欧州連合の言語
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欧州連合(EU)には24の公用語があり、そのうち英語フランス語ドイツ語の3つは欧州委員会の「手続き言語」[1]という高い地位にある(一方、欧州議会はすべての公用語を作業言語として受け入れている)。アイルランド語は、以前は「条約言語」という低い地位にあったが、2007年に公用語および作業言語に格上げされた。ただし、2022年1月1日までの一時的な例外措置が施行された。3つの手続き言語は、EUの各機関の日々の業務で使用される言語である。アイルランド語が「条約言語」に指定されたことで、欧州連合基本条約のみがアイルランド語に翻訳され、条約に基づいて採択されたEUの法律行為(指令や規則など)は翻訳する必要がなくなっていた。ルクセンブルクキプロスでは、それぞれルクセンブルク語トルコ語が公用語となっているが、EU加盟国の公用語でEUの公用語でないものは、この2つだけである。

EUは、言語の多様性を支持すると主張している。この原則は、欧州連合基本権憲章(22条)と欧州連合条約(3条3項TEU)に明記されている。

EUでは、言語政策は加盟国の責任であり、EUは共通の言語政策を持っていない。EUの機関は、「補完性」の原則に基づき、この分野で支援の役割を果たし、加盟国の言語政策における欧州的側面を推進している。EUはすべての国民が多言語であることを奨励しており、具体的には、母国語に加えて2つの言語を話すことができるように奨励している[2]。教育制度の内容は各加盟国の責任であるため、この分野でのEUの影響力は非常に限られているが、EUの多くの資金援助プログラムは、言語学習と言語的多様性を積極的に推進している[3]

EUで最も広く理解されている言語は英語で、成人全体の44%が理解している。一方、母語として最も広く使われているのはドイツ語で、18%が話している。EUの24の公用語はすべて実務言語として認められているが、実際に広く一般に使われているのは英語、フランス語、ドイツ語の3つだけで、そのうち最もよく使われているのは英語である。フランス語は、EUの政治的中心地である3都市(ベルギーブリュッセル、フランスのストラスブールルクセンブルクルクセンブルク市)すべてで公用語となっている。2020年にイギリスがEUから離脱するため、フランス政府は英語に代わり、フランス語を労働言語としてより多く使用することを奨励したいと考えている[4]
公用語

EUの公用語は欧州経済共同体(EEC)理事会において規定されている。規則1/1958ではEECにおいて用いられる言語について[5]以下の通り定められている[6]

ブルガリア語

クロアチア語

チェコ語

デンマーク語

オランダ語

英語

エストニア語

フィンランド語


フランス語

ドイツ語

ギリシャ語

ハンガリー語

アイルランド語

イタリア語

ラトビア語

リトアニア語


マルタ語

ポーランド語

ポルトガル語

ルーマニア語

スロバキア語

スロベニア語

スペイン語

スウェーデン語

EUの公用語の数よりも加盟国の数のほうが多いのはいくつかの言語が2つ以上の国で使われているためである。例えば、オランダ語はオランダベルギーで、フランス語はフランス、ベルギーとルクセンブルクにおいて、ドイツ語はドイツオーストリア、ベルギー、ルクセンブルクで、ギリシャ語ギリシャキプロスで公用語とされている。また、英語はイギリスアイルランドマルタで、スウェーデン語はスウェーデンフィンランドにおいても使われている。しかし、同時にアイルランドではアイルランド語が、マルタではマルタ語が、フィンランドではフィンランド語が公用語となっており、各国の言語に対する加盟国内の全体的な比率は関係なくEUの公用語となっている。

さらにすべての加盟国の言語がEUの公用語となってはおらず、たとえばルクセンブルクでは1984年ルクセンブルク語が公用語となり、キプロスではトルコ語が公用語となるが、いずれもEUの公用語にはなっていない。

EUのすべての言語は作業言語 (working language) となっている[7]。ある加盟国の法の管轄を受けている個人や加盟国自体が欧州共同体 (EC) の機関に対して送付する文書は、その送付者が選択した公用語を使用することができる。またその文書の返答に使われる言語も送付した文書と同じ言語で作成される。規則およびそのほか申請文書は24の公用語で表記される。EUの広報誌"Official Journal of the European Union"は24公用語で出版されている。

法令や重要な公文書は全24公用語で作成されるが、重要度の低い文書では必ずしもそうではない。国家当局に対する伝達や特定の個人・団体を対象とした決定や書簡などの文書は必要とされる言語にのみ翻訳される。EU機関では、内部での目的に関しては法令により言語を選択することができる。たとえば欧州委員会では内部での作業を行うさいには英語、フランス語、ドイツ語を使用することができ、すべての公用語を用いるのは公式情報や伝達のさいに限られる。他方、欧州議会では自分の使用する言語で書かれた文書を必要とする議員がおり、そのため最初から複数の言語で書かれた文書でなければならない[8]。非EU機関では全24言語で文書を作成することは法的な義務となっていない[9]

EUの英語版サイトによると[10]機構の翻訳などの多言語主義政策の維持に毎年11億2300万ユーロがかかり、これはEUの年間予算の1%に相当し、市民1人あたりでは2.28ユーロの負担となっている。
マルタ語

マルタ語はEUの公用語とされているが、欧州連合理事会2004年5月1日から移行期間を設定し、この間すべての法令をマルタ語で表記する必要はないとされた[11]。その後いったん欧州連合理事会で移行期間を1年延長することが合意されたが、正式な決定とはならなかった[12]。これにより2007年4月30日からEUの機構によるすべての新たな法令はマルタ語でも採択、作成されることになった。
アイルランド語

アイルランド語はEUの公用語の1つとなったのは2007年1月1日以降であるが、アイルランド語はアイルランドの第1公用語であり、北アイルランドでも少数言語となっている。1973年アイルランドはEECに加盟したが、それ以来EUの諸条約ではアイルランド語を公用語と同じように扱い、正式に条約において使用される言語として認証された[13]。またEUの機関に対してもアイルランド語を使用することができるようになった。2005年6月13日、ルクセンブルクにおいて第2667回欧州連合理事会の総務・対外関係理事会における全会一致での決定を受けて[14]、アイルランド語がEUの21番目の公用語とされることが発表された。ただし特例が規定され、他の公用語とは違ってすべての文書がアイルランド語に翻訳されないとされた[15] [16]。しかしながらこの決定により欧州議会と欧州連合理事会で承認された法令はアイルランド語に翻訳され、またアイルランド語から翻訳された文書は欧州議会の総会や欧州連合理事会の会合において用いることができるようになった。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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