『次郎長三国志』(じろちょうさんごくし)は、清水次郎長を主人公とする村上元三の連作時代小説、並びに映像化では最も著名かつ評価の高いマキノ雅弘監督の映画シリーズのタイトル[1][2]を含めた、同作を原作とする映像化作品群。本作における「三国」とは駿河国(現在の静岡県中部)、遠江国(現在の静岡県西部)、三河国(現在の愛知県東部)を指す。 「海道一の侠客」と謳われた清水次郎長(1820年 - 1893年)については、当人の活躍している当時から、巷間様々な伝承をもって語られていた。次郎長の養子となった山本鉄眉こと天田五郎(1854年 - 1904年)が、次郎長の生前である1884年(明治17年)4月に発表した『東海遊侠伝』等がこれに当たり[3]、そうした虚実入り混じる次郎長像を一つの創作物に纏め上げたのが、二代目広沢虎造の浪曲である。この浪曲では、次郎長を始め大政・小政、森の石松や桶屋の鬼吉 この虎造の浪曲や、その他の資料伝説を元に執筆されたのが村上元三の小説『次郎長三国志』である。同作は、『オール讀物』(文藝春秋新社、現在の文藝春秋)誌上に1952年(昭和27年)6月号から1954年(昭和29年)4月号まで連載された。GHQ統治下においてチャンバラが禁制とされていたが、占領終結により解禁となった直後という時代背景もあって、読者の熱狂的な支持を受け、村上の代表作の一つとなった。 @media screen{.mw-parser-output .fix-domain{border-bottom:dashed 1px}}しかし一方では、村上による次郎長一家の大胆な脚色が専門家からの「事実に悖る」という批判を蒙る事にもなった。また虎造の浪曲で馴染み深い「江戸っ子だってねぇ、寿司を食いねぇ」という石松の名場面も登場せず、創作としても一部から批判を受けた。とはいえ各章ごとに(次郎長を中心にしつつも)異なるキャラクターに焦点を絞って描かれた構成と、何より確かな筆力で読みやすい作品に仕上がっている[要出典]。同作では、次郎長の出世から、没後に講談師神田伯山(三代目、1872年 - 1932年)によって「創作」が生まれるまで、が描かれている。伯山作品をベースにしたのが、前述の二代目広沢虎造の浪曲である。 最初の単行本は、『オール讀物』の版元である文藝春秋新社が『次郎長三国志』の題で1953年(昭和28年)に上梓した[2][4]。同書には、『桶屋の鬼吉』、『關東綱五カ』、『C水の大政』、『法印大五カ』、『攝の仙右衞門』、『相撲常』、『大野の鶴吉』、『森の石松』、『追分三五カ』、『投げ節お仲』の10章が掲載された[4]。次に同年12月、連載のつづきを『続 次郎長三国志』として同社が上梓した[2][5]。同書には、『三保の豚松』、『小川の勝五カ』、『森の八五カ』、『形の原斧八』、『小松村七五カ』、『七栗の初五カ』、『小松村お園』の7章、追って翌1954年に発行された『続々 次郎長三国志』[2][6]には、『C水の小政』、『二代目お蝶』、『神?の長吉』、『吉良の仁吉』、『天田五カ』、『神田伯山』の6章がそれぞれ掲載されて、全23章が完結した[2][6]。 次郎長や大政(山本政五郎、1832年 - 1881年)、小政(山本政五郎、1841年 - 1874年)、森の石松(? - 1860年)、桶屋の鬼吉(桶屋吉五郎)、法印大五郎(伊藤甚左衛門、1840年 - 1919年)、増川仙右衛門
概要
小説
初出以来の国立国会図書館蔵書等による一覧である[2]。
『次郎長三国志』 : 『オール讀物』所収、文藝春秋新社、1952年6月 - 1954年4月発行(全23回連載)
『次郎長三国志』、文藝春秋新社、1953年発行
『続 次郎長三国志』、文藝春秋新社、1953年12月発行
『続々 次郎長三国志』、文藝春秋新社、1954年発行
『次郎長三国志 前篇』、大衆文学名作全集 第1巻、春陽堂書店、1956年発行
『次郎長三国志 後篇』、大衆文学名作全集 第2巻、春陽堂書店、1956年発行
『次郎長三国志 前篇』、春陽文庫 1210、春陽堂書店、1957年11月発行
『次郎長三国志 後篇』、春陽文庫 1211、春陽堂書店、1957年11月発行
『次郎長三国志』、時代小説大作全集 第15巻、六興出版部、1958年発行
『次郎長三国志』、青樹社、1964年発行
『次郎長三国志』、東京文芸社
作によって途中で死ぬ仲間が出ており、展開がいろいろ変わってくる。
次郎長一家
清水次郎長
清水一家の大親分。自ら喧嘩に赴くのは一家の敵討ちのみ、いさかい・揉め事は極力手打ちと守りに勤める姿勢、来るものは拒まずの人柄で人望を集め多くの組を吸収、傘下にし縄張りを広げていく。後に維新志士らと酒を汲み交わし日本の状況を知っていく内に一家同士の縄張り争いに嫌気が差し、政治経済に目を向けていく。
お蝶
次郎長の幼馴染にして先妻。普通に育ち、渡世における修羅場つづきの激務に耐えられず体を壊し肺炎で死去。
政(大政)
次郎長の剣術指南で槍の達人。浪人で仕官を目指していたが次郎長に惚れ侠客になり、次郎長一家の剣術指南、軍師的な役割もこなす。荒神山では黒駒一家と手打ちにしようとした次郎長に反発し仲間を集め大将になる。
桶屋の鬼吉
尾張の生まれでひどい名古屋弁。桶職人の家に生まれるが跡を継ぐことを嫌がり家出、侠客になる。いかさま博打を見抜いた次郎長に身包み剥がされる所を助けられ次郎長第一の子分になる。出入りの時には必ず自分の桶を作り持って行く。前述のように、田崎潤が演じたいと直訴するなど次郎長、石松に次いで人気があり、作によっては用心棒である剣の達人を倒し大金星を上げるなど好待遇を受ける作品もある。
関東綱五郎
旅の途中で出会った黒目の五丁徳からの喧嘩の使いで来た折、次郎長が自分を斬らずに帰したことを意気に感じ、鬼吉に続く2人目の子分に。次郎長一家で唯一拳銃使い。
法印大五郎
なまぐさ坊主。初登場時、風呂に入っておらずとても臭く飯をおごってくれた恩から子分になる。前から持っていた錫杖で戦う。惚れていた幼馴染がいたが三馬政に寝取られた上女郎屋に売られ、次郎長の好意で身請けしようとしたが、性病で死んでしまい彼を目の敵とする。作によって荒神山で鬼吉を庇って死んでしまう。
森の石松
津川版では両目でどもりがあったが隻眼になるとどもりが直ったと言う設定になっている。上記の通り「石松三十石舟」のシーンは原作にはないがあまりにも有名な場面であるため、どの映像作品にも取り入れられており相手役の江戸っ子は芸達者なベテラン俳優が務めることが多い。
投げ節お仲
次郎長と鬼吉が出会った博打場のつぼ振り。いかさまを見抜かれるもその責を次郎長が尻拭い、逃してくれた恩義に惚れるがお蝶の存在を知り身を引く。お蝶の死後、後妻になり二代目お蝶を名乗る。名前の通り歌を流して旅をしている。史実では明治時代に入り幕府軍の兵士を匿った事で新政府軍に殺された。
追分三五郎
次郎長とお蝶の結婚後、次郎長の元を去ったお仲と共に旅をしていた侠客。お仲を一家に加える事を条件に子分になる。以後目立った活躍、記述は無くお仲が一家に入る橋渡し役の必要により作られた架空の人物と見られる。
政(小政)
大政に次いで剣の腕が立つ。大政と同じく本名が政だったため狛犬に習い小政と名づけられる。
大野の鶴吉
次郎長が大看板になった時期に農民の苦しい生活を逃げて長い者に巻かれるかのようにやってきた侠客。