水道哲学とは異なります。
筆算の授業で使われる「タイル」。百と十は裏返すと下のようになっている。「裏返すと上位の単位のひとかたまりになる」という方法は鈴木筆太郎が1907年に初めて考案した[1]。
水道方式(すいどうほうしき)とは、計算方法の最も基礎的な概念・手順を効率よく理解させるための理論である。1958年頃に数学者の遠山啓・銀林浩が中心となり、「暗算よりも筆算を基本的で発展性のある計算方法」として提唱した[2]。水道方式ではタイルという正方形のマスで位取りを理解させる。「タイルを使った位取り指導」には大正新教育運動時代の田籠松三郎[3]や鈴木筆太郎[4][5][6]の先行研究[注 1]があり、遠山らもこれらと独立にタイルを採用した[7]。水道方式ではタイルを使うだけでなく「計算の型分けによる効率的なドリル」を提唱した[2]。水道方式の語源は最も基本的な「計算の素過程」を練習した後、最も一般的な型を「水源地」とし、「一般から特殊へ」の原則に基づいて型分けによるドリルを教えていく流れを「水道管の分岐や流れ」に模して遠山らが名付けた[8][注 2]。 といった多様なものを含めた包括的な教育法であるが、ときに誤解されている。 水道方式では1を正方形の小さな四角で表し、これを「タイル」[注 3]と呼ぶ。1のタイルを10個縦に並べて作った長方形を十とし「十が1本」と数える。1辺10個の正方形を100個のタイルで作ると百の塊を表せ、これを「百が1枚」と数える。たとえば「234」は「2枚3本4個」となる。[11]。 遠山はタイルの優れている点として、「正方形のタイルはつないだり切ったりが容易で、バラバラな量だけでなく、つながった量、つまり連続量も容易に表すことができる」、「1つのタイルを分けていくと分数と小数もタイルで表すことができる」という点を挙げている[12]。 遠山啓は「位取りを教えるのに重要なのは(空位を表す)0の理解である」と考えた。位取りの原理を教えないと「なぜ13を103と書いてはいけないのか」が子どもに理解できない[13]とした。 同時に「0」は「その位にあった数がなくなった状態」と教える。子どもに0を理解させるには「容器を添えて数を理解させて、0を空っぽの容器で表す」とした[14]が、0には「割切れた場合の余りとしての 0」としての解釈もあるので、慎重な扱いが必要である。 和算では、算木および算木を並べる「算盤」(マス目を書いた紙・布・板)を使う。算木には正数を表す赤い算木と、負数を表す黒い算木の2種類がある。いわゆる列(行列式では「行」に当たる)、伍(同じく列。「カラム」に当たる)があるので、遠山は「タイルによる指導」から「位取り」を経て算盤の指導を行い、そこから珠算に至るルートを考えていたらしいことが著作から窺われる。 なお、教師による指導用の十露盤においては「五珠が二個・一珠が五個というものもあっていいのではないか、という意見もあり、遠山も否定はしていない。」 水道方式の特徴は筆算中心の計算指導方法[注 4]にある。遠山は暗算ではせいぜい3桁が限界であるが、筆算なら記憶の必要もなく可能性は無限大で、確実に答えが出て、検算もできるとして、水道方式では筆算をできるだけ早く教えると主張した[注 5]。筆算で易しいことから初めて、計算に慣れたら段々書かなくてもできるという方向へ持って行けばよい、暗算は省略された筆算だと教えればよいとした[17]。筆算中心のやり方は子どものエネルギーを計算練習の中で消費せずに済み、余力を他のことに使えると主張した[18]。 遠山が水道方式の計算指導の原則としてあげたのは、「一般から特殊へ」の原則に基づく次の3つである。 遠山は数多くある計算パターンをどのように分類し、どのように配列するかという問題に原則を作った。たとえば「3桁の足し算」は「0+0」から「999+999」までの百万通りあるが、これを として分類している[20]。このとき、「二桁数+二桁数」「二桁数+三桁数」「三桁数+二桁数」などをどの段階で指導するか、といった悩みはある。 水道方式の計算練習問題は多数でありうるので、全てを例示することには無理がある。そこで、「一般から特殊へ」という原則に基いて、「型分け」を行ってからパターンを一つずつ潰してゆくということを行う。 足し算の素過程は「0+0」「0+1」から「9+9」まで100通りあるが、「0+0」「0+1」「0+2」や「1+0」「2+0」など自然数ではないものを除くと 81 通りになる。 これを、五・二進法を併用して「一般から特殊へ」の順番に並べると、 「足して五未満になる一位数」「足して五になる数」から枝分かれして繰り上がりや空位の0などの指導に結びつけてゆく。 具体的には といった基礎を押さえる。次に「5と5を足すと繰りあがりが生じる」というところから「空位の0」を導入し、 これを「五・二進法」というが、日本語では「ひと⇒ふた」「み⇒む」「よ⇒や」といった倍数関係に関する音韻調和もあるため、指導においては併用される。 とはいえ、若干くだくだしいという批判もあるので、 となり、これを順番に練習させる流儀もある。練習に使用する数字は「2と9」を用いるので、「2-9分類法」(「2+2」「2+9」「9+2」「9+9」)と呼ぶ[21]。 素過程や型分けの練習はタイルと対応させて、必ず筆算の形で縦に積み上げる方法で書かせる[22]。例えば、200+300は、 200 + 300 {\displaystyle {\begin{array}{rr}&200\\+&300\\\hline \end{array}}} 同様に、234+352は、 234 + 352 {\displaystyle {\begin{array}{rr}&234\\+&352\\\hline \end{array}}} と書かせる。 3位数+3位数を例に、足し算の原理を考える。図のように356+123をタイルで表す。タイルを見れば分かるように、足し算の答を求めるには、タイルの小さい方から「個数」「本数」「枚数」を足し算すればよい[23]。 タイルを数字に置き換えると、「一の位」「十の位」「百の位」に対応している。それぞれの位を足し算すれば答が求まる。これは小さい位から「6+3」「5+2」「3+1」という3つが組み合わさったものである。つまり「356+123」の計算は、「1けた+1けた」の計算が組み合わさったものと考えることができる。どんな大きな数の足し算でも、このような「1けた+1けた」の計算に分解される。このような基本的な足し算の操作を「素過程」と呼ぶ。素過程は足し算の基礎となるので、「基礎暗算として」徹底的にマスターさせねばならない[24]。
概要
命名について
一般から特殊へ
タイルのシェーマ
五・二進法
1あたり量
量の理論(内包量と外延量)
カンヅメとビンヅメ
筆算重視
タイルによる10進法の教授法
空位の「0」の重視
筆算中心の計算体系
複雑な思考過程や演算の過程を、まずもっとも単純な過程?素過程?に分解する。
素過程を複合して最も一般的で典型的な複合過程?水源地?を設定する。
典型的な複合過程をしだいに特殊化し。退化させていって、あらゆる場合におよぼす。[19]
計算問題の分類方法
繰り上がりの出てこないものを最初にやる。
「0」が出てくるものは後回しにする。
標準型から少しずつ型崩れの問題に移ってゆく。
指導方法の概略
一位の自然数の足し算
足して五未満になる数 (1+1=2, 1+2=3, 1+3=4, 2+1=3, 3+1=4)
足して五 (V) になる数 (1+4=5, 2+3=5, 3+2=5, 4+1=5)
五と五以上の数の和で繰り上がりが生じるもの
五以上の数どうしの和によって繰り上がりが生じるもの
五未満の数と五以上の数の和において繰り上がりが生じないものといった (1+5=6, 1+6=7, 1+7=8, 1+8=9, 2+5=7, 2+6=8, 2+7=7, 3+6=9)「型崩れ」問題の正誤によって「どこで躓いたのか」を明らかにする。
繰り上がりの無い場合。
加数が0の場合。
被加数が0の場合。
加数と被加数の両方が0の場合。
繰り上がりがあって和が2けたの場合。
繰り上がりがあって和が10になる場合。
整数の足し算
(1)計算は筆算の形で行わせる。
(2)素過程による計算の原理
水道方式のタイルを使った足し算の素過程の教授法
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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