植物油(しょくぶつゆ、英: vegetable oil)とは植物に含まれる脂質を抽出・精製した油脂・油で植物油脂とも呼ばれる。常温における状態で液体のものを植物油、固体のものを植物脂と分類することもあるが、ここでは分けずに記述する。特に脂肪含有率の高いヤシや大豆、菜種などの種子や果肉から精製され、食・調理用や加工用に利用されている他、古くは燈火の燃料としても使われ、20世紀後半からバイオディーゼル用途の需要も拡大している。 人類が使い始めた最初の油は動物性油脂と考えられている。旧石器時代には動物の脂肪を灯りとして利用していた。動物性油脂と比較して、抽出がより困難な植物性油脂の利用開始には数々の手法の発明を待つことになる[1]。植物から油脂を採油(搾油)し植物油の利用を始めたのは古代に遡る。エジプトではピラミッドに油脂の使用の痕跡が見つかっている。地中海沿岸では5-6千年前にオリーブの栽培が始まったと考えられており、ローマ帝国の拡大に伴い、栽培も小アジアから帝国全土に広まっていった[2]。オリーブ同様に収量も多く搾油が容易なココナッツオイルも数千年の歴史があると推測されている[3]。 油は英語で Oil であるが、その語源はラテン語の油およびオリーブ油を意味する oleum とギリシャ語でオリーブの木を意味する elaion である[4]。多くのヨーロッパの言語で油はオリーブ由来の ol で始まる単語である。 同じラテン語属のスペイン語では、約700年間のイスラム支配の影響から、オリーブが Aceituna、オリーブオイルが Aceite de oliva、そして油一般が Aceite となっている。この語源はアラビア語でオリーブを意味する ???????? (zayt?nah がスペインで Aceituna となり[5]、アラビア語でオリーブのジュースを意味する azzayt または azzait からスペイン語の Aceite となったものである[6]。ポルトガルもスペイン同様にイスラムの支配下にあり、似通った経緯をとったが、Azeite
歴史
漢字の「油」は、音を表す「由」と意味を示す「水」からなる形声文字である。なお、かつて「会意形声文字」と解釈する説があったが、根拠のない憶測に基づく誤った分析である。
大和言葉である「あぶら」は、獣肉を炙ると出るので「あぶら」、溢れてくるので「あふれ」から「あぶら」となったとの説があり[7]、日本の場合は油(あぶら)は動物起源のようである。「大山崎油座」も参照
日本でも同様に最初に使われ始めたのは分離が簡単な魚や獣からの動物性油脂であると考えられる。植物油に関しては縄文時代晩期にアフリカ原産のゴマが日本に伝わり[8]、日本書紀にハシバミから油を抽出したとの記述があり、3-4世紀ごろには植物油の利用は始まっていた。奈良時代にはゴマの搾油技術が伝来しており、大化の改新(645年)の頃には荏胡麻(えごま)油が税として徴収されていた。平安時代には搾油機が発明され、より大量の植物油が供給されるようになった。鎌倉時代には様々な油屋があったがそれぞれ独占権を与えられていた。当時は植物油は貴重であり灯油(ともしびあぶら)が主な用途であった。ごま油を例にとるとゴマ40-45株から約300グラムのゴマが収穫でき、それから約150グラムのごま油が得られるのみである[9]。当時は食用に利用出来るのは富裕層に限られていた[10]。