死神_(落語)
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『死神』(しにがみ)は古典落語の演目の一つ。 幕末期から明治期にかけて活躍して多数の落語を創作した初代三遊亭圓朝グリム童話の第2版に収載された『死神の名付け親』を(おそらく福地桜痴から聞いて)翻案したものである[1]

なお類話としてイタリアのルイージ・リッチ、フェデリコ・リッチ兄弟の歌劇『クリスピーノと死神』がある。
あらすじ

やることなすこと失敗続きで金もなく、ついに自殺しようとしている男が眼光鋭い痩せこけた老人に声を掛けられる。老人は自らを死神だと言い、男はまだ死ぬ運命にないこと、また自身との数奇な縁を明かして助けてやるという。死神によれば、どんな重病人であっても死神が足元に座っていればまだ寿命ではなく、逆に症状が軽そうに見えても枕元に死神が座っている場合は死んでしまうという。足元にいる場合は呪文を唱えれば死神は消えるので、それで医者を始めると良いと助言し、死神は消える。

半信半疑で家に帰ってきた男が試しに医者の看板を掲げると、さっそく、さる日本橋の大店の番頭がやってきて主人を診て欲しいという。既にほうぼうの名医に診せたが匙を投げられ、藁にもすがる気持ちで男の家に来たという。男が店に行き、主人を見ると足元に死神がいたので、これ幸いと呪文を唱え死神を消して病気を治す。またたく間に元気になった主人は、男を名医と讃え、多額の報酬を払う。

この一件がまたたく間に広まり、男は名医として数々の患者を治し、その報酬で贅沢な暮らしを始める。しかし、それからしばらく経つと、男が訪問する病人はみな枕元に死神がいて治すことができず、しまいにヤブ医者と言われるようになって再びお金に困るようになってしまう。

そんな折、大きな商家から声がかかる。男が病床の主人を見れば、また枕元に死神がおり、諦めるよう諭すが、たった1か月でも延命できたら大金を出すという。積み上がる大金に目がくらんだ男は、一計を案じ、店の男手を集めると、主人の布団を持たせ、頭と足の位置を逆転させた瞬間に呪文を唱え、死神を消した。これによって主人はみるみる病状が改善し、大金の約束を果たすと男に言う。

その帰り道、男は最初に出会ったあの死神に再び声をかけられる。どうしてあんなことをしたんだと非難する死神に対し、男は言い訳するが、死神はもはやどうでもいいと答え、男をたくさん火のついた蝋燭がある洞窟へと連れてくる。死神は、この蝋燭の1つ1つが人の寿命だといい、男の寿命は、間もなく死ぬ主人を助けてしまったために入れ替わってしまったと、今にも消えそうな蝋燭を指し示す。驚いた男が助けて欲しいと懇願すると死神は新しい蝋燭を差し出し、これに火を継ぐことができれば助かるという。

そして、男は今にも消えそうな自分の蝋燭を持って火を移そうとするが、焦りから手が震えてうまくいかず、やがて「あぁ、消える…」の一言の後、演者がその場に倒れ込み、演目は終わる。
サゲ

もっとも標準的なサゲは「あぁ、消える…」と呟いた後、演者が高座に倒れ込むことで、男の「死」を表現するものである(いわゆるしぐさオチ)。またセリフと同時に高座の照明が落ちるサゲもある。
サゲのバリエーション
成功するが死ぬパターン

上記のサゲから派生した、「成功するが結局死ぬ」パターンもある。

まず、主人公が風邪を引くという伏線が張られる。その後死神が登場し「お前はその風邪が原因で死ぬ」との言葉があり、蝋燭の移し替えのくだりとなる。一旦は成功するが、喜んだところで風邪のくしゃみをしてせっかくつけた蝋燭の火を吹き消してしまい、無言のまま演者が舞台で倒れ込む(
10代目柳家小三治[注 1])。

移し替えを成功させた後に安心して気が抜け、思わずついたため息で火を吹き消してしまい、それに死神が呆れ返って「てめぇで消しちまいやがった」と悪態をつく(三遊亭好楽)。

悔しがる死神を振り切るように、火を移し替えた蝋燭を持ちその明かりを頼りに洞窟の出口まで戻り、「どうしても行くのか?じゃあしょうがない」「じゃあ、死神さんもお元気で!」といったやり取りの後、死神から「もう明るい所だから消したらどうだ」と言われてうっかり自分で火を消してしまう(立川志の輔)。


単に成功するパターン

演者が倒れ込んだ後、その直後にむっくり起き上がり「おめでとうございます!」などと蝋燭の火の移し替えに成功して助かる
サゲがある。正月や客層など縁起の絡む高座にかけるために三遊亭圓遊が改作したとされる、この場合は「誉れの幇間(たいこ)」とも呼ぶ。

失敗するが生きているパターン

また、蝋燭の火が消えても生きているパターンもある。ただし、この場合も実際には死んでいるか、まもなく死ぬようなサゲになる。また、この後、死んだ男が新たな死神となり、また別の男に対し自分に儲け話を持ってきた死神と同じように儲け話を持っていくという展開を予想させるオチ(回りオチ)も存在する。

「あぁ、消える……」と男が叫んだところで目が覚め、妻が「何を寝ぼけてるんだい!行灯の火が消えたんだよ!」と言ってくるというオチ(いわゆる夢オチ)もある。これは全て夢だった、すなわち何事もなかったということになり、ここで著したサゲの中でも平和なサゲであると考えられる。

その他、さまざまなサゲ

立川志らくは、一度は火をつけることに成功するが、死神が「今日がお前の新しい誕生日だ。祝ってやるよ」と言うと、男がつられてバースデーケーキのノリで自ら火を吹き消してしまう、というパターンを作った。また、本人は、本編前に「自分が死神(の題目)をやったあとに談志がやった。弟子のを聞いて自分もはじめた」という談話を演じている。

7代目立川談志は、自著の中で「死神が意地悪をして、せっかくついた火を吹き消してしまう」という最悪のパターンを作り出した。

千原ジュニア千原兄弟)が大銀座落語祭2008にて披露した噺では、無事に点火した蝋燭を持って喜びながら帰宅するも、「昼間から蝋燭をつけるなんてもったいない」と妻にあっさり吹き消されるというオチをつけた。

五代目 三遊亭圓楽は、前に倒れ込んだ後で自身の体の上に緞帳が降りてきてしまい、降りた緞帳から首だけ客席側にはみ出た状態になってしまうというハプニングに見舞われ、「じゃあ、バイバイ」と言ってオチをつけたことがある。これは、その日の前座であり、客席や舞台の照明をすべて落とす(すなわち、本来のオチのタイミングを全て任されている)役割でもあった伊集院光[注 2]が、緊張のあまり誤って客席に近い位置に座布団を置いてしまっていたことが原因。このオチについて、当事者である伊集院は「古典落語初の"バイバイオチ"(にしてしまった)」と発言している。

六代目 三遊亭円楽は、火をつけるのに成功し「これで枕を高くして眠れる」と喜ぶ男に、死神が「ゆっくりお休み、そして目を覚まして枕元を見てみろ。俺が座ってらぁ」と語るオチをつけた。また蝋燭の洞窟のくだりで「緑色の今にも消えそうな蝋燭」を示して「それが歌丸だ!放っておいたってすぐ消える」という、『笑点』におけるいじりネタを持ち込んだ。

三遊亭一太郎は、ある理由から主人公が生存を諦め死を選ぶ結末を考案している。


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