水銀電池
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水銀電池の典型的形状。写真はロシア製のРЦ-53М(RTs-53M、1989年製)、РЦ(RTs)はРтутно-цинковый(Rtutno-tsinkovyi、水銀=亜鉛)の略である。

水銀電池(すいぎんでんち)は、消極剤として酸化水銀を用いた乾電池一次電池)である[1][2]。水銀乾電池(すいぎんかんでんち)、酸化水銀電池(さんかすいぎんでんち)、ルーベン電池(ルーベンでんち)、RM電池(アールエムでんち)とも[1][2]起電力約1.3ボルト[2]

小型・軽量であり、写真機小型映画用の撮影機時計補聴器等に使用されたが[2]、環境汚染の問題から、1996年(平成8年)にアメリカ合衆国で禁止されたほか、多くの国で禁止され、現在はほとんど使用されていない[3]
略歴・概要

酸化水銀・亜鉛電池システムはすでに100年以上前に知られていたが[4]、1942年(昭和17年)にP・R・マロリー商会(現在のデュラセル)の共同設立者・科学者であるサミュエル・ルーベン(英語版)が安定した水銀電池を開発したことにより、金属探知機弾薬、およびトランシーバーといった軍用機材に有効活用され、初めて広く使用されるようになった[5] 。「ルーベン電池」と呼ばれるのは発明者の名から、「RM電池」は「ルーベン・マロリー電池」の略である。

特性が優れているため、古くからボタン型電池として、1970年代までのカメラ露出計や電子シャッターなど)や補聴器用などに広く用いられてきた。1970年代に入ると、空気亜鉛電池が登場し、市場での地位は、その安全面と性能から急速に変化した[3]

地球環境保護の観点から水銀の使用を廃止する傾向にあり、日本では、1984年(昭和59年)に当時の厚生省通商産業省(現在それぞれ厚生労働省経済産業省)が要請し、業界団体が水銀電池の回収強化や代替製品の研究を推進、1995年(平成7年)に製造中止した[6]。欧州もRoHSにて5ppm以上の水銀を含有する電池の流通を規制している[7]、これらの国々では、市場にはほとんど流通しておらず入手は困難である。

中国や発展途上国では製造、輸出が行われており広く流通しているため、輸入品の電池については注意が必要である。

使用済みの水銀電池は、小売店や自治体により回収されリサイクルされるものがあるが、対応はまちまちである。
原理水銀電池の断面図。電極が鉄、側面を覆うのが亜鉛、内部には酸化亜鉛溶液が充填されている。

正極に酸化水銀(II)、負極に亜鉛電解液として水酸化カリウムに酸化亜鉛を溶解した溶液を用いる。

純粋な酸化水銀(II) (HgO) または HgO と二酸化マンガン(MnO2)の混合物を陰極として使用する。酸化水銀は不導体であるため、グラファイトが混合されている。グラファイトは水銀が大きな液滴に集まるのを防ぐ役目もしている。カソードでの半反応式は以下の通りになる。 HgO + H 2 O + 2 e − ⟶ Hg + 2 OH − {\displaystyle {\ce {HgO + H2O + 2e- -> Hg + 2OH-}}}

標準電極電位は +0.0977Vになる。

アノードは亜鉛(Zn)でできており、電解質を染み込ませた紙またはその他の多孔質材料の層からなる塩橋でカソードから分離されている。アノードでは2つの半反応が発生する。1つ目は電気化学反応が起きる。 Zn + 4 OH − ⟶ Zn ( OH ) 4 2 − + 2 e − {\displaystyle {\ce {Zn + 4 OH- -> Zn(OH)4^2- + 2e-}}}

その後に化学反応が続いて起きる。[8] Zn ( OH ) 4 2 − ⟶ ZnO + 2 OH − + H 2 O {\displaystyle {\ce {Zn(OH)4^2- -> ZnO + 2OH- + H2O}}}

全体的なアノード半反応は次のようになる。[8] Zn + 2 OH − ⟶ ZnO + H 2 O + 2 e − {\displaystyle {\ce {Zn + 2OH- -> ZnO + H2O + 2e-}}}

水銀電池の全体的な反応は以下の通りになる。 Zn + HgO ⟶ ZnO + Hg {\displaystyle {\ce {Zn + HgO -> ZnO + Hg}}}

見方を変えれば、放電中は亜鉛が酸化されて酸化亜鉛(ZnO)になり、酸化水銀は還元されて水銀になる。寿命末期の水素ガスの発生を防ぐために、少量の酸化水銀がセルに含まれている。

電解液には水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムが使用される。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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