椿説弓張月
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『椿説弓張月』 大弓を引く源為朝。読本『鎮西八郎為朝外伝 椿説弓張月』より。葛飾北斎 挿画。.mw-parser-output .side-box{margin:4px 0;box-sizing:border-box;border:1px solid #aaa;font-size:88%;line-height:1.25em;background-color:#f9f9f9;display:flow-root}.mw-parser-output .side-box-abovebelow,.mw-parser-output .side-box-text{padding:0.25em 0.9em}.mw-parser-output .side-box-image{padding:2px 0 2px 0.9em;text-align:center}.mw-parser-output .side-box-imageright{padding:2px 0.9em 2px 0;text-align:center}@media(min-width:500px){.mw-parser-output .side-box-flex{display:flex;align-items:center}.mw-parser-output .side-box-text{flex:1}}@media(min-width:720px){.mw-parser-output .side-box{width:238px}.mw-parser-output .side-box-right{clear:right;float:right;margin-left:1em}.mw-parser-output .side-box-left{margin-right:1em}}ポータル 文学

『椿説弓張月』(ちんせつ ゆみはりづき)は、曲亭馬琴作・葛飾北斎画の読本文化4年(1807年)から同8年(1811年)にかけて刊行。全5編29冊[1]。版元は平林庄五郎と文刻堂西村源六[2]

保元物語』に登場する強弓の武将鎮西八郎為朝(ちんぜい はちろう ためとも)と琉球王朝開闢の秘史を描く、勧善懲悪の伝奇物語であり、『南総里見八犬伝』とならぶ馬琴の代表作である。
概要

馬琴の史伝物読本の初作[2]。物語は日本の物語と琉球の物語に区分でき[3]、鎮西八郎を称した源為朝の活躍を『保元物語』にほぼ忠実に描いた前篇・後篇と、琉球に渡った為朝が琉球王国を再建(為朝が琉球へ逃れ、その子が初代琉球王舜天になったという伝説がある[4])するくだりを創作した続篇・拾遺・残篇からなる。

そのあらすじは、九州に下った弓の名人源為朝は八町礫紀平治を家来とし、阿曾忠国の娘白縫の婿となるが、保元の乱に破れて大島に流される[2]。大島を抜け出した為朝は兵を挙げるが、海上で暴風雨に遭い、琉球に漂着する[2]。琉球では尚寧王の姫忠婦君が利勇や曚雲と図って、王女寧王女を陥れようとしていた[2]。為朝は寧王女を助け、琉球を平定するというものである[2]

日本史のなかでも悲劇の英雄の一人に数えられる源為朝に脚光をあて、その英雄流転譚を琉球王国建国にまつわる伝承にからめた後編は、そのスケールの大きさと展開力で好評を博した。
小史

文化4年(1807年)にまず『前篇』が出版され、以後足掛け4年をかけて『後篇』、『続篇』、『拾遺』、『残篇』が出版されて、全5篇・29冊で完結。当初は前篇と後篇の全12巻で完結予定だったが[5][1]、反響が予想以上に大きかったことで馬琴の筆が伸び、完結も延期を繰り返した。
題名

正式には「鎮西八郎為朝外伝」の角書きが付いて『鎮西八郎為朝外伝 椿説弓張月』。

『椿説弓張月』の「椿説」は「ちんせつ」と読む。意味としては「珍説」と同じで、珍しい説の意味であり[3]、九州の鎮西にも通じる[6]。「弓張月」は主人公が弓の名手であるから名付けられた[3]。「為朝外伝」は正史以外の伝記を意味し、本作の内容が史実離れしていることを標榜している[3]

@media screen{.mw-parser-output .fix-domain{border-bottom:dashed 1px}}「説」という字は、「遊説」を「ゆうぜい」と読むように、「ぜい」と読むこともできる。したがって「椿説」は、「ちんぜい」という読みが可能で、この「ちんぜい」が、読みが同じ「ちんぜい」の「鎮西」こと鎮西八郎為朝に掛かっている。これは歌舞伎外題で多用される、題名の中に主人公の名を暗示する文字や音を掛詞として織り込む手法と同じで、このため古くから『椿説弓張月』は歌舞伎の外題風に「ちんぜい ゆみはりづき」と読まれることも多かった[要出典]。
主要登場人物

源為朝(みなもとの ためとも):
源為義の八男で弓の名手。

白縫姫(しらぬい ひめ):為朝の正室。舜天丸を儲ける。

尚寧王(しょうねい おう):琉球王。

寧王女(ねい わんにょ):尚寧王の第一王女。

白縫王女(しらぬい わんにょ):寧王女の肉体に白縫姫の魂が宿ったもの。

八町礫紀平治(はっちょう つぶての きへいじ):為朝の忠臣で礫(印地)打ちの名手。舜天丸を養育する。

舜天丸(すてまる):為朝と白縫姫の嫡子。曚雲を討ち、琉球国王舜天となる。

鶴・亀(つる・かめ):琉球王国の忠臣・毛国鼎(もう こくてい)の二人の息子。

阿公(くまきみ):琉球王国の高名な巫女利勇の陰謀に加担。

曚雲(もう うん):尚寧王が暴いた蛟塚から現れた妖僧。妖力を使い妖獣・を操る。

崇徳院(しゅとく いん):かつて為朝が主として仕えた上皇。怨霊となって、為朝が危機に陥ると救いに現れる。

典拠

『弓張月』の典拠は多岐多様にわたるが、ここでは代表的なものをいくつか挙げるにとどめる。
謡曲「海人」
『椿説弓張月』の初期段階の構想に用いられ、作品の枠組みに貢献した
[7]
保元物語[3]
前半の種本。なお、馬琴が採用したのは、元禄時代に水戸の彰考館で編纂刊行された『参考保元物語』であり[3]、上方読本『保元平治闘図会』も部分的に用いている[8]
佐藤行信『伊豆国海嶋風土記』[3]
天明2年(1782年)著、伊豆諸島の地誌。馬琴の蔵書印が押された写本が残る[3]
古宋遺民『水滸後伝[3]
後半のネタ元。『水滸伝』の後日談で、李俊シャム王になるという筋にとどまらず、人物や部分的趣向も借りている。
徐葆光『中山伝信録[3]
6巻。琉球関係の人名・地名・事件などについて活用。
当時の評価

本作は庶民から絶大な支持を得て、商業的に大成功を収め、馬琴の読本作者としての地位を確たるものとした[5]。『為朝一代記』『源氏雲弦月』『弓張月春宵栄』といった合巻をはじめ[3]、錦絵や双六の題材となるなど、幅広い人気を集めた[2]。本作の次に書いたのが『南総里見八犬伝』で、今日ではこちらの方が有名になっているが、当時は逆だった。
文献
活字本

和田万吉校注 『椿説弓張月』 岩波文庫(上・中・下)。(挿絵を欠く)。度々復刊

後藤丹治校注 『椿説弓張月 (上・下)』、岩波書店日本古典文学大系60・61〉。(鈴木重三所蔵の初刊本により挿絵を全て収録する)

現代語訳

三田村信行訳 『新編弓張月』(上巻「伝説の勇者」・下巻「妖魔王の魔手」)、ポプラ社平成18年(2006年)。※児童書。

平岩弓枝訳 『椿説弓張月』 学研パブリッシング〈学研M文庫〉、平成14年(2002年)。※編訳版、初刊・学研、1981年。

『私家本 椿説弓張月』 新潮社、2014年/新潮文庫、2017年


山田野理夫訳 『椿説弓張月』 教育社歴史新書(上・下) 原本現代訳、昭和61年(1986年)。※訳文のみ。序跋系図の類は省略。

高藤武馬訳 『椿説弓張月 古典日本文学全集27』 筑摩書房、昭和35年(1960年)。訳文のみ、新装版「古典日本文学」。※序跋「備考」や本筋に無関係な考証的な箇所(系図など)に省略がある。

丸屋おけ八訳 『全訳 椿説弓張月』、言海書房、2012年。


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