この項目では、医学や生理学における人工呼吸器による機械換気について説明しています。その他の用法については「機械換気」をご覧ください。
機械換気
治療法
人工呼吸器 「サーボ-u 」
ICD-9 ⇒93.90 ⇒96.7
MeSHD012121
OPS-301 code ⇒8-71
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機械換気(きかいかんき、英: mechanical ventilation)、または補助換気(ほじょかんき、英: assisted ventilation)は、人工呼吸器と呼ばれる機械を用いて、本来の自然呼吸に代わって全面的または補助的に人工呼吸を行うことを意味する医学用語である。医学文献上、人工呼吸とほぼ同義だが、バッグバルブマスクなどを用いた用手換気は人工呼吸には含まれても、機械換気ではない。人工呼吸器は、肺への空気の出入りを助け、酸素の供給と二酸化炭素の除去を助けることを主な目的としている。機械的または神経学的な原因による気道の障害に対する保護、十分な酸素供給の確保、肺から過剰な二酸化炭素を除去するためなど、さまざまな理由で人工呼吸器を用いる。人工呼吸器の使用には様々な医療従事者が関わり、人工呼吸器を必要とする人は通常、集中治療室で監視される。機械換気は、気管内に気道を確保するための器具を使用する場合、侵襲的 (英: invasive) と呼ばれる。これは、気管チューブや経鼻気管チューブを用いて行われる[1]。全身麻酔下の手術中には、麻酔器が用いられるが、麻酔器は通常、麻酔科医による用手換気と人工呼吸器による機械換気の切り替えが可能となっており、手術・麻酔の状況に応じて使い分けられている。
非侵襲的人工呼吸(英語版)中で意識のある人には、麻酔マスクや鼻マスクを使用する。
人工呼吸には、主に陽圧換気と陰圧換気(英語版)の2種類がある。すなわち、陽圧換気とは、空気を気道から肺に送り込むものであり、陰圧換気とは、空気を肺に引き込むものである。現代の人工呼吸器は陽圧換気式が主流である。機械換気のモードには多くの種類があり、その名称は技術の進歩に伴い、数十年にわたり変遷してきた。.mw-parser-output .toclimit-2 .toclevel-1 ul,.mw-parser-output .toclimit-3 .toclevel-2 ul,.mw-parser-output .toclimit-4 .toclevel-3 ul,.mw-parser-output .toclimit-5 .toclevel-4 ul,.mw-parser-output .toclimit-6 .toclevel-5 ul,.mw-parser-output .toclimit-7 .toclevel-6 ul{display:none}
歴史ポリオ流行時に鉄製タンク型人工呼吸器を装着した患者を診察する病院スタッフ。胸腔外を陰圧にすることで肺に空気を送り込み、肺内圧を均一化する装置である。
ギリシャの医師ガレノスが、機械換気について初めて記述したと思われる。「死んだ動物の喉頭から葦を通して空気を吹き込めば、その気管支を満たし、肺が最も大きく膨らむのを見ることができる」。1600年代にはイギリスの博物学者ロバート・フックがこの概念を実証するために犬を使った実験を行っている。ヴェサリウスも、葦や竹を動物の気管に挿入して換気することを述べている[2]。これらの実験は、酸素の発見や呼吸における酸素の役割の発見よりも前に行われた。1908年、ジョージ・ポー(英語版)は犬を窒息死させ、一見生き返ったように見える機械式人工呼吸器の実演を行った。これらの実験はすべて、陽圧換気を実証するものである。
陰圧換気を実現するためには、肺に空気を吸い込むための大気圧以下の圧力が必要である。これは19世紀末にJohn DalzielとAlfred Jonesが独自に開発したタンク式人工呼吸器で、大気圧以下の圧力で体を包んだ箱の中に患者を入れることで換気を行うものであった[3]。この機械は俗に「鉄の肺」と呼ばれるようになり、何度も繰り返し開発された。鉄の肺が普及したのは、1900年代のポリオ大流行の時である。
初期の人工呼吸器は、補助呼吸が組み込まれていない固定制御式で、吸気と呼気の比率は1:1に制限されていた。1970年代には、間欠的強制換気 (Inrermittent Mandatory Ventilation: IMV) と同期式間欠的強制換気 (Synchronous Inrermittent Mandatory Ventilation: SIMV) が導入された。これらの換気方式は、患者が呼吸の合間に行う調節呼吸を備えていた[4]。
適応呼吸療法士(英語版) (Respiratory therapistRT) 集中治療室で人工呼吸器を装着した患者を診察するRT。人工呼吸器の管理、調整、離脱の最適化に携わる。
機械換気は、患者の自発呼吸が生命維持に不十分な場合に適応となる。呼吸不全の切迫、急性呼吸不全、急性低酸素血症が予測される状況、あるいはこれらに対して予防的に適応となることもある。機械換気は呼吸を補助するものであり、病気を治すものではないので、患者を人工呼吸器から解放するためには、患者の基礎疾患を特定し治療する必要がある。
人工呼吸器の一般的な医学的適応は以下の通り[5][6]。
外科的処置
急性呼吸窮迫症候群(ARDS)[7]、外傷、またはCOVID-19[8]を含む急性肺損傷
肺炎
肺出血
呼吸停止を伴う無呼吸
低酸素血症[9]
挿管を必要とする急性重症喘息(英語版)
腫瘍などによる気道閉塞
呼吸性アシドーシスなどの酸・塩基平衡異常
筋ジストロフィー、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、ギラン・バレー症候群、重症筋無力症などの神経筋疾患
新生児呼吸窮迫症候群の新生児未熟児
機械換気は通常、短期間の措置として行われる。しかし、長期的な呼吸補助が必要な慢性疾患の患者には、自宅や介護施設、リハビリテーション施設で行われることもある。 人工呼吸器による機械換気中の咳嗽反射はバッキングと呼ばれ、鎮静が浅かったり、喀痰の発生が原因で起こる[10]。患者自身の自発呼吸と、人工呼吸器による換気が同調していない場合はファイティングと呼ばれる。これは人工呼吸器の不適切な設定や、患者の気道に何らかの病変が起こっていることを示唆する[10]。 機械換気はしばしば救命的介入となるが、潜在的な合併症を伴う。人工呼吸器の設定に直接起因する陽圧換気の一般的な合併症には、容積損傷と圧損傷
リスクと合併症