II/III相として第III相に続けて移行する試験デザインもある。毒性の強い抗がん剤に関しては、この第II相で腫瘍縮小効果などの短期間に評価可能な指標を用いて有効性を検証し、承認申請を行うことがある。
第III相試験(フェーズ III)

上市後に実際にその化合物を使用するであろう患者を対象に、有効性の検証や安全性の検討を主な目的として、より大きな規模で行われるのが第III相である。それまでに検討された有効性を証明するのが主な目的であるため、ランダム化や盲検化などの試験デザインが採用されることがほとんどである。数百例以上の規模になることもあるため、多施設共同で行う場合が多い。抗がん剤の場合は、製造販売後に実施されることが多い。
インフォームド・コンセント詳細は「インフォームド・コンセント」を参照

治験実施者は、治験参加者に対して治験参加に先立ち、実施する試験の目的や内容について説明する義務がある。参加者が患者であるならば、その治療法などについて予測される利点と不利益、ほか治療法の提示および比較、予測される最悪の帰結などを詳説して合意が必須となる。十分に理解した参加者本人の自由意思に限り、治験参加は決断される。参加者はいつでも自由に治験から離脱でき、治験からの離脱で今後の治療や経済的制裁など不利益は一切生じないことが保証され、間接的な強制も許されない。
治験に関与する組織・職種
医療機関側

治験責任医師、治験分担医師、治験協力者などの種類があり、これらの業務を行うためには、治験毎にあらかじめ治験審査委員会の承認を得なければならない。
治験責任医師・治験分担医師
治験責任医師は、治験の実施に関して責任を有する医師または歯科医師である。治験と実施施設にそれぞれ一人を置く。1施設で3種類の治験を実施すると3人、1種類の治験を3施設共同で実施すると3人、それぞれで要する。治験分担医師は、治験責任医師の指導の下に治験に係る業務を分担する医師または歯科医師で、人数に上限はない。日本で保険医は、厚生労働大臣の定める医薬品以外の薬物を患者に施用し、又は処方してはならない(保険医療機関及び保険医療養担当規則第19条)とされているが、1996年(平成8年)4月の改正法施行により、治験の場合は同規定を適用しない旨が法文上明記された。同改正により治験に係る診療が特定療養費(2006年(平成18年)10月以降は保険外併用療養費)の支給対象となった[注 2]
治験協力者(治験コーディネーター、CRC:Clinical Research Coordinator)
治験責任医師又は治験分担医師の指導の下、治験業務に協力する者のこと。通常、看護師薬剤師臨床検査技師などの医療関係者が治験協力者となる。インフォームド・コンセント取得補助、治験のスケジュール管理、治験中の患者のサポート、症例報告書作成補助など、治験において治験協力者の担当職務は多い。
治験事務局
GCPに基づいて治験実施にまつわる様々な事務を担当する組織。医療機関の長により指名される。
治験施設支援機関 (SMO : Site Management Organization)
治験実施施設である医療機関と契約し、医療機関における煩雑な治験業務を支援する組織。
製薬企業(治験依頼者)側
開発業務受託機関 (CRO : contract research organization)
製薬企業における新薬の開発、特に治験実施に係る業務を代行する機関。
モニター (CRA : Clinical Research Associate)
治験が治験実施計画書や各種法令等を遵守し、科学的・倫理的に行われていることを確認するため、治験依頼者が任命する担当者。カルテなど、治験に関係する医療記録を閲覧することが認められており、被験者の人権、安全及び福祉が保護されていること、治験責任医師又は治験分担医師から報告された治験データが正確かつ完全であることを確認する義務を負う。医療機関と治験依頼者との情報交換は、ほぼ全てモニターを介して行われる。
二重盲検試験「ランダム化比較試験」も参照

治験では、被験薬の効果を検討するために、偽薬(プラセボ)やすでに効果が確認された薬剤などと比較する。被検者が、被験薬あるいは対照薬の何れが投与されているかを事前に認知すると、試験成績に影響する場合がある。これを防ぐために、何れが投与されているかを被験者に告知しない手法を単盲検試験と称する。

投与医師による先入観などを排除する目的で、被験者と投与医師ともに、被験薬と対照薬を認識させない手法を二重盲検(ダブルブラインド)と称する。

二重盲検試験を実施する場合、被験薬と対照薬は製造後(医療機関に納入される前)、治験依頼者から独立した第三者機関(割付責任者)にて、1名分(または1回分)ずつ、全く同じ外観のパッケージに入れられ、1個1個にそれぞれ固有の番号がつけられる。この作業が薬剤割付(わりつけ)である。薬剤番号と実際の中身との対応表は、割付の際に割付責任者が作成し、厳重に封を施した上で保管する。その後、この作業によって識別不能となった被験薬と対照薬が医療機関に納入され、ランダムに治験参加者に処方される。治験終了後、データがすべて集まり、データベースの変更ができないようにした状態(データ固定)で、はじめて治験依頼者が割付表を入手し、割付情報を開封(キーオープン)して結果の解析が行われる。

近年は盲検(ブラインド)の語を避ける事例も見られ、「二重マスク法」など称する。
問題点

連邦食品・医薬品・化粧品法は、1962年から薬剤の有効性の概念を設け、2回の適切な対照を置いた臨床試験によって有効性が示されれば承認される[12]


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