気候
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アメリカサンフランシスコは霧雨の多い町で知られる。は冷たい北西が吹き、緯度の割に涼しく、移流霧がよく発生する。気候区分はCsb(地中海性気候)。

気候(きこう、: climate)とは、その地域を特徴づける大気状態(あるいは気象)のこと。具体的には天気気温降水量などの傾向を指す。本項では特記しない限り地球における気候について記述する。
概要「気象」も参照

「気象」と「気候」はいわば表裏一体で、似たような意味を持つ部分があり、混同される場合もある。明確に使い分ければ「気象」は現象に焦点を当てた言葉である一方、「気候」は時間的・種類的に多数の気象の組み合わせからなる傾向(パターン)に焦点を当てた言葉である[1]

地球上どの地域においても、気象(気象現象)は毎、毎、あるいは数日などの周期で繰り返し似たような表情を見せる。気候は、気象観測を積み重ねていき、このような繰り返しの1周期を1区間として、統計により割り出すことで科学的に分析することができる。結果、例えば「ロンドンが多い」「日本は高温多湿である」といったことが分かる。そして、観測の精度や統計方法は、気候の分析結果に大きな影響を与えるので注意を払う必要がある。

気候は長期間観測したときの平均的な傾向から分析される。その比較対象期間はふつう数十年間であり、平年値世界気象機関(WMO)によって基本的に比較時点の前の30年間と定められている[2]。比較対象期間内において、気象要素の値や気象現象の様子は平年値を中心とした一定の範囲内に収まるが、気象には日々年々の変動が存在し、その推移は数学でいう非線形の変化を見せるのがふつうである。非線形の変化の中では突出した値が出現することもあり、それは一般的に異常気象という形で現れる。異常気象の比較対象期間は世界気象機関によって25年間(日本の気象庁では30年間[3])と定められている。

日々年々の変動よりもさらにスケールの大きな、気候変動と呼ばれる変化も存在する。これは、数十年以上の周期でゆっくりと気候が変わっていくことを指し、一般的に異常気象とは認識されないが、人類の生活や生物などには大きな影響を及ぼす。人類史上においても気候変動による海進や海退植生生物相の変化、それらによる生活環境の変化などが起こっている。

過去数十年?現在までを扱う現在気候に対して、近代気象観測が始まる以前の気候を古気候といい、年輪氷床コアといった、気候変化が生む二次的結果から逆に気候を推定する。現在気候を対象とする学問が気象学、同様に古気候を対象とするのが古気候学である。

気候学においては、地域を特徴づける気候を面的な広がりから分類する、気候区分がよく用いられる。全世界を一瞥する気候区分としては、植生の特徴・成因などから分類したケッペンの気候区分(後述)が広く用いられる。

気候といえば陸地の気候を指すことが多い。海洋(海面)にも気候は存在するが、人間が定住しないという点から一般的に注目されることは少ないが、航海漁業にとっては重要である。
気候系1961-1990年の世界月別平均気温の分布図。ノルウェー北部にあるハンメルフェスト市。北緯70度に位置するが、北大西洋海流によって温暖な気候となっており、世界最北の不凍港のひとつとされる

気候学の専門用語に気候系(気候システム、: climate system)という言葉がある。一般に多用される言葉ではないが、気候という概念を捉える上で重要である。

気候は、熱塩循環炭素循環温室効果に代表されるような、熱や物質の循環の中で形作られるため、その中で起こった変化は循環の中へ波及する。より小さな具体例で言えば、地球における緯度やその地域の周辺の海陸分布・地形に起因する、大気の流れ()・の蒸発量(湿度)・海流気温などの要素が気候を形作っている。また、植生の違いや生物による活動、工業などの人間活動も気候を形作る要素である。気候学では、気候に作用するこれら1つ1つの要素を気候因子という。気候因子の変化は気候を変化させる一方で、気候の変化は気候因子を変化させるという、相互作用が成り立っている。

地球上では、大気大気圏)・海洋水圏)・陸上地圏)とそこにまたがって存在する生物(生物圏)が、一体となって気候を生み出している。これは、各要素の相互の関係によってできた、いわばシステム(系)のようなもので、これを気候系と呼んでいる。生物を取り巻く環境を生態系と呼ぶ考え方とよく似ている。

気候系の各要素(気候因子)は常に変化をしているが、お互いの変化が相殺(負のフィードバックという)されたり相乗効果(正のフィードバックという)を生んだりして、大きなスケールで見れば安定してバランスをとっている。

気候に最も大きな影響を与える因子は緯度であり、基本的には緯度が低いほど温暖に、緯度が高いほど寒冷になる。これは、太陽高度角の違いにより、低緯度ほど受け取る太陽の放射熱が多くなるためである[4]。また、緯度に影響される面が大きいため、同じ気候帯は南北ではなく東西に延びることがほとんどである。ただし地球の自転軸は23.4度傾いているため、時期によって同じ緯度でも太陽から受け取る熱量が異なり、このため季節が生まれる。たとえば12月から2月にかけては南半球が太陽の方に向けて傾いているため、南半球の受け取る熱量が大きくなりこの地域は夏となる。逆に北半球はこの時期冬となり、気温が低下する。6月から8月にかけてはこの反対で、北半球が太陽の方に向けて傾いているために北半球が、南半球はとなる[5]

しかし他の因子もかなりの影響を与えており、なかでも風系と海流の影響は大きい。風に関して最も大きな要因は低緯度地帯で卓越する貿易風である。貿易風は赤道付近の熱帯収束帯で空気が温められて上昇し、高緯度に向けて移動したのち、緯度20度から30度付近の亜熱帯高圧帯で冷却されて下降し赤道付近に向けて移動する、いわゆるハドレー循環の一部である[6]。この循環によって、常に上昇気流が発生する赤道地方は一年中大量の降雨がある熱帯雨林気候となり、一方で常に下降気流の発生する亜熱帯高圧帯の地域は年間の降雨がほとんどない砂漠気候となっている。この気圧帯は太陽の移動に応じて南北に移動するため、上記の2地区の中間の地域に季節によって降雨をもたらし、この地域にサバナ気候およびステップ気候を形成する[7]。中緯度地方に吹く偏西風も気候に大きな影響をもたらす。このほか、気候に大きな影響を及ぼす風は季節風(モンスーン)である。大規模な季節風は熱しやすく冷めやすい大陸と、熱しにくく冷めにくい大洋との気圧差によって生じるため、夏は大洋から大陸に、冬は大陸から海洋に向けて吹き込む。世界で最も大規模なモンスーンはアジアモンスーンと呼ばれ、インド洋から日本にかけての広い範囲に影響を及ぼし、特に夏の酷暑と湿潤をもたらす[8]

海流はその地方の気温に大きな影響を与える。暖流の流れる地方は同緯度の他地域に比べて温暖になり、また寒流の流れる地域は他地域に比べ気温が低くなる。この傾向を最も如実に示しているのがメキシコ湾流である。メキシコ湾流はカリブ海地方から大西洋を横断して西ヨーロッパを通り北極海へと流れ込む海流であるが、この海流の運ぶ熱量は膨大なものであり、湾流の流れる西ヨーロッパの大西洋岸やイギリス諸島、ノルウェーの大西洋岸やアイスランドなどは緯度に比べて非常に温暖な気候となっている。また、この海流の影響下にある地域は同じ気候の特徴を共有しており、西岸海洋性気候という気候区分の名称の元ともなった。逆に、南極環流によって取り囲まれている南極大陸は他地域からの熱の輸送がはばまれるためにきわめて寒冷な気候となっており、大陸全体が氷床によっておおわれている。このほか、寒流の流れる大陸の沿岸では海水温が低いために上昇気流が起こらず雨が降らない地域が多い。こうした砂漠は海岸砂漠と呼ばれるほか、各大陸の西岸にできることが多いことから西岸砂漠ともよばれる。海岸砂漠は大気が安定しているために降雨にいたることがほとんどなく、砂漠の中でも極度に乾燥した地域となることが知られている[9]

海流だけでなく、海そのものも気候に大きな影響を与える。海から非常に遠い地域において、海岸から高い山脈にさえぎられた反対側では山脈の方から吹き込む卓越風の風下となり、すでに水分のほとんどを雨として落としてしまっているため、極度に乾燥した気候となることがある。これを雨陰効果と呼び、タクラマカン砂漠グレートベースンなどがこの要因によって砂漠となっている[10]。また逆に海にほど近い地域で山脈が風系をさえぎる形で走っている場合、海からの風に含まれる水蒸気が山にあたって降雨をもたらし、湿潤な気候となることが多い。海は陸に比べ温度が変動しないため、一般に海岸部は内陸部よりも気温の変動は穏やかになる。また、陸に比べ海は温暖であるため、海岸部の気候は内陸部よりも温暖なものとなる傾向が強い[11]

こうした大きな因子のほか、その地方の地形や標高なども気候に影響を与えている。標高は高いほど気温が低くなり、同じ緯度でも低地が温帯であるのに対して高地が冷帯に属するなどということは珍しくない。例えば赤道直下に位置するキリマンジャロ山の場合、山麓低地はサバンナ気候であるが、標高が上がるにつれて熱帯雨林・雲霧林と植生が変化していき[12]、標高3000mで森林限界、4400mで植生限界となり、5500m以上では氷河の広がる氷雪気候となる[13]。また標高が上がるほどに乾燥限界は下がるため、低地が砂漠であっても高地がステップ気候に属するような場合もある。
気候要素と気候

気温降水量湿度気圧天気など、気候を述べるのに必要な気候の一面のことを気候要素という。気候要素は数えればきりがなく、の降り方、の質、台風の進路や勢力など多岐にわたる。

1要素ごとにまとめる場合は単純平均や移動平均等を用い、表やグラフで表現すると理解しやすい。いくつかの気候要素を同時に表現する場合、雨温図ハイサーグラフ(クライモグラフ)がよく用いられる。
気候区分詳細は「気候区分」を参照全世界のケッペン気候区分図

広く使用される気候区分は、数km以上の大規模な地域の気候を区分したものである。一方、一地方や一国、都市の規模で見た区分があり、中気候や小気候と呼ばれる。もっとも広く使用される気候区分はケッペンの気候区分であるが、ほかにも地表面における水収支によって気候を区分するソーンスウェイトの気候区分や、風系によって区分するフローンの気候区分、気団や前線などによって区分するアリソフの気候区分などの気候区分が存在する[14]
大気候

ケッペンの気候区分は、植生に着目した気候区分である[15]。まず気候を樹木が生育できる気候(樹林気候)と生育できない気候(無樹林気候)に分類し、無樹林気候から乾燥度で乾燥帯、温度で寒帯を区分し、樹林気候は気温によって熱帯温帯冷帯(亜寒帯)の3つに分類したうえで、気温と降水量、降雨パターンによって各気候帯内でさらにいくつかの小気候に分類されている。

熱帯(グループA)

熱帯雨林気候(Af) - 熱帯モンスーン気候(Am) - サバナ気候(Aw、As)

熱帯は最寒月の平均気温が18以上、年平均降水量が乾燥限界以上の地域を指し、赤道を中心として南北の回帰線(232622)付近までの低緯度地方に分布する。熱帯気候は降雨パターンによって、乾季のない熱帯雨林気候、弱い乾季のある熱帯モンスーン気候、明確な乾季のあるサバナ気候の3つに分かれる[16]。サバナ気候のwとsは、それぞれ冬季に乾季があるもの(w)と夏季に乾季があるもの(s)の違いである。

乾燥帯(グループB)

砂漠気候(BWh、BWk) - ステップ気候(BSh、BSk)

乾燥帯は最暖月の平均気温が10℃以上であり、年平均降水量が乾燥限界以下の地域を指す。緯度20?30度付近の中緯度地帯に主に分布するが、寒流の流れる大陸西岸や、海から遠い大陸の中心部にも存在する。乾燥帯は降雨量によって、草原の広がるステップ気候と植生のほとんどない砂漠気候に分けられる[17]。砂漠気候・ステップ気候はともに平均気温によって、年平均気温が18℃以上の場合(h)と18℃未満の場合(k)に二分されている。

温帯(グループC)

温暖湿潤気候(Cfa) - 西岸海洋性気候(Cfb、Cfc) - 温暖冬季少雨気候(Cwa、Cwb、Cwc) - 地中海性気候(Csa、Csb、Csc)

温帯は最寒月平均気温が氷点下3℃以上18℃未満、最暖月平均気温が10℃以上で年平均降水量が乾燥限界以上の地域を指し、緯度30?40度前後の中緯度地方に主に分布する。温帯は降雨パターンと夏季の気温によって、乾季がなく暑い夏を持つ温暖湿潤気候、乾季がなく涼しい夏を持つ西岸海洋性気候、冬が乾季となる温帯夏雨気候、夏が乾季となる地中海性気候の4つに分かれる[18]

冷帯(亜寒帯)(グループD)

冷帯湿潤気候(Dfa、Dfb、Dfc、Dfd) - 冷帯冬季少雨気候(Dwa、Dwb、Dwc、Dwd) - 高地地中海性気候(Dsa、Dsb、Dsc、Dsd)

冷帯は最寒月平均気温が氷点下3℃未満、最暖月平均気温が10℃以上であって年平均降水量が乾燥限界以上の地域を指し、緯度40度以上の高緯度地方に主に分布する。ただし南半球にはこの地域に陸地が少ないこともあり、冷帯に属する地域はほぼ北半球のみに限られている[19]。冷帯は降雨パターンによって、乾季のない冷帯湿潤気候、冬が乾季となる冷帯冬季少雨気候、夏が乾季となる高地地中海性気候の3つに分かれる。ただし高地地中海性気候に属する地域は非常に小さな範囲に限られている。

寒帯(グループE)

ツンドラ気候(ET) - 氷雪気候(EF)

寒帯は最暖月平均気温が10℃未満の地域を指す[20]。寒帯のみ、乾燥限界が気候帯の条件に含まれていないが、これは非常に気温の低い地域の場合水蒸気の供給が少ないため降水量が極端に低くなり、なおかつ蒸発も少ないので乾燥地とはならないためである。


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