梅毒
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梅毒

Treponema pallidumの電子顕微鏡写真
概要
診療科感染症内科学, 皮膚科学
分類および外部参照情報
ICD-10A50-A53
ICD-9-CM090- ⇒097
DiseasesDB29054
MedlinePlus000861
eMedicinemed/2224 emerg/563 derm/413
Patient UK梅毒
MeSHD013587
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梅毒(ばいどく、Syphilis。黴毒、瘡毒(そうどく)とも)は、スピロヘータの一種である梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)によって発生する感染症[1]性感染症の一種[1][2]
概要

in vitroでの培養は不可能であり(現在はウサギ精巣(睾丸)内で培養されている)、病原性の機構はほとんど解明されていない。1998年には全ゲノムDNA配列が決定[1]、公開されている。

梅毒の徴候や症状は進行に応じた3段階でそれぞれ大きく異なる。U期以降の性器や全身の皮膚の特徴的な薔薇模様で知られる。自然完治と誤解するような潜伏期を2度挟みながら、病状が徐々に悪化していき、最終的に死に至ることもある。症状が出ていない期間も感染力を持ち、体内は悪化の一途を辿っており、治療法は医師から完治診断を受けるまでペニシリン系のアモキシシリン投与を受けるのみである[3][4]

予防に有効なワクチンは存在せず、ペニシリン系抗生物質の投与により治癒自体はするが免疫は獲得できず、梅毒トレポネーマに再感染した場合は再び罹患する[1][5]。感染すると他の性感染症にもかかりやすくなるため、ヒト免疫不全ウイルスと重複感染するケースが度々ある[6][7][8][9]
感染者数の推移

1999年に全世界で推定1200万人が新規感染したと考えられており、その90%以上は発展途上国での感染であった。また感染者の約80%は男性である[10]。1940年代のペニシリンの普及以降、特効薬が開発されたことで晩期顕症梅毒の発症および死亡は劇的に減少した。しかし2000年以降、コンドーム不使用に起因する感染が多くの国々で増加しつつある。日本でも2011年頃から増加傾向にあり、2010年には約600件だった報告数が2022年には10,000件を超えた[11]
病原体
細菌学梅毒トレポネーマに侵された病理組織(銀染色)詳細は「梅毒トレポネーマ」を参照

梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)の特徴は螺旋状形態、グラム陰性であり、活発に運動する[12][13]。自然界における唯一の宿主ヒトである[14]。宿主がいなければ数日も生きられない。これはそのゲノムサイズが小さく(1.14 MDa)、主要栄養素の合成に必要な代謝経路の遺伝子が欠落しているためである。このため、倍加時間は遅く、30時間以上掛かる[12]

梅毒トレポネーマの近縁種もまた、3つの病気の原因となる。それぞれ、イチゴ腫(フランベジア)は亜種 pertenue、ピンタは亜種 carateum、ベジェルは亜種 endemicumが原因である[15]。これら近縁種は、梅毒トレポネーマとは異なり、神経疾患を引き起こさない[16]
感染経路

主に性行為オーラルセックスキスにより、生殖器肛門から感染、皮膚粘膜から侵入し[2][17]、進行によって血液内に進む。

米国における新規症例の感染経路は、男性同士の性行為が半数以上を占める。これ以外にも母子感染輸血血液を介した感染もある[18]。母子感染の場合、子供は先天梅毒となる。血液製剤については、多くの国々で検査が行われるため、感染経路となるリスクは小さい。この病原体は体外に排出されると急速に死ぬことから、物を介した感染は難しく[19]、日常生活における、食器や衣類の共有、トイレの便座、入浴からの感染は不可能である[20]

日本でも、2012年には男性同士の性交渉が原因と推測される感染例が最も多く報告されていた。しかし、2012?2016年にかけて、男女間の性交渉による感染が急激に増加した。この傾向は他の先進国においては報告されておらず、世界的には特殊である。男性は25?29歳、女性は20?24歳の感染者が多い。若い女性に感染が広がるのと同時に、「先天梅毒」の赤ちゃんの出生も増加した[21]
症状

症状は3段階で観察され[15]、先天性での発症も起こる。その多様な症例から、ウイリアム・オスラーから偽装の達人 ("the great imitator") と呼ばれた。例えば皮膚症状以外の症状として、「頭痛脳腫瘍(の疑い)」「認知症」「飛蚊症・霧視」「ラムゼイ・ハント症候群(の疑い)」「難聴」「大動脈瘤破裂」「左側腹部痛」「胃潰瘍(の疑い)」「急性肝炎」「ネフローゼ」「悪性リンパ腫(の疑い)」などが報告されている[22][23]

T期とU期が感染しやすく、感染後約1週間から13週間で発症する。現代においては先進国では、抗生物質の発達により、晩期顕症梅毒に進行することは殆どなく、死亡する例は稀である。早期顕症梅毒T期の最初の数週間は抗体発生前で、検査において陽性を示さない。また、T期とU期の症状が全く出ないこともあるので、注意が必要である。腸管梅毒 Toreponema pallidum(IHC)
早期顕症梅毒 T期
感染後3週間 - 3か月の状態。トレポネーマが侵入した部位(陰部、口唇部、口腔内)に塊(無痛性の硬結でを出すようになり、これを硬性下疳と言う)を生じる。塊はすぐ消えるが、稀に潰瘍となる。また、股の付け根の部分(鼠径部)のリンパ節が腫れ、これを横痃(おうげん)という。6週間を超えるとワッセルマン反応等の梅毒検査で陽性反応が出るようになる。
早期顕症梅毒 U期
感染後3か月 - 3年の状態。全身のリンパ節が腫れる他に、発熱、倦怠感、関節痛などの症状がでる場合がある。バラ疹と呼ばれる特徴的な全身性発疹が現れることがある。赤い目立つ発疹が手足の裏から全身に広がり、顔面にも現れる。特に手掌、足底に小さい紅斑が多発し、皮がめくれた場合は特徴的である。治療しなくても1か月で消失するが、抗生物質で治療しない限りトレポネーマは体内に残っている。腸管梅毒(肛門部) Traponema pallidum(IHC)


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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