気管挿管
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気管挿管
治療法
ビデオ喉頭鏡の一種である、グライドスコープで喉頭展開を行いつつ、挿管困難を呈している 病的肥満(英語版)の高齢者に、麻酔科医が挿管している。
ICD-9-CM ⇒96.04
MeSHD007442
OPS-301 code ⇒8-701
MedlinePlus003449
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気道確保 > 高度な気道確保 > 気管挿管

気管挿管(きかんそうかん、: Tracheal intubation)は、通常、単に挿管(: intubation)とも呼ばれ、気道を確保するため、または特定の薬物を投与するための導管として使用するために、気管に柔軟なプラスチックチューブを挿入することである。重傷の患者、病気の患者、全身麻酔中の患者に頻繁に行われ、機械換気を含む肺の換気を容易にし、窒息や気道閉塞を阻止するために行われる。用語としては気管内挿管(endotracheal intubutation)とも呼ばれる[注釈 1]
概要

最も広く行われているのは経口気管挿管で、気管チューブを口と声帯を経て気管に通す。経鼻気管挿管では、気管チューブを鼻と声帯から気管に通す。その他の挿管方法としては、輪状甲状靱帯切開(ほとんど緊急時にのみ行われる)、気管切開(主に長期間の気道確保が必要と予想される場合に行われる)があり、手術侵襲を伴う。

気管挿管は侵襲的で不快な手技であるため、通常、全身麻酔薬神経筋遮断薬の投与後に行われる。しかし、意識下の患者にも局所麻酔表面麻酔を使用して挿管可能であり、緊急時には麻酔を全く使用せずに行うことも可能である。通常、喉頭鏡気管支鏡ビデオ喉頭鏡などを用いて声帯を確認し、声帯の間のチューブを食道ではなく気管に通す。喉頭鏡を用いて声帯を視認することは喉頭展開(: laryngoscopy)と呼ばれる[1][注釈 2]気管咽頭口腔それぞれの軸は角度をなしており、さらに喉頭蓋が文字通り気管の蓋の役割を果たしているために、通常、口腔からは気管挿管のターゲットである声門は見えない。気管挿管時に行う喉頭展開とはこの軸の角度を強制的に鈍角に近づけ、なおかつ気管の蓋となっている喉頭蓋を展開して、口腔から声門を直接見えるようにすることである[2]。声門を可視化するために、他の機器や手技が用いられることもある。挿管訓練用のマネキンで喉頭展開を行っている。

気管挿管後、通常は、チューブ固定を補助し、呼吸ガスの漏れを防ぎ、気管・気管支(英語版)を胃酸などの望ましくない物質から保護するために、チューブの先端のすぐ上にある風船状のカフを膨らませる。その後、チューブを顔や首に固定し、Tピース、呼吸回路(英語版)、バッグバルブマスク、または人工呼吸器に接続する。人工呼吸の補助や気道の保護が必要なくなったら、気管チューブを抜く。これを抜管(: extubation)という。輪状甲状腺切開や気管切開などの外科的気道の場合は抜去(: decannulation)と呼ばれることもある。

何世紀にもわたって、気管切開が気管挿管の唯一の信頼できる方法と考えられてきた。しかし、気管切開で助かる患者は少数であったため、医師が気管切開を行うのは、死にかけた患者に対する最後の手段であった。しかし、19世紀後半になると、解剖学生理学病気の病原体説の理解が進み、この手術の成績が向上し、治療法の選択肢として認められるようになった。また、当時は内視鏡の性能も向上しており、手術によらない経口経気管的な気道確保の手段として、直接喉頭展開が有効な手段となっていた。20世紀半ばには、気管切開、内視鏡、非外科的気管挿管は、ほとんど行われない手技から、麻酔科学集中治療医学救急医学、喉頭科学(英語版)の診療に不可欠な要素に発展したのである。

気管挿管は、歯の破損や咽頭組織の裂傷などの合併症を伴うことがある。また、胃の内容物を肺に誤嚥すると、重症でときに致命的な化学的誤嚥性肺炎を引き起こしたり、食道への挿管が見落とされると致命的な 低酸素症に至る可能性もある。このため、気管挿管を行う前に、異常な気道解剖学的構造または他の制御不能な因子の存在による挿管困難または合併症の可能性を慎重に評価する。また、気道を確保するための代替策を常に用意しておく必要がある。ちなみに、挿管困難(: difficult intubation)ないしは困難気道: difficult airway)とは挿管ないしは気道確保が困難であることを意味する医学用語である[3]。気管チューブが誤って食道に留置されることを食道挿管、気管チューブが気管に深く入りすぎてどちらかの気管支に留置されることは片肺挿管と呼ぶ。



適応

気管挿管は、病気や医療行為によって、気道確保、呼吸、血液の酸素飽和度維持ができなくなった場合に、さまざまな場面で適応となる。このような状況では、単純フェイスマスク(英語版)を用いた酸素吸入では不十分である。
全身麻酔・意識レベル低下

気管挿管の最も一般的な適応は、全身麻酔において、亜酸化窒素吸入麻酔薬を投与するための導管を設置することであろう。全身麻酔薬オピオイド神経筋遮断薬は、呼吸抑制ないしは無呼吸を生じることがある。全身麻酔中に気道を確保する唯一の手段ではないが、気管挿管は酸素供給と換気の最も確実な手段であり[4]、胃内容逆流や肺への誤嚥に対する最大の防御となる[5]

脳への損傷(重度の脳卒中、 非貫通性頭部外傷(英語版)、薬物中毒毒物など)により、意識レベルが低下する(英語版)ことがある。これが昏迷昏睡Glasgow Coma Scaleのスコアが8未満と定義される)に至るまで重症化すると[6]、気道周囲の筋肉の動的虚脱によって気道が閉塞し、肺への空気の自由な流入を阻害されることがある。さらに、咳や嚥下などの気道保護反射が減弱または消失することもある。気道の開存性(閉塞が相対的にないこと)を回復し、胃内容物の肺誤嚥から気管・気管支(英語版)を保護するために、気管挿管がしばしば必要となる[7]
低酸素症

呼吸が不十分であったり(低換気)、停止している状態が長く続いたり(呼吸停止)、肺拡散能(英語版)低下のために、低酸素血症酸素飽和度低下を生じている患者には、挿管が必要な場合がある[8]。 このような患者は、覚醒している場合もあるが、典型的には多臓器疾患や多発外傷を持つ重篤な患者である[4]。このような患者の例としては、脊髄損傷フレイルチェスト肺炎急性呼吸窮迫症候群 (ARDS)、溺死寸前の状態などが挙げられる。具体的には、吸入酸素濃度(FIO2(英語版))が50%以上の酸素吸入を受けていても、血液ガス分析で動脈酸素分圧(PaO2)が60mmHg以下の場合に挿管を考慮する。高炭酸ガス血症(英語版)の患者では、アシデミアの状態で動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)が45mmHg以上であれば挿管を促し、特に一連の測定で呼吸性アシドーシス(英語版)の悪化が確認されれば挿管する。検査値にかかわらず、これらのガイドラインは常に臨床的な背景の中で解釈される[9]
気道閉塞

気道閉塞ないしは気道閉塞の切迫状態は、気管挿管の一般的な適応である。気道に異物が詰まった場合、生命を脅かす気道閉塞が起こることがあり、これは特に乳幼児に多い。


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