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この項目では、植物について説明しています。その他の用法については「ナシ (曖昧さ回避)」をご覧ください。

「梨」はこの項目へ転送されています。その他の「梨」については「ナシ (曖昧さ回避)」をご覧ください。

ナシ
Pyrus pyrifolia
ナシの木(品種は豊水)
分類APG III

:植物界 Plantae
階級なし:被子植物 angiosperms
階級なし:真正双子葉類 eudicots
階級なし:バラ類 rosids
:バラ目 Rosales
:バラ科 Rosaceae
亜科:サクラ亜科 Amygdaloideae[1]
:ナシ属 Pyrus
:ヤマナシ P. pyrifolia
変種:ナシ var. culta

学名
Pyrus pyrifolia (Burm.f.) Nakai var. culta (Makino) Nakai (1926)[2]
和名
ナシ(梨)
英名
Nashi Pear
Sand Pear
Russet apple pear
Japanese pear[3]

ナシ(梨)は、バラ科ナシ属植物、もしくは果物として食用にされるその果実のこと。

主なものとして、和なし(日本なし、Pyrus pyrifolia var. culta )、中国なし (P. bretschneideri ) 、洋なし(西洋なし、P. communis )の3つがあり、食用として世界中で栽培される。日本語で単に「梨」と言うと通常はこのうちの和なしを指し、本項でもこれについて説明する。他のナシ属はそれぞれの項目を参照のこと。
概要

ナシ(和なし、日本なし)は、日本の本州、四国、九州に生育する野生種ヤマナシ(ニホンヤマナシ、P. pyrifolia var. pyrifolia )を原種とし、改良・作出された栽培品種群のことである[4]果物としてなじみがあり、よく知られるものに、二十世紀、長十郎、幸水、豊水、新高、あきづきなどの品種がある。

高さ15メートル (m) ほどの落葉高木であるが、栽培では棚状にして低木に仕立てられる[5]樹皮は灰褐色で縦に裂ける[5]。一年枝は緑褐色で有毛ときに無毛で、短枝も多い[5]。冬芽は鱗芽で、長卵形や円錐形で暗赤褐色をしており、7 - 10枚つく芽鱗の先が尖る[5]。枝先には頂芽がつき側芽が枝に互生し、頂芽は側芽よりも大きい[5]は長さ12センチメートル (cm) 程の卵形で、縁に芒状の鋸歯がある。葉痕は三角形やV形で、維管束痕が3個つく[5]

花期は4月ごろで、葉の展開とともに5枚の白い花弁からなるを付ける。8月下旬から11月ごろにかけて、黄褐色または黄緑色でリンゴに似た直径10 - 18 cm程度の球形の果実がなり、食用とされる。果肉は白色で、甘く果汁が多い。リンゴやカキと同様、尻の方が甘みが強く、一方で芯の部分は酸味が強いためあまり美味しくない。水気が多くてシャリシャリ、サクサクとした独特の食感がナシの特徴だが[4]、これは石細胞と呼ばれるものによる[6]。石細胞とは、ペントサン(英語版)やリグニンという物質が果肉に蓄積することで細胞壁が厚くなったものである[6]。洋なしは和なしよりも石細胞の量が少ないために、洋梨と和梨とでは食感に大きな差が生じる。

野生のもの(ヤマナシ)は直径が概ね2 - 3 cm程度と小さく、果肉が硬く味も酸っぱいため、あまり食用には向かない。ヤマナシは人里付近にしか自生しておらず、後述のように本来日本になかった種が、栽培されていたものが広まったと考えられている。なお、日本に原生するナシ属にはヤマナシの他にもミチノクナシ(イワテヤマナシ) (Pyrus ussuriensis var. ussuriensis) 、アオナシ(Pyrus ussuriensis var. hondoensis、和なしのうち二十世紀など果皮が黄緑色のものを総称する青梨とは異なることに注意)、マメナシ (Pyrus calleryana) がある。

ナシの花

落花後の果実

木についた状態。この後は日焼け防止の袋を被せられる

名前

ナシの語源には諸説ある。

江戸時代の学者新井白石は、中心部ほど酸味が強いことから「中酸(なす)」が転じたものと述べている。

果肉が白いことから「中白(なかしろ)」あるいは「色なし」

風があると実らないため「風なし」

「甘し(あまし)」

「性白実(ねしろみ)」

漢語の「梨子(らいし)」の転じたもの

また、ナシという名前は「無し」に通じることからこれを嫌って、家の庭に植えることを避けたり、「ありのみ(有りの実)」という呼称が用いられることがある(忌み言葉[7]。一方で「無し」という意味を用いて、盗難に遭わぬよう家の建材にナシを用いて「何も無し」、鬼門の方角にナシを植えることで「鬼門無し」などと、縁起の良さを願う利用法も存在する。

英語圏では多くの呼び名がある。

産地から、Asian pear, Chinese pear, Korean pear, Japanese pear

リンゴのような形から Apple pear

砂のようなシャリシャリした食感から Sand pear

日本語の「ナシ」から Nashi pear

歴史

日本でナシが食べられ始めたのは弥生時代ごろとされ[8]登呂遺跡などから多数食用にされたとされる根拠の種子などが見つかっている。ただし、それ以前の遺跡などからは見つかっていないこと、野生のナシ(山梨)の自生地が人里周辺のみであることなどにより、アジア大陸から人の手によって持ち込まれたと考えられている。文献に初めて登場するのは『日本書紀』であり、持統天皇693年において五穀とともに「、梨、蕪菁」の栽培を奨励する記述[9]がある。

記録上に現れるナシには巨大なものがあり、5世紀の中国の歴史書『洛陽伽藍記』には重さ10斤(約6キログラム)のナシが登場し、『和漢三才図会』には落下した実にあたって犬が死んだ逸話のある「犬殺し」というナシが記述されている[10][11]

江戸時代には栽培技術が発達し、日本で最古の梨栽培指南書 新潟市有形文化財に指定されている阿部源太夫著「梨栄造育秘鑑」[12]では100を超す品種果樹園で栽培されていたと記録がある。松平定信が記した『狗日記』によれば、「船橋のあたりいく。梨の木を、多く植えて、枝を繁く打曲て作りなせるなり。かく苦しくなしては花も咲かじと思ふが、枝のびやかなければ、花も実も少しとぞ。」と記載があり、現在の市川市から船橋市にかけての江戸近郊では、江戸時代後期頃には、既に梨の栽培が盛んだった事がわかっている。

明治時代には、現在の千葉県松戸市において二十世紀が、現在の神奈川県川崎市で長十郎がそれぞれ発見され、その後、長らくナシの代表格として盛んに生産されるようになる。一時期は日本の栽培面積の8割を長十郎で占めるほどであった。また、それまでは晩生種ばかりだったのだが、多くの早生種を含む優良品種が多数発見され、盛んに品種改良が行われた。

20世紀前半は、二十世紀と長十郎が生産量の大半を占めていたが、太平洋戦争後になると1959年に幸水、1965年に新水、1972年に豊水の3品種(この3品種をまとめて「三水」と呼ぶこともある)が登場し普及した。そのため、現在では長十郎の生産はかなり少なくなっている。
栽培

ナシの種子は乾燥に弱く、播種の際には注意を要する。発芽後は植木鉢へ移して個別に栽培し、十分に生育してから圃場へ移す。定植されたは長さ数cmにもなるを付けるが、これはバラ科としての形態形質の一端である。ちなみに、この棘はナシの幼若期に特有のものであり、花芽形成が始まる頃に伸びる枝には棘がない。

ナシの花弁は通常白色、5枚の離弁が基本であるが、色や花弁数には変異がある。また、おしべは約20本、花柱は5本である。ナシは本来虫媒花であるが、自家不和合性(同じ品種間では結実しない性質)が強く、栽培される場合には経済的な理由から他品種の花粉によって人工受粉が行われる。雌蕊(めしべ)の柱頭に付着した花粉は発芽し、花粉管を伸長して胚珠に到達、重複受精を行う。果実の育成は植物ホルモンの影響を受ける為、人工的にこれを添加する事も行われる。また、結実数が多すぎる(着果過多)場合には、商品となる果実の大きさを維持する為に摘果が行われる。

受粉を確実にするためマルハナバチなどを養蜂もされている。
樹形と台木台木として使われるカイドウ

ナシは種子植物であり、果実内には一個 - 十数個の種子が形成される。天然ではなどにより種子が散布されるが、改良品種で種子繁殖が行われる事は稀であり、通常は接ぎ木によって増やされる。台木には和なしの他、マンシュウマメナシやチュウゴクナシマルバカイドウも用いられる。

また、本来ナシは高さ10メートル程になる高木だが、果樹栽培の際には台風などの風害を避けるため、十分な日照を確保するために、棚仕立て(平棚に枝を誘導し、枝を横に広げる矮性栽培方法)が用いられる。
S因子による不親和性

ナシの品種のS因子型因子型品種
S1S2赤穂、独逸、早玉
S1S4八雲、翠星
S1S5明月、市原早生
S1S6今村秋
S2S3長十郎、青長十郎、青竜、武蔵
S2S4二十世紀、六月、早生長十郎、菊水、祇園、早生二十世紀
S2S5須磨、駒沢、愛宕
S3S4筑水、秋麗、なつしずく、あきづき、香麗、なつみず
S3S5丹沢、豊水、あけみず
S3S9新高
S4S5早生赤、太白、幸水、新水、旭、多摩、秀玉、喜水、王秋
S4S9新興、新星
S5S7晩三吉

ナシは同じ品種間で結実しない(自家不和合性)だけでなく、違う品種間でも結実しない(交配不親和性)組み合わせが多い。これらはS因子という遺伝子によるもので、S1 - S9の9種類が存在する。通常の細胞には2つのS因子があり、花粉卵細胞はそのいずれか一方を持つ。受粉時に雌蕊のS因子の一方と花粉のS因子とが一致した場合には、S因子が一致する花粉管のRNAが分解される。これは雌蕊側のS-RNase(S因子産物)の働きによるもので、結果として花粉管が伸長せずに受精に至らず、結実しないのである。
S因子型が完全に一致する場合


二十世紀の花(S2S4)に、祇園の花粉(S2またはS4) - 交配不能

祇園の花(S2S4)に、二十世紀の花粉(S2またはS4) - 交配不能

S因子の片方が一致する場合


二十世紀の花(S2S4)に、幸水の花粉(S4またはS5) - 交配可能

幸水の花(S4S5)に、二十世紀の花粉(S2またはS4) - 交配可能

S因子の両方が異なる場合


二十世紀の花(S2S4)に、豊水の花粉(S3またはS5) - 交配可能

豊水の花(S3S5)に、二十世紀の花粉(S2またはS4) - 交配可能

品種ナシの品種ごとの栽培面積
(特産果樹生産動態等調査、2010年)

ナシの栽培は古くからあったが、品種名が文献に現れるのは江戸幕府が行った特産品調査(1735年)である。当時既に150もの品種が記録されている。品種改良は20世紀初め頃から行われるようになった。現在では幸水、豊水、二十世紀、新高の4品種だけで、収穫量の約9割を占めているが、いずれも19世紀後半 - 20世紀前半に発見あるいは交配された品種である。

ナシの品種は、果皮の色から黄褐色の赤梨系と、淡黄緑色の青梨系に分けられる[13]。多くの品種は赤梨系で、青梨系の品種は二十世紀、八雲、菊水、新世紀、秋麗、瑞秋(二十一世紀梨)など少数である。この色の違いは、果皮のコルク層によるもので、青梨系の果皮はクチクラ層に覆われており黄緑色となるが、赤梨系の品種では初夏にコルク層が発達し褐色となる。

和梨と洋梨を問わず、ナシの品種は、果皮の色から大きく4つに分けられる。幸水梨などの赤茶色系のラセットタイプ(Russet pear)、リンゴのように赤い赤色系のレッドタイプ(Red pear)、中国梨のように黄色い黄色系のイエロータイプ(Yellow pear)、二十世紀梨などの青色系のグリーンタイプ(Green pear)などがある。レッドタイプとイエロータイプの中間種でピンクタイプなども存在する。ナシの主要品種の系統図
幸水幸水

幸水(こうすい)は赤梨系の早生種で、和なし生産の34%を占める最も生産量の多い品種である[8]。なし農林3号。

農研機構(旧園芸試験場)が1941年に菊水に早生幸蔵を掛け合わせて作り、1959年に命名・発表された。早生種の中でも特に収穫時期が早く、8月中旬から下旬である[13]。ただし、収穫時期が短い。赤梨系だが中間色(中間赤梨)と言い、若干黄緑色の地色が出る。酸味は少なく糖度が高い[13]。果肉は柔らかく果汁も多い[13]。早生種としては平均的な方だが、日持ちが短い。
豊水

豊水(ほうすい)は赤梨系の中生種で、和なし生産の30%を占める生産量第2位の品種である。なし農林8号。

農研機構(旧果樹試験場)によって1954年に作られ、1972年に命名された。糖度が高いが、ほどよく酸味もある濃厚な味が特徴。300 - 400 gと幸水よりやや大きめで、果汁が多い[8]。また、日持ちも幸水よりは長い[8]


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