欧州連合の旗
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欧州旗、縦横2:3の比率欧州旗の描き方

欧州旗(おうしゅうき)は、長方形の青地に、円環状に配置された12個の金色の星で構成されるであり、ヨーロッパのシンボルである。

最初にこの欧州旗が定められたのは欧州評議会(COE)においてである。しかしこの旗はもともとCOEの旗としてではなくヨーロッパ全体を代表するシンボルとする意図を持って定められ、欧州連合(EU)といった特定の組織が独占使用することにはCOEは否定的であった。その後1985年にミラノで開かれた欧州理事会において、欧州旗をEUの旗として使用することが合意された[1]

青地は青空を表し、星の描く円環はヨーロッパの人々の連帯を表す。12個という星の数は最初から決まっていたもので、「完璧」と「充実」を表し、加盟国の数を表すものではなく今後とも増えたり減ったりすることはない[2]
起源と利用

この旗は元来、1955年12月8日、欧州評議会によって、アイルランド首席紋章官のジェラルド・スレヴィン (Gerard Slevin) の案が採用されたものである。

欧州評議会は当初からこの旗を、他のヨーロッパ統合を目指す地域内組織に使用してもらいたいと望んでいた。1983年4月11日、まず欧州議会がこの旗を採用した。次いで、ヨーロッパの経済統合を進めた欧州共同体 (EC) はこの旗を1986年5月26日にシンボルとして採用した。1992年マーストリヒト条約によって欧州共同体に代わり政治的統合を求めて発足した欧州連合(EU)もこの旗を採用した。それ以来、欧州旗の利用方法などは欧州連合と欧州評議会の共同で管理されている。欧州連合は、1950年5月9日欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)設立のきっかけとなったシューマン宣言が発表されたことを、欧州統合の第一歩として記念し5月9日をヨーロッパ・デーと定めており、この日は加盟各国の各地で欧州旗が飾られる。

欧州旗は、「欧州憲法」の条文中で公式な法的地位が与えられるはずであった。しかし欧州憲法条約の批准失敗により、各国の首脳たちはこれに代わる改革条約の中からは公式な旗や歌の制定など国家の憲法を思わせる条項を排除した。欧州議会は欧州のシンボルについて条約で言及することを支持していたが、これが排除されたことに対抗して、欧州議会が欧州旗などのシンボルをより積極的に使用するよう提案した。ドイツ選出の議員ヨー・ライネン(Jo Leinen)は、欧州議会が再びシンボルの使用においてさきがけの役割を果たすべきことを示唆した[3]

欧州連合の各組織・機関が独自のロゴを定めている中、行政執行機関である欧州委員会は欧州旗のみをシンボルとしている。また欧州連合は域内で発行される運転免許ナンバープレートに欧州旗のデザインを使うほか、ユーロ採用各国で発行されるすべての紙幣ユーロ紙幣)の表面に欧州旗は描かれ、12個の星はユーロ硬貨に表されている。

欧州旗は加盟国の首脳会議である欧州理事会の議長の公式演説の際には必ず使われなければならず、また議長による欧州連合非加盟国への公式訪問の際にもしばしば使われる。また欧州理事会メンバーである各国首脳たちの中には、自国内での公式な場でも自国旗とともに欧州旗を使用する独自のルールを定めているところもある。また加盟国の役所や警察に国旗と同様に掲げられている場合もある。欧州旗の使用の際、欧州連合や欧州評議会の目的や原則に相容れない目的での欧州旗の使用はしてはならない[4]

欧州旗は欧州連合のみならず、広くヨーロッパを代表するシンボルとして扱われている。青と黄色の配色や12個の星は、欧州のスポーツや政治経済などを扱う様々な組織や各種イベントのシンボルマークにも応用されている。また汎ヨーロッパ主義や欧州志向・西側支持を表すシンボルとして欧州連合の内外で使われている(例えば、グルジアバラ革命ほか旧ソ連諸国での民主化運動など)。2000年代前後に制定されたボスニア・ヘルツェゴビナの国旗コソボの国旗は、強いEU志向を反映して欧州旗に似たデザインや色を採用している。

国旗と欧州旗を並べて掲げるベルギー連邦議会(2013年)

国旗と欧州旗を背景とするイタリアマッタレッラ大統領の公式写真(2015年)

暗殺された反政府野党政治家のボリス・ネムツォフを追悼するロシアのデモ(2016年)

スペインの国旗を飛ばしてカタルーニャの旗と欧州旗を並べることでカタルーニャ独立運動の主張が示されている(2012年)

星の数について

星の数は12個に固定されており、欧州連合の加盟国数とは関係づけられていない。(1986年?1995年の間は、EC/EUの加盟国数と星の数が一致していた。)

星の数に関してはこのような話がある。旗のデザインを協議していた1953年、欧州評議会の加盟メンバーであった国と地域は15あった。旗を決める際、「星の数を15個とし、星の一つ一つが現状の各加盟メンバーを表し、星の数は将来の加盟メンバーの増減にかかわらず変更しないこととする」という提案があったが、これが議論を呼んだ。西ドイツは、加盟メンバーの中にその帰属が議論の対象となっていたフランス保護領ザールがあることから、西ドイツとザールが別々の星として表現される案に反対し、星はその表す地域の「主権」の意味を含むようにしようと提案した[5]。今度はフランスが星を14個とすることに反対し、それはザールの西ドイツへの吸収を意味すると抗議した。言い伝えでは、ここでイタリア代表が、15個でも14個でもだめだとすると13個となるが、それは(キリスト教圏においては)不吉な数であり、また初期のアメリカ国旗が13個の星を円形にあしらっていたので、(欧州統合がアメリカ一極集中に対抗する目的であるにもかかわらず)デザインが同じになってしまうと反対したという。

そこで政治的に問題のない星の数として、また同時に完全と無欠 (perfection and completeness) のシンボル数として、結果として「12」という数が採用された[1]

12という数には、西ユーラシア・地中海世界のさまざまな文化と伝統で次のような特別な意味があるため、欧州旗の星の数が12であるということはヨーロッパの伝統に連なるものといえる。

黄道の十二星座十二宮

時計の十二の時刻

一年の十二の

キリストの十二使徒

『皇帝伝』の十二人のローマ皇帝スエトニウスの『ローマ皇帝伝』から)

オリュンポスの十二神

ローマ法の十二表法ローマ法
『Madonna in Glory』、カルロ・ドルチ、1670年頃

一方、12個の星の数は、そこにより深い隠された意味を求める、根拠のない多くの主張や陰謀論を生んだ。たとえば、カトリック美術に描かれる、聖母マリアの頭の後ろにある12個の星が輪になって連なった後光と関連付けられ、そこから欧州統合の目的はカトリックの復権や神聖ローマ帝国再建である、などといった反バチカン的陰謀論につながることがある。興味深いことに、いくつかの頑固なキリスト教系宗教団体は、星の輪がバビロニア神話の「天后 (Queen of Heaven)」イシュタルを表すとして、EUの背後に異教的な動きがあることの証明だという正反対の主張をしている。1955年に欧州旗のデザインを手がけたアルセーヌ・ハイツ (Arsene Heitz) はヨハネの黙示録の一節、『一人の女が太陽を着て、足の下に月を踏み、頭に十二の星の冠を戴いていた。』(第12章の1)にインスパイアされたと認めている[6]。しかし、欧州連合は、これら聖書に関する噂を公式に「ただの伝説」と否定している[7]


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