核内受容体(かくないじゅようたい、nuclear receptor)とは細胞内タンパク質の一種であり、ホルモンなどが結合することで細胞核内でのDNA転写を調節する受容体である。発生、恒常性、代謝など、生命維持の根幹に係わる遺伝子転写に関与している。ヒトでは48種類存在すると考えられている[1]。
核内受容体はリガンドが結合すると、核内に移行しDNAに直接結合して転写を制御する。すなわち転写因子の一種である。
リガンド核内受容体に結合する生体内分子の例
ビタミンAやビタミンDなどの脂溶性ビタミンや甲状腺ホルモン、ステロイドホルモンなどが核内受容体に結合し、活性化させる。核内受容体はきわめて多くの遺伝子転写を調節しているため、このようなリガンドは生体に強い作用をもたらす。疾患に関与する遺伝子も多く、アメリカ食品医薬品局が認可している医薬品の13%は核内受容体をターゲットとしたものである。
核内受容体の中には内在性リガンドが明らかとなっていない(少なくとも、広く認められていない)ものも多く、そのような受容体をオーファン(孤児)受容体と呼ぶ。そのうちFXRやLXR、PPARなどは、(比較的弱いながら)脂肪酸や胆汁酸、コレステロール代謝物など代謝に関連する化合物をリガンドとすることが近年の研究で明らかにされており、脂質センサーとして機能していると考えられている。またCARやPXRは異物センサーとして機能し、異物を代謝するシトクロムP450を誘導することが見出されている。これら近年に機能が見出された受容体は、Adopted Orphan Receptorとして新たに分類されている。 核内受容体同士は上記のように遺伝子配列に高い共通性があり、遺伝子スーパーファミリーを形成している。以下に、ヒトに存在する48種の核内受容体を相同性に基づく分類[3][4]により以下のように列記する。 サブファミリー:サブファミリー名グループ名(ある場合は、共通する内因性リガンド)受容体名(略号、NRNC表記、遺伝子)(内因性リガンド)
構造核内受容体の構造 上:一次構造の模式図 下:エストロゲン受容体におけるDBDとLBDの三次元構造
A/B領域:N末端側に位置し、リガンド非依存的な転写活性化能を有するAF-1領域を含む[2]。
C領域:DNA結合ドメイン (DBD)。2か所のジンクフィンガーが、DNAのホルモン応答領域(HRE)と呼ばれる部分に結合する。
D領域:ヒンジ領域。DBDとLBDを柔軟に結合している。
E/F領域:リガンド結合ドメイン(LBD)。αヘリックスが多く存在し、リガンド依存的に転写活性可能を有するAF-2領域を含む。リガンドの結合によってコンフォメーションが変動し、受容体の二量体化やコアクチベーター・コリプレッサーとの結合に寄与する。
核内受容体スーパーファミリーに属する受容体
サブファミリー1:甲状腺ホルモン受容体型
グループA:甲状腺ホルモン受容体 (甲状腺ホルモン)
甲状腺ホルモン受容体α (TRα, NR1A1, ⇒THRA)
甲状腺ホルモン受容体β (TRβ, NR1A2, ⇒THRB)
グループB:レチノイン酸受容体 (ビタミンAなどのレチノイド)
レチノイン酸受容体α (RARα, NR1B1, ⇒RARA)
レチノイン酸受容体β (RARβ, NR1B2, ⇒RARB)
レチノイン酸受容体γ (RARγ, NR1B3, ⇒RARG)
グループC:ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体 (脂肪酸、プロスタグランジン)
ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体α (PPARα, NR1C1, ⇒PPARA)
ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体δ (PPARδ, NR1C2, ⇒PPARD)
ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体γ (PPARγ, NR1C3, ⇒PPARG)
グループD:Rev-ErbA
Rev-ErbAα (Rev-ErbAα, ⇒NR1D1)
Rev-ErbAβ (Rev-ErbAβ, ⇒NR1D2)
グループF:RAR-related orphan receptor (コレステロール、ATRA)
RAR-related orphan receptorα (RORα, NR1F1, ⇒RORA)
RAR-related orphan receptorβ (RORβ, NR1F2, ⇒RORB)
RAR-related orphan receptorγ (RORγ, NR1F3, ⇒RORC)
グループH:肝X受容体型 (オキシステロール)
肝X受容体α (LXRα, NR1H3, ⇒NR1H3)