気分変調症
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気分変動」とは異なります。

気分変調症
概要
診療科精神医学, 臨床心理学
分類および外部参照情報
ICD-10F34.1
ICD-9-CM300.4
MedlinePlus000918
MeSHD019263
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気分変調症(きぶんへんちょうしょう、Dysthymia:ディスチミア)は、うつ病と同様の認知的な問題や食欲変動や疲労感といった身体症状などが起こりうる気分障害の一種であり、発症時の状態としてうつ病よりは軽症ながら、抑うつ状態がうつ病より長期間となることがほとんどで、当事者には深刻な苦しみを感じる症状[1][2][3]

DSM-5では持続性抑うつ障害(Persistent Depressive Disorder)と気分変調症の診断名が併記されている。その前のDSM-IVでは気分変調性障害(きぶんへんちょうせいしょうがい、Dysthymic disorder)である。その前のDSM-IIIは、気分変調性障害に併記して抑うつ神経症(よくうつしんけいしょう、depressive neurosis)としていたが、神経症の語の廃止に伴い変更された[4]

慢性的で2年以上の抑うつ状態が継続したり、その間に本格的なうつ病になることがあり、二重うつ病とも呼ばれる[5]

治療法については、「気分変調症#治療」を参照。
定義「精神障害#定義」も参照

その概念は1970年代にロバート・スピッツァーにより、以前の抑うつ性人格という用語を置き換えるものとして提唱された[6]

精神障害の診断と統計マニュアル第4版(DSM-IV)によれば、気分変調症は慢性的抑うつ状態が少なくとも2年以上(小児および青年においては1年以上)持続する、重症の状態である。気分変調症はうつ病ほど急性かつ表れる症状としては重症ではないが、抑鬱状態がうつ病より長期間となることが多く、当事者は深刻に苦しむ[7]。気分変調症は慢性的な障害であるため、診断が下されたとしてもそれまでにその症状を長年経験している。そのため、抑うつ状態を自らの性格の一部だと信じていることもあり、その場合は症状のことを医者、家族、および友人にすら話さないことがあったり、家族や友人も当人が受診して医師から診断が下されるまでは性格として暗い・大人しい・物静かなど勘違いして認識している場合もある。

気分変調症はしばしば精神障害に並存する。「二重うつ病」とは、気分変調症に加えてうつ病エピソードを呈することである。気分変調の時期と軽躁の時期が交互に表れるときは、気分循環性障害という軽症型の双極性障害を示唆する。

DSM-5においては、気分変調症の項目は持続性抑うつ障害となり[1]、日本語版では気分変調症の診断名も併記されている。この新しい障害の概念は、慢性のうつ病と従来の気分変調性障害の双方を包含している。この変更は、両者の有意な違いを示すエビデンスがなかったことによる。[8]

用語は古代ギリシア語のδυσθυμ?αに由来し、悪しき心の状態を意味する。
疫学

世界的には、気分変調症は1年あたりおよそ1億500万人(総人口の1.5%)に発症する。[9]女性における頻度(1.8%)が男性における頻度(1.3%)よりわずかに高い。[9]米国においては、社会的環境における気分変調症の生涯罹患率は3?6%とみられているが、プライマリケア環境では生涯罹患率はより高く観測され5?15%であり、米国における罹病率は他国よりも幾分か高い傾向にある[10]
症候

気分変調症の特徴の一つに、長期間におよぶ抑うつ気分があり、これに不眠または過眠、疲労感または低活動性、食行動の変化(増加または減少)、易怒性または過剰な怒り、自尊心の低下、絶望感といった症状のうち少なくとも二つ以上を合併することである。

集中力低下または決断の困難は、もう一つの可能な症状として扱われる。軽症の気分変調症は、ストレスからの退却と失敗する機会の回避につながりうる。より重症の気分変調症では、逃避機構として長期の感情鈍麻を起こしたり日常の活動から退却しうる。

罹病者は普段の活動や娯楽をほとんど楽しめなくなる。気分変調症の診断は、症状が目立たないため難しく、患者の社会状況の中に症状が埋もれてしまうことがあり、他者がそれら症状を検知することが困難になる。

感情鈍麻は外見上、声の単調性あるいは重大な人生の出来事に対する反応の欠如の形で観察されることがある。[11]

しかしながら、これらは類似の症状を呈する別の障害のものと間違えられることがある。また、その一方で気分変調症が他の精神障害と同時に起こることもあり、これらの障害間での症状重複のために気分変調症の存在確定に一定の複雑さを生じる。[10]気分変調症では併存症が高頻度で認められる。自殺行動も気分変調症にみられる大きな問題である。うつ病、パニック障害全般性不安障害、アルコール・薬物の乱用、およびパーソナリティ障害の徴候を検索することが肝要である。[12]
原因

全ての気分変調症の症例に同様に当てはまる生物学的な原因は解明されておらず、この障害の起源は多様なものであると考えられている。一方で、気分変調症に関わる遺伝的傾向を示唆する文献もあり、そこでは早発性の気分変調症患者の家族におけるうつ病発症率は最大で50%であるとも記されている[7]。気分変調症と関連する他の要因にはストレス、社会的孤立、および社会的支援の欠如がある。一卵性・二卵性双生児に関する研究では、一卵性双生児の方が二人ともうつ病を有する確率が高いとされ、気分変調症が部分的に遺伝によることを支持されている。

神経伝達物質の異常や遺伝的要因もあるが、心理的ストレスの影響がうつ病より大きいとする文献もある[7]
併存症

気分変調症患者の少なくとも4分の3が慢性の身体疾患もしくは不安障害、気分循環性障害、薬物依存、アルコール依存など他の精神障害を併発するとされる[7]。一般的な併存症としてはうつ病(?75%)、不安障害(?50%)、パーソナリティ障害(?40%)、身体表現性障害(?45%)、薬物乱用(?50%)がある[10]。気分変調症の患者は、平均より高い確率でうつ病を発症する[13]。10年間の経過観察研究においては、気分変調症の患者の95%がうつ病のエピソードを経験していた[14]。気分変調症を下地として重症のうつ病エピソードが出現する場合、その状態を「二重うつ病」と呼ぶ[13]
二重うつ病

二重うつ病は、既存の気分変調症を下地に、うつ病エピソードを経験する時に起こる。患者はうつ病エピソードを自らの人格の自然な一部分、ないしは人生の一部分であり、かつコントロール不能であると受け止めるため治療は難しい。気分変調症患者は増悪する症状を不可避なものとみなすことがあり、そうすると治療介入が遅れうる。仮に彼らが治療を求めたとしても、うつ病の症状だけが語られ気分変調症の症状が語られないと、治療は十分効果的にならないことがある。二重うつ病の患者は健常者よりも有意に高度の絶望感を訴えるため、メンタルヘルス治療者が患者の治療に当たる際には着目すると有用である。それに加え、認知療法は二重うつ病患者に対処する際、ネガティブな思考パターンを変え、自身と自身の環境を見る新しい視点を提供するために有効である[15]

二重うつ病の最もよい予防法が気分変調症の治療であることが示唆されている。抗うつ薬と認知療法の併用は抑うつ症状の発症を防ぐのに有効でありうる。それに加え、運動と良好な睡眠衛生(例えば睡眠パターンの改善など)は気分変調症状治療と増悪予防に相加的効果を有すると考えられている[15]
病態生理

早発性気分変調症の神経学的指標の存在を示唆するエビデンスがある。気分変調症の女性とそうでない女性との間で、複数の脳構造(脳梁および前頭葉)に違いがみられる。このことは、これら2群の間に発生学的な差異があることを可能性として示唆されてもいる[16]

機能的MRIの技術を用いて気分変調症患者群と非患者群を比較した別の研究では、この障害の神経学的指標をさらに支持する結果が得られた。具体的には、脳の複数の領域が異なる機能を示したのである。気分変調症患者では、扁桃体(恐怖などマイナスの感情の処理に関与)、島皮質(悲しみの感情に関与)および帯状回(注意と感情との橋渡し役を果たす)における活動性の亢進が観察された[17]

健常者と気分変調症患者とを比較したある研究では、さらに他の生物学的指標が示唆された。自らの感情に関わるどのような出来事が将来予期されるか聞いたところ、健常者はネガティブな形容詞の使用がより少なかったのに対し、気分変調症患者はポジティブな形容詞の使用が少ないという結果が得られた。


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