汎用ヘリコプター
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ニュージーランド空軍のNH90

汎用ヘリコプター(英語: Utility helicopter)は、軍用ヘリコプターの分類の一つ。中型ヘリコプターがこれに該当する[1]陸上自衛隊では多用途ヘリコプターと呼称している。
概要

機体規模としては、輸送用として使った場合は1個分隊(10名前後)を搭乗させられる程度のものである。この程度の機体規模であれば、軽輸送ヘリボーン用以外にも、通常は小型ヘリコプターによって行なわれるような任務にも容易に投入可能であり、このことから汎用と称される[1]

汎用ヘリコプターが投入される任務としては、主に下記のようなものがある。

軽輸送(Slick)

武装攻撃(Gunship)

負傷者後送 (CASEVAC) / 医療後送 (MEDEVAC)

連絡(Liaison)

観測(Observation)

機内は操縦席以外には何もなく、任務に合わせて搭載される装備が変わる。
アメリカ
陸軍・海兵隊

アメリカ陸軍が最初に汎用ヘリコプター(HU)の機種記号を付与した機体がHU-1 イロコイ1962年の命名法改正に伴いUH-1に改称)であった。この機体は、折からのベトナム戦争において、上記の各種任務に幅広く投入され、HU-1の1を英文字のIと見做した「HUI=ヒューイ」という愛称で広く親しまれた。また、本格的攻撃ヘリコプターとしてAH-1 コブラを開発した際には、本機がベースとされた。

しかしUH-1は、完全装備の小銃分隊を収容できないなど、性能に若干の不足があったため、アメリカ陸軍は、ベトナム戦争中より、UTTAS(汎用戦術輸送機システム)構想の検討を開始した。1972年、UTTAS構想が各社に対して提示され、シコルスキー・エアクラフト社のYUH-60ボーイング・バートル社のYUH-61が候補機として選定された。比較テストの結果として、1976年、YUH-60がUH-60 ブラックホークとして採用された[1]

一方、アメリカ海兵隊においては、汎用ヘリコプターは陸軍よりは海軍に近い運用法がなされており、主として連絡観測救難・武装攻撃に投入された。水陸両用作戦の性格上、航空輸送の所要量が大きいこともあって、軽輸送用途には、HUS-1(CH-34)の後継として採用された輸送ヘリコプターであるHRB-1(CH-46)が投入され、これが半ば汎用ヘリコプターとして広く使用された[2]1970年には、カナダ軍向けに開発されていたUH-1の双発版であるベル 212UH-1N ツインヒューイとして採用したほか、2009年より、さらに改良したUH-1Y ヴェノムによる更新が開始された。

UH-1H

UH-60M

UH-1Y

海軍「LAMPS」も参照

アメリカ海軍においては、陸軍のような軽輸送ではなく、航空母艦艦上での連絡救難を主任務として汎用ヘリコプターを定義しており、HUないしHJの機種記号を付与していた。ただし現在では、哨戒ヘリコプターLAMPS機が広く配備されたことから、これらの機体に代替されて、汎用ヘリコプターという種別そのものが消滅している。

なお、LAMPSは「多目的」(Multi-Purpose)と定義されているが、これは、従来の汎用ヘリコプターの任務に加えて対潜・対水上戦闘任務が加わったことをあらわしており、従来の「汎用」とは異なるものである[2]
空軍

アメリカ空軍の保有機材は、基本的に固定翼機に限定されているが、少数の回転翼機も運用している。これらは、汎用ヘリコプターや練習ヘリコプター、また、ヘリコプターの特性を生かした特殊な輸送ヘリコプター(クレーン・ヘリコプター)である。

空軍の汎用ヘリコプターは、基本的に連絡救難を目的とした非武装機であり、飛行場射場などの空軍基地に少数機ずつ配備されている。空軍には戦闘捜索救難(CSAR)の専門部隊が設置されているため、汎用ヘリコプターによる救難範囲は、基地の周辺におおむね限定される。機材としてはUH-1N ツインヒューイが使用されてきたが、老朽化・陳腐化に伴い、2000年代に入ると更新が図られることになった。当初はCVLSP(Common Vertical Lift Support Platform)として戦闘捜索救難(CSAR)ヘリコプターとの共通化が検討されていたが、CSARヘリコプターとして大型のチヌークが選定されたこともあって、後に切り離された[3]。変遷を経て、2017年7月に「UH-1N代替計画」について最終提案要求が行われ、2018年9月、MH-139Aの購入契約が締結された[4]。なおこれらとは別に、周囲を高い山に囲まれたエリア51の警備用のみ、高高度飛行能力が買われて、陸軍のHH-60MをベースとしたHH-60Uが用いられている[4]
イギリス

イギリス陸軍では、陸軍航空隊は汎用ヘリコプターより大型のヘリコプターを保有せず、ヘリボーン作戦時にはイギリス空軍の輸送ヘリコプターを使用する。汎用ヘリコプターとしては、1960年からはウェストランド スカウト1974年からはさらにウェストランド ガゼル AHが運用されるようになったが、これらはいずれも非武装で、搭載量も少なかった[1]

1977年より陸軍航空隊は、対戦車攻撃用としてアグスタウェストランド リンクスAHの受領を開始したが、これは単なる武装ヘリコプターに留まらず、汎用ヘリコプターとして幅広い任務に従事している[1]

一方、イギリス海兵隊は固有の航空部隊を持たないが、上級部隊であるイギリス海軍艦隊航空隊ウェストランド・コマンドゥ HC.4輸送ヘリコプターとリンクス AH.7汎用ヘリコプターを保有する[2]
ソビエト連邦

ソビエト連邦軍においては、地上軍ヘリコプターを運用せず、ヘリボーン作戦などを実施する際には、空軍の機体と協同することとされていた。東側諸国は規模の違いはあれ、概ね、このようなソ連式の運用を手本にしていた。

ソビエト連邦の崩壊後、ソビエト連邦軍を引き継いだ各国軍においても、これらの方針は踏襲されたが、国によってはヘリコプター部隊の主力は陸軍へ移管されたり、海軍基地所属の部隊が空軍へ移管ないし廃止されたりしている。
空軍Mi-8S(ポーランド軍機)


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