油絵具(あぶらえのぐ)は、顔料と乾性油などから作られる絵具で、油彩に用いられる。油絵具は乾性油が酸化することに伴い、分子構造が変化することにより定着する。
顔料を乾性油で練り上げた物は既に油絵具であると言えるが、市販の油絵具にはこの他に様々な物質を混入させている。また近年では、界面活性剤の添加により水による希釈、水性絵具や水性画用液との混合が可能な、可水溶性油絵具(英語版)も存在する。 油絵具は、顕色成分としての顔料と、乾性油を主成分とするバインダー(媒材、ビークル)から成る。理想を言えば媒材は乾性油のみということになるが、現実には顔料や乾性油を調整しなければならず、それぞれの絵具の乾燥速度を調整する目的で乾燥促進剤などの助剤が使われることが多い。この他に、調整の目的で形成助剤や樹脂などの助剤が添加される。ただしこれは使用者の利便に対する配慮でもある。特に日本国メーカーの製品は顔料や乾性油などを調整し初心者に対して配慮する傾向が強い。
組成
顔料「顔料」も参照
粒子径に関わる顔料の性質粒子径吸油量黄変性透明性光沢
大小小小小
小大大大大
顔料を構成する元素チタンの単体。硫黄の単体の形態の1つ。
顔料を構成する元素は様々である。組成に着眼して分類する場合、有機顔料と無機顔料に分類する場合が有る。有機顔料は分子構造中に炭素を含む化合物で、無機顔料は分子構造中に炭素を含まない化合物である。ただし、炭素を含む化合物の内、炭酸塩とシアン化物は例外であり、有機化合物には含まない。鉛白、炭酸カルシウム、紺青などは無機顔料である。
有機顔料には非金属元素のみからなる物もあれば、金属元素を含む物もある。有機顔料を構成する元素は有機化合物一般と同様、水素、炭素、窒素、酸素が主である。これ以外に、ハロゲンつまり、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素を分子構造中に含む有機顔料もある。硫黄を含む有機顔料もある。これらは全て非金属元素である。金属錯体顔料はこれら元素以外に、アルミニウム、ニッケル、銅などの金属元素を分子構造中に含む。
無機顔料は金属元素と非金属元素からなる。ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、カリウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、モリブデン、カドミウム、バリウム、水銀、鉛、ビスマスなどの金属元素と、酸素や硫黄、窒素、水素などの非金属元素からなる。
顔料の性質密度隠蔽力耐光性放射着色力鮮鋭性 以下、便宜的に白色顔料および黒色顔料と有色顔料に分けて説明する。 分光反射率
無機化合物大大大小小小
有機化合物小小小大大大
色彩と組成に着眼した分類
白色顔料および黒色顔料
(1) 白色顔料
チタン白現在専ら使用されるのはチタン白・Pigment White 6である。極めて生産量の多い顔料であり、白色顔料の中で最も高い白色度と屈折率を示す[1]。物性的に安定で油絵具のバインダーとも問題を起こし難い[2]。この他の候補として亜鉛華・Pigment White 4、鉛白・Pigment White 1がある。しかし、Pigment White 4は油絵具として使用した場合、乾性油と反応し亜鉛石鹸を生じることから亀裂や剥離、剥落を誘発する。そして、Pigment White 1は油絵具として使用した場合、乾性油と反応し鉛石鹸を生じることから、塗膜の老化を促進し、塗膜の透明化と強い黄変および変色という現象を誘発する。
(2) 体質顔料
炭酸カルシウムやアルミナホワイトが使用される。前者は屈折率が高いから透明性が低く、後者は屈折率が低いから透明性が高い。
(3) 黒色酸化物顔料
代表的な物として近年日本の絵具メーカーでも製品化が進んでいる複合酸化物顔料である、銅クロムブラック・Pigment Black 28が挙げられる。これ以外に絵具メーカーが製品化している物としては、鉄の酸化物顔料である、Pigment Black 11がある。Pigment Black 11は、チント時に褐色がかり鉄化合物に特徴的な色合いを帯びるので、注意を要する。厚みが少ないとき透明感が強くなってしまう炭素顔料と異なり、不透明性が高いので性質は異なる。
(4) 黒色炭素顔料
黒色の炭素同素体である不定形炭素が主である 。実際には炭素の単体ではなく、周辺部に酸素と水素が化合しており、これ以外に硫黄、灰分(鉄、アルミニウム、硅素など)を含む[3]。カーボンブラック・Pigment Black 7が最も黒色度が高く、印刷やタイヤなどに良く使用される。習作用油絵具などのセットにはボーンブラック・Pigment Black 9が良く採用されているが、木炭よりも大きな吸着性があり、日本などの湿度の高い地域では、成分の約90%を占める燐酸カルシウムが、黴の温床になるので適さない。発色成分の炭素は全体の10%程度しか含まれていない。肉骨粉に由来する問題のある製品であったことから、ようやく生産中止になった[4]。
(5) 黒色有機顔料
緑から紫といった色相の黒色有機顔料がある。アニリンブラック・Pigment Black 1、ペリレンブラック・Pigment Black 31などがある。アニリンブラックは、アクリジンの中央の6員環の水素と結合している炭素原子を窒素原子で置換したものと説明可能な構造が特徴的な、高い黒色度の顔料である。ペリレンブラックは、ペリレン顔料であり、高い耐久性を有する。
有色顔料合成ウルトラマリン
有色顔料と呼ばれ、主として色彩の顕在化に使用される、分光反射率が一様でなく特定の範囲が際立っているために色相が判明な顔料は、プロセスカラーやカラーフィルターに使用されるような顔料と同様である。例えば、Pigment Blue 15:3やPigment Blue 15:4、Pigment Red 122はそれぞれ、プロセスカラーのシアン、マゼンタとなる顔料であり、Pigment Orange 71[5]、Pigment Green 36[6]、Pigment Violet 23[6]はそれぞれ、カラーフィルターのレッド、グリーン、ブルーに配合されるような顔料である。様々な顔料が使用される。それぞれの顔料については後述する。
乾性油「乾性油」も参照乾性油の重合反応の概念的モデル。
乾性油は、元々は常温常圧で流動性を持つ液体の油脂ながら、空気中の酸素と化学反応を起こして、次第に重合して不可逆的に固化する。油彩には、リンシードオイル(フラックスシードオイル、アマニ油、亜麻仁油)、ポピーオイル(ケシ油、罌粟油、芥子油)、サフラワーオイル(紅花油)などを用いる。