栽培植物
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成熟したイネの穂。イネの実が自然に脱粒しないのは、収穫しやすい品種が人為的に選択されたためと考えられる[1]

栽培植物(さいばいしょくぶつ)は、人間によって栽培される植物を総括する用語である。栽培植物は農耕の発生により生まれたもので、人間による種子の選択などで遺伝形質的変化(栽培化またはドメスティケーション; 以下栽培化)が起こり、その結果として原種と比べて実の大型化などの特徴が現れたものが多い。こうした人為的に育てられた植物にみられる適応現象を、栽培化症候群(英語版)と呼ぶ[2][3]
概要

栽培植物の歴史は農業の歴史でもある。人類が新石器時代に植物の栽培による食糧生産を始めると、人為的な選択により植物に栽培化が起こり、野生植物に見られない特徴が現れる。栽培植物に見られる特徴として、利用部分の収穫量や農耕作業の効率を上げるものが多く、また一部には人間による栽培環境下でなければ育たない種もあり、栽培植物と人間は共生関係にあるといえる[4][3]。このような栽培化は連続的であり現在も進行しているが、農耕の始まり以来1万年という短期間で急激に進んだ変化であり、自然発生的な進化とは異なるとされる[4][5]

また、近代以降の農業は生産性を向上させるために、特定の栽培植物を画一的に栽培するようになった。こうした状況は遺伝的侵食 (genetic erosion) と言い換える事ができ、それゆえに現代の農業は病虫害の蔓延リスクを抱えている。それに対応するために、野生種・在来種・近縁種などとの交配や遺伝子操作による品種改良が行われているが、品種改良の元となる野生種・在来種・近縁種は遺伝資源と捉えられ、国際的な協力の元で様々な組織で保存されている[6]
栽培植物の成立過程

第四紀に至ると乾燥気候が発達して草原が出現した。さらにそうした環境を好むイネ科マメ科の植物が進出し、それを求めて草食動物が現れてある種の共生環境を形成した。こうした状況に人類が現れると、狩猟・採集、あるいは排泄やゴミの投棄などの生活行為により環境を攪乱していったと考えられている。そうした人為攪乱環境に適応した植物を雑草性植物と呼ぶが、その中から人類は有益な植物を積極的に利用し、やがて有用な雑草性植物の繁殖を管理したり、それ以外の植物を除去したりするようになった。この状態を半栽培と呼ぶ[5]

さらに段階が進むと、人類は積極的に環境を攪乱して耕作地をつくる。ここで栽培された野生植物あるいは雑草性植物は、自然から隔離された環境で、遺伝的選択と播種から収穫までの周期が繰り返されることで栽培化が進行し、栽培植物になったと考えられている。こうした変化は考古学的見地から1万年前ごろから始まったとみられるが、急激に進行したのではなく数千年単位の移行期間があったと考えられている[5]
七大起源中心地域


左から、ダイコンの原種のひとつとされるセイヨウノダイコン、起源地ヨーロッパのハツカダイコン、東アジアで2次的分化が起きたいわゆるダイコン[7]

多くの栽培植物は、特定の地域で栽培化が発生して各地に伝播したとされるが、その栽培化が発生した場所(起源地)は、大まかに7地域に纏めることができる[8]。また、栽培植物によっては栽培化が発生した場所よりも、伝播した地域でさらに多様化した発生したものもあり、こうした場所を「二次的分化の中心地」と呼ぶ[9]
地中海・西南アジア

中東を中心に地中海沿岸から中央アジアに至る地域で、ムギ類と家畜を伴った有畜農耕が発達し、肥沃な三日月地帯を始めとして1万年前に初期農耕が生まれた。特にムギ類から得られる炭水化物と、マメ類から得られるタンパク質、油用植物の植物性脂肪に加えて、家畜から得られる動物性脂質と乳製品を利用したバランスのよい食文化が生まれている[8]
アフリカ

西アフリカニジェール川流域からサハラ砂漠の南縁を通りエチオピア高原に至る地域で、モロコシヒエ類などの夏作イネ科穀類と、スイカオクラコーヒーノキなどの起源地である。農耕の始まりは定かではないが、6000年前ごろと考えられている[8]
中央アジア・インド

中央アジアからインドに至る、ステップサバンナ帯地域。ユーラシア大陸に広がった夏作のアワキビの起源地。その他に、キマメ、ケツルアズキ、ヤエナリなどのマメ類と、ナスキュウリゴマなどが知られる[8]
東アジア

中国の中・北部から日本列島に至る東アジア地域。農耕開始はおよそ6000?8000年前とされ、起源地が長江流域と思われるジャポニカ米や、アブラナ類が多様な変化をおこした二次的中心地でもある[8]
東南アジア

中国南部、インド亜大陸、東南アジアの大陸部と島嶼部を含む地域。農耕の開始は早く、1万年前と推定される。この地域で栽培化された植物は栄養繁殖するものが多いことが特徴で、ヤマイモ類、タロイモ類、バナナサトウキビなどが知られる。このほかチャノキ柑橘類マンゴーなどの熱帯性果物類、コショウなどの香辛料の起源地でもある[8]
メソアメリカ

メキシコ高原を中心とした北アメリカ南部からグアテマラを含む中央アメリカ北部に至る地域。この地域を起源地とする代表的な植物はトウモロコシで、このほかインゲンマメカボチャなどが7000年前の農耕で栽培化されたと考えられている。このほか、サツマイモトウガラシバニララン、リクチメン(綿)、カカオなどの起源地である[8]
南アメリカ

主にアンデス山脈に沿った高原地帯およびその周辺の東斜面。重要な農作物としてキャッサバジャガイモの起源地であり、トマトラッカセイや熱帯性のパイナップルパパイアなどの果物が知られる。またアマゾン地域のパラゴムノキは近代的な需要により最も新しく広範囲で栽培されるようになった植物である[8]
栽培植物に現れる適応現象


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