氷河湖決壊洪水
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2002年5月20日、アラスカ州ハバード氷河がギルバート岬の方向へ流れ込んだ時の写真。氷河は、写真上部のラッセルフィヨルドから写真下部のディスエンチャントメント湾までをほぼ封鎖している。

氷河湖決壊洪水(ひょうがこけっかいこうずい、: glacial lake outburst flood、GLOF)とは、氷河端堆石(エンドモレーン)のダムに支えられた氷河湖が決壊することによって起こる洪水のこと。氷河底湖 の決壊による場合は特にヨークルフロイプ (アイスランド語: Jokulhlaup ) と呼ばれ、氷河の側面と山の間にできた氷河湖が決壊した場合は辺湖排水と呼ばれる。氷河湖決壊洪水は、侵食水圧の上昇・岩石や重い雪崩地震氷震: cryoseism、凍土のひび割れによって起こる揺れのこと)・氷の下での火山活動などが原因で起こり、また氷河が大きく崩落して氷河湖の水を溢れさせた場合にも起こり得る。
監視2002年8月14日、歴史上2番目に大規模な氷河湖決壊洪水が起こったハバード氷河。

国際連合は、氷河湖決壊洪水の危険が予測される地域の人的・物的損害を防ぐために一連の調査活動を行っている。20世紀を通しての、人口の増加・氷河融解に伴う氷河湖の増加により、問題はさらに重要性を増している。氷河が存在する全ての国々に存在する問題であるが、特に中央アジア南アメリカアンデス地域、アルプス山脈の氷河をもつヨーロッパ各国などが特に危険性の高い地域として認識されている[1]

氷河湖決壊洪水の危険がある地域は世界中に数多く見つかっている。ロールワリン峡谷(英語版)(ネパール語: ?????????? ?????) のツォ・ロルパ(英語版)氷河湖はカトマンズの北東約110キロメートル、標高4850メートルに位置しており、高さ150メートルの不成層終堆石によってせき止められている。ツォ・ロルパ氷河湖はトラカルディング氷河 (: Trakarding glacier) の融解・縮小に伴って毎年拡大を続け、およそ9千万から1億立方メートルの水を蓄える、ネパールで最大かつ最も危険な湖になっている[2]
事例
アイスランドスカフタフェットル国立公園に残る、氷河湖決壊洪水により破壊された橋の残骸。

最も有名な氷河湖決壊洪水は、ヴァトナヨークトル氷河 の氷層崩壊による大規模ヨークルフロイプである。アイスランド語: Jokulhlaup が英語に取り入れられたのも、アイスランド南部がこの災害の被害をしばしば受けていたためである。1996年の事例では、ヴァトナヨークトル氷河のグリムスヴォトン (アイスランド語: Grimsvotn) 湖群の地下の火山が噴火し、スケイザルアゥ (アイスランド語: Skeidara) 川がスカフタフェットル国立公園 (アイスランド語: Skaftafell) の手前の地域に氾濫した。このヨークルフロイプの流量は1秒あたり45,000立方メートルに達し、国道1号線(リングロード)の数か所を破壊した。氾濫後、氷河の流れに取り残された高さ10メートルの氷山もいくつか見られた。グリムスヴォトン火山(ヴァトナヨークトル氷河の中央付近)周辺を流れた水の最大流量はミシシッピ川の流量を超えた。同様の決壊は1954年1960年1965年1972年1976年1982年1983年1986年1991年、1996年に起こっている。1996年には、噴火によって3立方キロメートルの氷が溶解し、1秒あたりの流量は最大6,000立方メートルに達した。「ミールダルスヨークトル氷河」も参照
アラスカ

ヨークルフロイプの中には1年ごとに起こるものもある。クニック川 (: Knik River) 近くのジョージ湖(ドイツ語版)は、1918年から1966年までの毎年大きな洪水を起こしている。1966年以降は氷河が後退して氷のダムが形成されなくなったが、もしも氷河が拡大して谷を遮るようになった場合、ジョージ湖は毎年の洪水を再開する可能性がある (vid. Post and Mayo, 1971)。

アラスカ南東部にある二つの地域では、ほぼ毎年氷河湖決壊洪水が起こっている。そのうちの一つがアビス湖である。ジュノー近くのタルセクア (: Tulsequah) 氷河が関わる洪水により、近郊の空港滑走路はしばしば浸水する。また近くにある40軒の山小屋はこの洪水の被害を受ける危険があり、いくつかは実際に大きめの洪水による被害を受けている。ハイダー(: Hyder:アラスカ南東部の都市)付近のサーモン氷河からの洪水により、サーモン川近辺の道路に被害が出ている[3]
アメリカ本土

先史時代(最終氷期終盤)、北米コロンビア川流域においてミズーラ洪水と呼ばれる大規模な連続氷河湖決壊洪水が起こった。これは現在でいうモンタナ州における氷のダムが定期的に決壊したために起こったもので、流出した水は現在ミズーラ氷河湖として知られている。

最終氷期の間に、アガシー氷河湖からウォレン氷河への洪水が起こった。ウォレン氷河の跡には現在、ミネソタ川が緩やかに流れている。ウォレン氷河は、融解した氷河をちょうど現在でいうミシシッピ川上流へと運んだ。北アメリカ大陸の無漂礫土地域(英語版)(最終氷期に氷に覆われなかった地域、主に合衆国中西部の氷河の痕跡である漂礫岩が無い地域を指す)も、最終氷期全体を通して起こったグランツバーグ氷河湖やダルース氷河湖の決壊洪水に関連している。

2003年9月6日から10日にかけて、ワイオミング州ワインドリバー山のグラスホッパー氷河で氷河湖決壊洪水が起こった。


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