水平対向エンジン
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ピストンの動き(6気筒の場合)
左: 180度V型、右: ボクサー型ボクサーエンジン(上)と180度V型エンジン(下)のアニメーションボクサーエンジンの動作(2気筒)

水平対向エンジン(すいへいたいこうエンジン、: Horizontally-opposed cylinder engine)または水平対向機関は、レシプロエンジンの形式の一つで、1本のクランクシャフトをはさんでシリンダー(気筒)を左右に水平に配置し、対になるピストン同士が必ず向かい合うように下降または上昇するエンジンである[1]。ボクサーエンジン(boxer engine)やフラットエンジン[注釈 1](flat engine、平たいエンジン)とも呼ばれる。

最も一般的な水平対向エンジンは、向かい合うシリンダー中でピストンが180度位相で運動するボクサー型[2]である。気筒配置や外形の似たエンジンとして、左右の向かい合ったシリンダーがクランクピンを共有する180度V型がある(詳細は後述)。なお、外観上から水平対向エンジンであるか180度V型エンジンであるかを識別することは、極めて困難である。

日本産業規格(JIS)は水平対向機関を「2列のシリンダーバンク(英語版)を、クランク軸の両側に対向して配置した機関」[3]と定義する(JISB0108-1:1999、番号12.10)。国際標準化機構(ISO)による定義も同様である[4]。この定義はボクサー型と180度V型の両方を含む。一方で、ドイツ工業規格(DIN)は "Boxermotor" を「2列のシリンダーが対向している1つの平面内のシリンダー配置。クランクシャフトはシリンダーごとにクランクピンを持つ。」と定義する(DIN-Norm 1940)[5]。この定義はボクサー型のみを含む。

米国自動車技術者協会(SAE International)が出版しているDictionary of Automotive Engineeringでは以下のように用語が解説されている[6]
フラットエンジン(flat engine)
シリンダーが水平面内に配置されたエンジン、特に水平方向に対向して配置されたエンジン。
水平対向エンジン(horizontally opposed engine)
クランクシャフトの両側にシリンダーが水平に配置されているエンジン。
ボクサーエンジン(boxer engine)
水平対向エンジンのこと。砕けた表現。

180度V型を水平対向と呼んでいる例としては、フェラーリが自社の180度V12エンジンを「水平対向12気筒 (12 horizontally opposed cylinders)」と説明していたり[7]SUBARUが開発した180度V12エンジン(英語版)を同じく「水平対向12気筒」[8]と記している例が挙げられる。また、フェラーリが180度V12エンジン搭載車である365GT4BB512BBのようにBB(=「ベルリネッタ・ボクサー」)と用いた例もある[9]

以下本項では、「ボクサーエンジン」と「180度V型エンジン」とを区別して呼び、JIS規格にならいこれらを総称して「水平対向エンジン」と呼ぶことにする。
名称

水平対向エンジンの左右対称なピストンの動きが、ボクシング選手がグローブを打ち合わせる様子を思わせることからボクサーエンジン (Boxer engine) と呼ばれる[10]。また、2本のクランクシャフトの間で1シリンダー内のピストン2個が対向する「対向ピストンエンジン」と区別するため、対向シリンダーエンジンとも呼ばれる[11]。日本語の「水平対向エンジンおよび180°V型エンジンの総称」に対応する北アメリカでの呼称は「flat engine」(平らなエンジン)である。富士重工業(現SUBARU)では水平対向エンジンの英訳として、レオーネおよびそれ以前のエンジンに対して「FLAT-4」をあてていた。その後、レガシィ以降は「flat engine」や「BOXER[注釈 2]」を採用している。
設計スバルの水平対向6気筒エンジンのカットモデル

水平対向エンジンの利点は、全長が短いこと、重心が低いこと、表面積が大きく空冷に適していることである。

4気筒以下のエンジンで最も一般的なレイアウトである直列エンジンと比較して、ボクサーエンジンはプライマリー・バランスに優れ、その結果、振動が少なくなるが、幅が大きくなり、シリンダー・ヘッドを2つ持つ必要があるという欠点がある[注釈 3]。6気筒以上のエンジンで最も一般的なレイアウトであるV型エンジンとの比較では、ボクサーエンジンは重心が低く、6気筒ではV6エンジンよりも一次振動は少ないが、通常は幅が大きくなる。

2つのシリンダーで一対となるため、必ず偶数気筒数のみとなる。12気筒では、180度V型でも一次偶力を相殺できること[注釈 4][13]、また、向かい合うシリンダーとクランクピンを共用できるため位相をずらすためのクランクウエブが不要で、クランクシャフトの全長と剛性でボクサー構成よりも有利である[14]ことから、あえてボクサー構成を採用する必要がない。クランクケースの圧力の関係で高回転に有利な点でも、180度V型レイアウトはレース用エンジンにより適している[14]
水平対向2気筒
主にオートバイで使用される。1960年代までは、小型航空機、小型車などでも使用された。
水平対向4気筒
最も一般的な用途は小型航空機用エンジンである。その他いくつかのメーカーの自動車やオートバイに用いられている。
水平対向6気筒
主に乗用車に使用されるが、オートバイや小型航空機、飛行船に使用されることもある。
水平対向8気筒
主に1960年代のポルシェのレーシングカーで用いられた。小型航空機でも使用される。
水平対向10気筒
1960年代にシボレーでロードカー用のエンジンが試作されたが、生産に至っていない。180度V型レイアウトが西ドイツ戦車に使われた。
水平対向12気筒
180度V型レイアウトが1960年代と1970年代に様々なレーシングカーで使われた。その他、大型バスや鉄道車両でも使われた。
水平対向16気筒
1960年代から1970年代にかけて、コベントリー社とポルシェ社によって、プロトタイプのレーシングカー用エンジンが製造されたが、生産には至っていない。
ボクサー型

水平対向エンジンの多くは、対向する一対のピストンが同時に内向きと外向きに動き、まるでボクシングの選手が試合前にグローブを合わせてパンチするような動きをする「ボクサー構成」を採用している[15]。ボクサーエンジンでは、対になる気筒間のクランクシャフト位相角を180°(クランクピンが対称の位置)としてピストンとコネクティングロッドを軸対称に動作させる。これにより対の気筒同士が振動を打ち消しあうため、直列型などの他形式エンジンと比較して格段に低振動となる。そのためボクサーエンジンには、往復する部品の重量を釣り合わせるためのバランスシャフト[16]クランクシャフト上のカウンターウエイトが必要ない。しかし、6気筒以下のボクサーエンジンの場合、クランクシャフトに沿ったクランクピン間に距離があり、各気筒が対向する気筒からわずかにずれているため、揺動偶力が発生する[15]
180度V型フェラーリ・テスタロッサの180度V型12気筒エンジン

外観上から水平対向エンジンであるか180度V型エンジンであるかを識別することは極めて困難である[注釈 5]ものの、実際には内部構造(クランク・シリンダー形式)や動作特性(振動など)は「ボクサーエンジン」と「180度V型エンジン」とは別のものである。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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