横帆
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この項目では、船の帆について説明しています。生物の帆については「帆 (生物の器官)(英語版)」をご覧ください。

「白帆」はこの項目へ転送されています。横浜市の地名については「白帆 (横浜市)」をご覧ください。
横帆を持つシップの例、ノルウェーのChristian Radich縦帆を持つスクーナーの例、フランスのRegina Maris横帆と縦帆の両方を持つバークの例、ドイツのAlexander von Humboldt

帆(ほ)とは、によりの推進力を得るための器具である。ヨットなどの洋装帆船において英語「sail」からきたセイル(セール)またはこれが訛ったスルなどと呼称される。

ほとんどの帆は、帆の張る方向で区別され、横帆縦帆のいずれかに属する。ヨットなど小型帆船では縦帆のみで構成されるが、遠洋航海を目的とした大型の帆船では横帆を主として縦帆と組み合わされた帆装が施されている。
歴史エジプト新王国時代の壁画に描かれた船にある横帆(紀元前1411年から1422年にテーベの貴族の墓に描かれたもの)

帆の起源ははっきりしていないが、人類が船の使用を始めた直後に現れたと言われている。古代エジプト時代の墳墓から出土した花瓶(紀元前4000年頃のものと推定されている)の絵柄に帆をもつ船が描かれていた。初期は、追い風の時のみに使用する補助的な動力源であったが、その後の改良により帆のみで航行可能な帆船があらわれた。

中国では後漢時代の書『釋名(しゃくみょう)』に、織物の帆を使用したと推測される記述があり、また「柱を立つを?(わい)と曰う。?は巍(ぎ)なり。巍巍として高きかたちなり」と記されているが、?とは観音開きの門の回転軸のことで(後述書 p.99)、左右に一軸ずつあった。すなわち門の軸のように船の両舷に一本ずつ柱が立っていたことを表している。これは横帆とみられる(後述書 p.99)。三国時代の『三国志』にも帆走の記述が度々見られる[1]

和船の帆に関しては、古墳時代には絵で両舷の帆が確認されるが、中世になると、独自の形態=中央に帆柱で四角帆に変化する(詳細は「和船」の帆を参照)。10世紀中頃の『和名類聚抄』巻十一の帆に関する記述には、中国の『釋名』に関する引用が見られるため、早くから古文献的な歴史を認知していたことがわかる。帆布に関しては、江戸時代正徳2年(1712年)成立の『和漢三才図会』の「帆」によれば、「昔は藁を用いたが、近年は木綿織物を用いる」と記載が見られる。
構造

帆は幾つかの支持棒で支えられており、船から垂直方向に帆を支えるための柱をマストと呼ぶ。また帆を水平方向に上方から支える支柱をヤード(Yard)または帆けたと呼ぶ。帆を下から支える支柱をブーム(Boom)と呼ぶ。

帆を張ったり、畳んだり、マスト等に固定する際にはロープが欠かせない。大型のセイルは滑車(プーリー)等を使用して張ることが多い。ロープの結び方としては、帆を張る目的で生み出された様々な方法が存在する。

ヨットでは、後述する縦帆を使用するが、その主帆では、セイルの前辺をラフ(Luff)、セイルの後辺のことをリーチ(Leech)と呼ぶ。
素材帆をケースに格納したウォリー・ヨット製のモーターヨット

古くは草などを編んだ莚(むしろ)が使われたと考えられるが、その後木綿生地の帆が一般的になった。15世紀大麻による帆が使われるようになり風雨による劣化に強くなった。これにより長距離の航海が可能になり、大航海時代を支えた要因の1つにも数えられる。さらに17世紀から18世紀には重い大麻布から軽くて耐久性の向上した綿布へ回帰し、帆船の高速化に寄与した。現代の服飾雑貨で使用される帆布は、この木綿生地のことを指す。

日本の和船では、木綿や麻のほかに、わらイグサなどで編んだ莚も帆の材料として使われている。また古代のポリネシアでは、ラウの葉を筵に編んだラウハラと呼ばれる素材が使用された。

現代ではビニールやプラスチック繊維が一般的である。また競技用はさらなる軽量化や高耐久性を目的としてケブラーなどの先端素材が使われている。化学繊維紫外線に弱いため長期間の保管ではカバーをかけることが多い。また帆走を主目的としないモーターヨットでは、航行中でも簡単に取り外しができるケースを使用することもある。
力学

帆が風により力を得る原理は、航空機あるいは風力タービン風車)といったもののと基本的に同じである。風を受けている帆には、気流との相互作用により空気力が働いている。流体力学ではこの力を、流れの向きと垂直な成分の揚力と平行な成分の抗力に分けて扱うことも多い。風をはらんで張り出した帆の断面形(翼型)は適度な曲率を持っており、前縁付近での気流の剥離を抑制しうるため、平板状よりも効率がよい[注 1]

帆走においては、帆の張りを曲線状のままで安定させることが、うまくスピードを出すための条件となる。風が弱くては帆が上手く張れず、適切な翼型を維持できずにスピードが出ない。一方、風が強すぎても帆がはためいてしまい、好ましい翼型を維持できずにスピードが出ない。

船の進行方向と風上方向との間を成す角度と、理論帆走速度と風速の比を示したものを帆走ポーラー線図(ポーラーダイアグラム)と呼ぶ。この線図はヨットなどの帆船の基本性能を評価するために一般的に用いられるものである。

直感的には完全に追い風の状態、すなわち船の進行方向と風上方向の成す角度が180度に近いほど、推進力が強そうだが、その場合帆の迎角失速の範囲にする事になり、縦帆をもつヨットなどで実際に最も推進力が強いのは、100度から120度程度の、揚抗比が1を超える方向である。レース用のヨットなどでは、風向や風速の好条件がそろえば風速以上の帆走速度が出る場合もある。
横帆横帆横帆を持つ帆船の例

横帆(おうはん、角帆、square sail)とは、船の中心線と交差する方向に帆を張るものである。西洋帆船ではその形状から角帆とも呼ばれる。いつごろ人類が最初に帆を発明したかは定かではないが、追い風の力を船の動力に得ることを目的としたいわゆる帆掛船が最初で、横帆が最初の帆のスタイルであると推定されている。

横帆は、追い風だけでなく、帆の向きを風の向きに交差する方向に変えることである程度対応できることが経験則から分かってきたようだ。風の方向が一定している遠洋での帆走では、横帆が有利であった。初期のころは、1本のマストに1つの横帆を張っていたが、帆が大きくなるとその扱いは難しくなる。そこで、横帆を複数の帆に分割して張るようになっていく。

一方で、横帆は進行方向前方からの風を受けると、風上側の帆の縁がはためいてしまい、帆の張りを維持するのが難しい。このため横帆による帆走は風上に対しては不向きで、また風の向きが変化しやすい沿岸部の帆走にもあまり向いていない。

以上の特徴により横帆は、大洋航海を目的とした大型帆船の主帆として用いられることが多い。また風の状況や作業性の向上のため、1本のマストに複数の横帆を張る構成がとられるようになっている。
帆船の各帆の名称3本マストのシップの帆装図上からムーンセイル、スカイセイル、ロイヤルセイル、トガンセイル(1枚)、トップセイル(2枚)、コースセイル。トップセイルの横にスタンセイルも張られている。

大型帆船のシップ帆装においては、最大で30を越える帆が使用され、それぞれに個別名称がつけられている。シップ以外の横帆を備えた大型帆船においても各帆の名称は基本的にこれに倣い、縦帆の帆船においても転用されている例が存在する。

各マストの一番下のものはコースセイルである。後述するが区別するためにマストの名称を用い、例えばメインマスト(図におけるマストD)のコースセイル(図における帆12)であれば「メインセイル」と呼ばれる。その上の帆は、帆が張られたマストの部位を冠して、

トップセイル(Topsail) - 1枚の場合もあるが、操帆難易度などの問題から2枚に分割して張られる場合もある。

ローワートップセイル(Lower topsail) - トップマストのうち、下側に張られた帆。図におけるマストDの帆13。

アッパートップセイル(Upper topsail) - トップマストのうち、上側に張られた帆。図におけるマストDの帆14。


トガンセイル/トップギャラントセイル(Topgallant sail) - トップセイル同様、2枚張られる場合もある。

ローワートガンセイル(Lower topgallant sail) - トガンマストのうち、下側に張られた帆。図におけるマストDの帆15。

アッパートガンセイル(Upper topgallant sail) - トガンマストのうち、上側に張られた帆。図におけるマストDの帆16。


ロイヤルセイル(Royal sail) - 図におけるマストDの帆17。

スカイセイル(Skysail) - 図におけるマストDの帆18。

ムーンセイル(Moonsail)

と呼称する。例えばトップセイルが2枚の場合、メインマストの下から3番目(図における帆14)は「メインアッパートップセイル(Main upper topsail)」となる。
コースセイルメインセイル(赤い部分)カッターのメインセイル(赤の部分)

コースセイル(course sail)とは、帆船において各マストの一番下に設置された帆である。大抵は各マストにおいて最も大きい。


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