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極限環境微生物(きょくげんかんきょうびせいぶつ)は、極限環境条件でのみ増殖できる微生物の総称。なお、ここで定義される極限環境とは、ヒトあるいは人間のよく知る一般的な動植物、微生物の生育環境から逸脱するものを指す。ヒトが極限環境と定義しても、極限環境微生物にとってはむしろヒトの成育環境が「極限環境」である可能性もある。
放射線耐性菌や有機溶媒耐性菌は、これらの環境でのみ増殖できるわけではなく、むしろ通常条件の方が適しているが、極限環境微生物に含める場合が多い。 極限環境の条件およびそれらの微生物の一般名、代表種は以下の通りである。
極限環境とは
高温:好熱菌 - Methanopyrus kandleri (- 122℃)
高pH:好アルカリ菌 - Alkaliphilus transvaalensis (- pH12.5)
低pH:好酸菌
高NaCl濃度:好塩菌 - Halobacterium salinarum (- 飽和濃度)
有機溶媒:溶媒耐性菌
高圧力:好圧菌 - Pyrococcus yayanosii(- 1200気圧)
放射線:放射線耐性菌 - テルモコックス・ガンマトレランス(英語版)(最大30,000Gyのガンマ線照射に耐える)
など
一般に古細菌は膜構造などから極限環境に有利とされ、現在分離されている古細菌はメタン菌(一部好熱菌や好冷菌、好塩菌、高圧菌を含む。それ以外も強い偏性嫌気性菌ではある)を除いて全種が1つ以上の極限環境に適応している。特に高温や強酸には強く、種によっては122℃やpH-0.06で生育できる(低温は-2℃、アルカリ性環境はpH12程度まで)。逆に人間が生活するような環境(好気常温の真水または土壌)で生育できる古細菌は、一部の未記載種を除き発見されていない。真正細菌もその種類の多さ(確認されている種の数は古細菌の20倍以上)から多様な極限環境微生物を含んでいる。また、一部の菌類や藻類も高温や強酸、高NaCl濃度に耐えることができ、これも極限環境微生物と言える。
これらの微生物の保持する酵素をイクストリーモザイム(Extremozymes)と呼称する。イクストリーモザイムはその多くが工業利用を期待されており、実際に洗剤などに応用されている例もある。また、ここでは酸素分圧、貧栄養に関する問題も取り上げる。
酸素分圧(最終電子受容体)として用いられるが、同時に酸化力の強い毒素であると見なせる。酸素を電子受容体として用いた場合、スーパーオキシドという反応性の高い有害物質を体内で作成することとなる。そのためある種の微生物では空気中の酸素分圧では生育不可能となる。酸素分圧による分類法は以下の通りである。
好気性:通常の20 %酸素存在下で生育可能な生物。狭義には地球上の空気の酸素存在比でないと生育を示さない偏性好気性を意味する。好気性は更に以下の分類がなされる。
偏性好気性:10 - 20 %酸素存在下で生育可能な生物。例としては大半の多細胞生物、一部の偏性好気性細菌および古細菌(Aeropyrum pernix など)があげられる。こうした生物では、ある程度以下の酸素分圧に置かれると、まったく呼吸ができなくなる。絶対好気性とも呼ばれる。
通性好気性:20 %酸素でもそれ以下の酸素分圧あるいは完全嫌気でも増殖を示す。例としては大腸菌などの腸内細菌、出芽酵母など。好気性細菌の多くはここに含まれると考えられる。
微好気性:酸素分圧が2 - 10 %の環境で至適生育を示す。下限の数字については、様々な解釈があるが、この数字は実験者の印象などによって異なると考えられる。こうした生物ではSODの能力が低いと思われる。
嫌気性:酸素の非存在下で生育を示す生物。狭義には完全無酸素状態でないと生育できない偏性嫌気性をさす。嫌気性も以下の分類がなされる。嫌気性生物では、酸素を最終電子受容体としない嫌気呼吸が行なわれている。高等生物ではこうした生物はほとんど存在しないが、一部の寄生生物などでは嫌気的に生育するものも存在する。
偏性嫌気性:完全無酸素状態でないと生育を示さない生物。細菌等微生物が大半である。極度に酸素を嫌う生物として、鉄細菌、硫酸還元菌、メタン菌など。いずれも嫌気呼吸生物の代表である。
通性嫌気性:通性好気性と意味合いは似るが、実験者の捉え方などでこちらが使用されることもある。どちらかと言えば嫌気度の高い環境でよく生育するものを指す。
温度雪上に生育した氷雪藻
温度は酵素活性の維持など、生物体内における化学反応にもっとも重要なパラメータである。事実、恒温動物では化学反応の安定化にエネルギーの大半を費やしている。大半の高等動物では地球の平均気温18℃を中心に、比較的広範囲の温度に対応できるが、極端な低温、高温条件では酵素の変性による化学反応効率の低下や、シグナルタンパク質の熱変性などを招き死滅する。定義は決定的なものではないが、以下の分類が存在する。
好冷性:0℃付近でよく増殖し、20℃以上では増殖できない。好冷性に要求される性質は、低温環境でも化学反応を進行できる低温性の酵素群および生体膜の流動性を保つための高度不飽和脂肪酸等がある。好冷性細菌の多くがここに含まれるが、一部の高等動物(南氷洋に成育する魚など)などでも20℃以上での成育が不可能なものも存在する。
中温性:20 - 45℃に至適条件を示す生物。大半の高等動物や腸内細菌はここに属する。人間の一般的な感覚から生物の通常状態と考えるのがこの範囲の温度だろう。
好熱性:45 - 60℃に至適条件を示す生物。一部のカビや好熱性細菌といわれる生物群が含まれる。広義には45℃以上に至適増殖を示す生物群を含む。
高度好熱性:60 - 80℃に至適増殖を示す生物。この用語は便宜的なもので割愛されることも多く、好熱性にまとめられることが多い。一部のカビや好熱菌が多く含まれる。
超好熱性:80℃以上に至適増殖を示す生物。その大半が古細菌である。極度に高い温度を好むこれらの生物群は、高温に耐えうる強固なタンパク質および生体膜構造を有する。2008年7月現在、最も高い生育温度は122℃である。
好熱パラメータではなく耐性という形で分類することもある。中温域で至適生育を示すが、それを超える温度(あるいはそれ以下の温度)でも生育可能であることを示す。 水素イオン濃度 (pH) は、生化学反応の進行に重要なパラメータの1つである。酸化還元反応などは、酸塩基触媒によって容易に影響を受けることが知られる。また、極端なpH存在下では、タンパク質の変性が起こることが知られる。pHによる分類は以下の通りである。
耐冷性:15℃以下でも生育可能な生物群。
耐熱性:45℃以上でも生育可能な生物群。
水素イオン濃度 (pH)
好中性:pH5 - 9に至適増殖を示す生物。大半の高等生物がここに含まれる。生理学的条件とはたいていこの範囲であるが、消化液などはこれらの範囲を逸脱するpHが観察される。
好酸性:pH5以下に至適増殖を示す生物。極端な酸性条件では、生化学反応の調節の乱れやタンパク質の変性が見られるが、これらの条件に耐えうる生化学的資質を有する好酸性菌などが含まれる。中にはpH0以下の条件で生育する生物(古細菌)も存在する。
好アルカリ性:pH9以上に至適増殖を示す生物。強アルカリ性条件ではタンパク質が変性するうえ、生化学反応の調節や化学浸透圧形成が困難なため、強アルカリ性環境を好む生物は存在しないと考えられていたが、掘越弘毅