核酸の三次構造
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核酸の三次構造

核酸の三次構造(かくさんのさんじこうぞう)とは、核酸ポリマーの三次元的形状を指す[1]RNADNAの分子は、分子認識触媒などさまざまな機能を有する。このような機能を発揮するには正確な三次構造を取る必要がある。その構造は多様で一見複雑であるものの、簡単に認識できる三次構造モチーフがビルディングブロックとなって構成されている。ここではRNAとDNAの三次構造の最も一般的なモチーフの一部について記述するが、これらの情報は限られた数の既知構造に基づいている。新たなRNAやDNA分子の構造が解明されれば、さらに多くの三次構造モチーフが明らかとなるであろう。
らせん構造左からA型、B型、Z型のDNA二重らせん構造。
二重らせん詳細は「二重らせん」を参照

二重らせんは生体のDNAで最も多くみられる三次構造であり、RNAもこの構造をとることができる。自然界で見つかるDNAのコンフォメーションA-DNA、B-DNA、Z-DNAであると考えられている。ジェームズ・ワトソンフランシス・クリックによって記載されたB型のDNAが、細胞内で最も多くみられる構造であると考えられている[2]。ワトソンとクリックは、この構造を半径 10 A、ピッチ 34 A、10塩基対ごとに1回転する二重らせんとして記載した[3]。溶液中では、二重らせんは10.4?10.5塩基対ごとに1回転する。このねじれの頻度は、各塩基が隣接塩基に及ぼすスタッキング相互作用に大きく依存している。RNAの二重らせんは、A型の構造に類似したコンフォメーションをとる。

A型、B型、Z型以外のコンフォメーションも可能である。事実、多くのコンフォメーションが発見されており、将来的に新たなDNA構造が見つかったときに使えるアルファベットはF、Q、U、V、Yだけしか残されていない[4][5]。しかし、これらの構造形式の大部分は人工的に作り出されたものであり、自然発生した生物学的な系では観察されていない。.mw-parser-output .tmulti .thumbinner{display:flex;flex-direction:column}.mw-parser-output .tmulti .trow{display:flex;flex-direction:row;clear:left;flex-wrap:wrap;width:100%;box-sizing:border-box}.mw-parser-output .tmulti .tsingle{margin:1px;float:left}.mw-parser-output .tmulti .theader{clear:both;font-weight:bold;text-align:center;align-self:center;background-color:transparent;width:100%}.mw-parser-output .tmulti .thumbcaption{background-color:transparent}.mw-parser-output .tmulti .text-align-left{text-align:left}.mw-parser-output .tmulti .text-align-right{text-align:right}.mw-parser-output .tmulti .text-align-center{text-align:center}@media all and (max-width:720px){.mw-parser-output .tmulti .thumbinner{width:100%!important;box-sizing:border-box;max-width:none!important;align-items:center}.mw-parser-output .tmulti .trow{justify-content:center}.mw-parser-output .tmulti .tsingle{float:none!important;max-width:100%!important;box-sizing:border-box;align-items:center}.mw-parser-output .tmulti .trow>.thumbcaption{text-align:center}}RNA三重鎖Oceanobacillus IheyensisのグループIIイントロンでみられるmajor groove triplex。スタッキングした各層が異なる色で示されている。三重鎖間の水素結合は黒い破線、窒素原子は青、酸素原子は赤で示されている[6]ヒトのテロメラーゼRNAのシュードノット内で形成されたmajor groove triplex (U114:A175-U101)。水素結合は黒の破線、窒素原子は青、酸素原子は赤で示されている[7]
三重鎖

minor groove triplexは普遍的にみられるRNAの構造モチーフである。副溝(minor groove)との相互作用はリボースの2'-OH基を介して行われることが多いため、このRNAモチーフはDNAの三重鎖とは見た目が大きく異なる。minor groove triplexの例として最もよく見られるのはAマイナーモチーフ(A-minor motif)であり、アデニン塩基が副溝へ挿入される。しかし、このモチーフはアデニンに限定されているわけではなく、他の核酸塩基もRNAの副溝と相互作用することが観察されている。

副溝は挿入された塩基とほぼ完全な相補性を示す。これによって最適なファンデルワールス相互作用、広範囲の水素結合疎水表面の埋没が可能となり、エネルギー的に極めて有利な相互作用が作り出される[8]。minor groove triplexはループとヘリックスを安定にパッキングすることができるため、グループIイントロン(英語版)[9]グループIIイントロン[10]リボソームなどの巨大なリボヌクレオチド構造の主要な要素となっている。四重鎖典型的なフーグスティーン型塩基対を形成したGカルテットのリング構造[11]マラカイトグリーンのRNAアプタマーの結晶構造中にみられる四重鎖構造。G29は他の塩基と、主溝と副溝での水素結合、ワトソン・クリック型の水素結合を形成している[12]

標準的なA型RNAの主溝(major groove)はかなり狭く、そのため副溝よりも三重鎖相互作用を形成しにくいが、いくつかのRNA構造ではmajor groove triplexが観察されている。これらの構造は塩基対フーグスティーン型相互作用の組み合わせで構成されている。例えば、50SリボソームでみられるGGC triplex(GGC amino(N-2)-N-7, imino-carbonyl, carbonyl-amino(N-4); Watson-Crick)は、ワトソンクリック型のG-C塩基対に対し、挿入されたGが両塩基と擬フーグスティーン型の水素結合ネットワークを形成することで構成されている[11]。major groove triplexの他の注目すべき例としては、左の図で示されたグループIIイントロンの触媒コア[6]やヒトのテロメラーゼRNAで観察される触媒作用に必須な三重鎖[7]、そしてSAM-IIリボスイッチ(英語版)[13]などがある。

DNA三重鎖(英語版)も、B型DNAの主溝でフーグスティーン型または逆フーグスティーン型の水素結合を形成することによって可能である。
四重鎖

二重らせん、上述した三重鎖の他に、RNAとDNAはどちらも四重らせんを形成することができる。RNAの四重鎖には多様な構造が存在する。グアニン残基はフーグスティーン型水素結合によって“Hoogsteen ring”を形成し、四重鎖を形成する(グアニン四重鎖[11]。G-CとA-U塩基対はワトソン・クリック型塩基対と副溝での非標準的塩基対との組み合わせによって四重鎖を形成することができる[14]

マラカイトグリーンアプタマーのコアには、さまざまな水素結合パターンからなる、一種の四重鎖構造が存在する[12]。四重鎖は何度か連続した繰り返し構造を形成することができ、非常に安定な構造が作り出される。

四重鎖領域の独特な構造は、生体システムでさまざまな機能を果たしている可能性がある。2つの重要な機能は、リガンドやタンパク質が結合する可能性と、DNAやRNAの全体的な三次構造を安定させる能力である。その強固な構造は、染色体テロメア領域やmRNAUTRで見られるように、転写複製を阻害したり調節したりすることができる[15]。リガンドの結合には塩基の同一性が重要である。Gカルテットは通常カリウムイオンのような1価イオンを結合するが、他の塩基組成では他のリガンドを結合することができ、例えばU-U-C-U四重鎖はヒポキサンチンを結合する[14]

これらの機能に加えて、細菌ではmRNA上のリボソーム結合部位周辺のグアニン四重鎖は遺伝子発現の調節因子として機能することがある[16]。まだin vivoでは発見されていない興味深い構造や機能が存在する可能性がある。
同軸的スタッキングtRNAの二次構造(左下)と三次構造で同軸的スタッキングが示されている[17]

同軸的スタッキング(coaxial stacking)はヘリカル(らせん形)スタッキング(helical stacking)としても知られ、RNAの三次構造で高次構造を決定する主要な因子である。同軸的スタッキングは2つのRNA二重らせんが連続的なヘリックスを形成し、それら2つのヘリックスの相互作用面が塩基のスタッキングによって安定化されているときに生じる。同軸的スタッキングはtRNAPheの結晶構造の報告で記載された[18]


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