気温減率
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気温減率(きおんげんりつ)とは、高度が上がるに従って大気気温が下がっていく割合をいう。気温逓減率(きおんていげんりつ)ともいう。

ここでいう「減率」とは、高度が上がるにつれて「気温が下がる割合」(高度がいくら上がると気温が何度下がる)という意味であり、単純な気温の「変化率」(高度がいくら上がると気温が何度変わる)とは符号が逆になる。

地球大気に対して使われることが最も多い用語であるが、この概念は重力によって支えられている球形の気体であれば、どのようなものにでも適用できる。
定義

『気象科学事典』[1]によれば、気温減率の定義は次のようなものである。

高度と共に気温が低くなる割合。

この用語は、
空気塊を上昇させたときの、その空気塊の温度が高度上昇とともに低くなる割合

現にある大気環境の、鉛直方向の気温の勾配

の2つの意味になりうる。単に気温減率という場合、2. の意味であることが多いが、読解には注意が必要である。
数式による定義

一般的に、気温減率は高度の変化に伴って起こる気温の変化に負の記号を付けたものとして、次の式で定義される:

γ = − d T d z {\displaystyle \gamma =-{\frac {dT}{dz}}}

ここで、 γ {\displaystyle \gamma } は気温減率で、気温の単位を高度の単位で割った単位(例:[℃/km])により表される。T は気温、 z は高度である。

注: γ {\displaystyle \gamma } で表される別の量(例:比熱比、湿度線図の定数など)との混同を避けるために、断熱的な気温減率(断熱減率)を Γ {\displaystyle \Gamma } あるいは α {\displaystyle \alpha } という文字で表す場合がある[2][3].
気温減率の種類

気温減率には次の2つの意味がある:
環境の気温減率 - 静止した大気について、その大気中の実際の気温が高度と共にどのように変わるか(つまり、鉛直方向の
温度勾配)を表す量

断熱的な気温減率(断熱減率)- ある空気塊が上昇するとき、その空気塊の気温が高度と共にどのように変わるかを表す量[4]。これには次の二つの種類がある:
乾燥断熱減率

湿潤断熱減率


環境の気温減率

環境の気温減率は、ある時刻および場所で静止している大気について、その大気中の気温が高度と共に下がる割合を表している。

その平均的な値としては、国際民間航空機関(ICAO)が定めた国際標準大気による定義がよく用いられる。これによれば、

海面から高度 11 km (36,090 ft) まで - 6.49 K/1,000 m (1.98℃/1,000 ft)

高度 11 km (36,090 ft)から 20 km (65,620 ft)まで - 一定の気温 (-56.5℃)

である。なお、-56.5℃は国際標準大気の中では最低の気温となっている。また、ICAOの標準大気には水蒸気は含まれていない。

実際の大気の気温は、理想化された平均値である国際標準大気とは異なっているため、気温減率も時と場所によって異なる。例えば、高度が上がるとともに気温が上がっていく逆転層と呼ばれる層が実在する。
断熱減率
乾燥断熱減率エマグラム。気温と気圧に対して、乾燥断熱減率(実線)と湿潤断熱減率(破線)が示されている。

乾燥断熱減率は、乾燥している(つまり未飽和の)空気塊が断熱的に高度が上昇したとき、高度の上昇につれてその空気塊の気温が下がる割合である。

なお、空気が未飽和であるとは、その空気塊の相対湿度が 100% よりも低い

あるいはその空気塊の実際の気温がその空気塊の露点よりも高い

ということを意味する。

また、断熱とは、その空気塊は周囲と熱のやりとりを全くしない、ということである。空気の熱伝導率は小さく、また空気塊の体積はとても大きいので、熱伝導による熱のやりとりは無視できるほどに小さい。

さて、空気塊が(例えば対流などによって)上昇する場合、高度の高い場所ほど気圧は低いため、上昇した空気塊は膨張する。空気塊が膨張するとき、空気塊はその周辺にある空気を押して、仕事をする。空気塊は仕事をした一方で、周囲から熱をもらってはいないため、内部エネルギーを失う。したがって空気塊の気温は下がる。この場合の気温減率は9.8 ℃/1,000 mである(空気が下降する場合は、逆のことが起こって昇温する)[5]

熱力学では、外部から与えられる熱量変化量を儔、仕事量を儻、内部エネルギー変化量を冰とすると、儔=儻+冰と表現できる(熱力学第一法則)。断熱変化の場合、儔=0なので、儻+冰=0、すなわち膨張によって仕事をした分の凾vは内部エネルギーの冰で補われる。

理想気体について、断熱過程における気温 T と気圧 p を関連付ける式は次のとおりである[6]

p ( z ) γ − 1 / T ( z ) γ = c o n s t a n t {\displaystyle p(z)^{\gamma -1}/T(z)^{\gamma }=constant\,}

ここで γ {\displaystyle \gamma } は比熱比(空気の場合、 γ {\displaystyle \gamma } =7/5)、z は高度である。

気圧と気温を関連付ける二つ目の関係式は静水圧平衡の式である[7]

d p d z = − m p g R T {\displaystyle {\frac {dp}{dz}}=-{\frac {mpg}{RT}}}

ここで、 g は標準重力加速度、R は 気体定数、m は モル質量である。

これら二つの方程式を使って p を消去すると、乾燥断熱減率が求められる[8]

− d T d z = m g R γ − 1 γ = m g c p = 9.8   ∘ C / k m {\displaystyle -{\frac {dT}{dz}}={\frac {mg}{R}}{\frac {\gamma -1}{\gamma }}={\frac {mg}{c_{p}}}=9.8\ ^{\circ }\mathrm {C} /\mathrm {km} } .


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