歌いもの(うたいもの)または謡物(うたいもの)とは、日本の伝統音楽(邦楽)における一ジャンルで、
(器楽曲に対して)日本の雅楽のなかで、催馬楽や朗詠など声楽の範疇に属する音楽の総称[1][注釈 1]。
(「語りもの」に対して)日本の伝統的な声楽のなかで、地歌、長唄、端唄など、歌うことを目的とした音楽の総称[1]。多くの場合、「歌いもの」「歌もの」などと表記される。
(能楽に関連して)能以外の種目で能に取材した作品群。「謡物」と表記される[2]。
である。本項では、1.と2.について説明する。3.については、「謡曲物」参照。 冒頭に示したとおり、「歌いもの」の語は多義的であり、1つには、雅楽において声楽をともなう曲種の総称である。この場合には、器楽曲すなわち「曲(ごく)のもの」との対概念となる[2]。より狭義には、番組編成形式としての「管絃
概要
声楽は、伝統的な日本音楽(邦楽)において、その大部分を占めている[3]。日本音楽における声楽は、「歌いもの」と「語りもの」に大きく分けられる[3]。「歌いもの」は、旋律やリズムなど、その音楽的要素が重視される楽曲であるのに対し、「語りもの」は詞章が何らかの物語性をもつ楽曲であり、語られる内容表現に重点が置かれる音楽である[3]。
すなわち、声楽曲の様式分類用語として用いられる場合には「語りもの」と対をなす概念といえる[2]。この場合、ことばの抑揚よりも旋律美が優先し、極端な場合、たとえば民謡における「追分形式」(小泉文夫による命名)などでは歌詞の一音が長く延伸され、そこに、細かい旋律的な装飾をともなうような例さえある[2]。「歌いもの」は文字通り、日本語の「うた」によるが、「うた」の語源には諸説あり、そのなかには、言霊(言葉そのものがもつ霊力)によって相手の魂に対し激しく強い揺さぶりを与えるという意味の「打つ」からきたものとする説がある[4]。その一方では、「歌う」の語源は「うった(訴)ふ」であり、歌うという行為には相手に伝えるべき内容(歌詞)の存在を前提としているという民俗学者折口信夫による見解もある[5]。なお、音楽学者吉川英史は、日本伝統音楽における「うたう」と「語る」の一般的相違を以下のようにまとめている[6]。
うたう語る 先史時代より「歌いもの」は存在していたはずであるが、曲節は無論、歌詞も残されていないため再現不能である。ただし、日本に近接する無文字社会の民俗事例の検討より、以下のような諸特徴を有するものと推測される[7]。
使用音音階による音階によらない
リズム規則的不規則
テンポ遅い速い
メロディ起伏が多い起伏が少ない
母音の発声長く引く短い
内容抽象的具体的
性格抒情的、詠嘆的叙事的、説明的
全体構成形式主義内容主義
歴史
原始
アニミズムはじめ原始信仰にもとづく歌謡が多かった。
仕事や戦闘、恋愛など広い意味での生活に根ざした作品が多く、純然たる娯楽や芸術としての歌謡は存在しえなかった。