株式公開買い付け
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株式公開買付け(かぶしきこうかいかいつけ)とは、ある株式会社株式の買付けを、「買付け期間・買取り株数・価格」を公告し、不特定多数の株主から株式市場外で株式等を買い集める制度のことである。日本では公開買付けをTOB(take-over bid)と言うことが多い。
概説

公開買付けとは、経営権の掌握等を目的にその会社の株券や資本性証券を市場外で一定期間のうちに一定価格で買い取ることを公告して取得する方法をいう[1]。株式公開買付制度は投資家の保護と証券取引の秩序維持のために設けられている[1]。株式公開買付制度を導入している国には、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、日本などがあるがその内容は異なる[1]

第三者が、企業買収子会社化など、対象企業の経営権の取得を目的に実施することが多い。成長力のある会社を完全子会社あるいは社内事業部門に取り込むことで、親会社の企業価値を上げるという考え方もある。他には市場に流通する「自社の株式」(自己株式)を購入するために使われることもある[注釈 1]

公開買付けの買付け量によっては、対象となった企業が上場廃止になる場合がある。例えば東京証券取引所の場合、少数特定株主持ち分比率が90%を超えないことが、上場基準のため、この基準を抵触する量を買付けすると、対象企業は上場廃止となる。マネジメント・バイ・アウト (MBO) などのための公開買付けでは意図的に上場廃止する場合も多い。

公開買付けを略してTOBと言うが、これは英語のtakeover bidが語源である。アメリカ英語では、tender offerという表現もあり、投資銀行の世界では tender offer or public tender offerという言い回しの方が通りがよい。
日本における公開買付け

日本では金融商品取引法(旧証券取引法)において一定の場合に公開買付けを義務づける強制公開買付制度が採用されている[1]

具体的には金融商品取引法第27条の2により、有価証券報告書の提出が義務付けられている株式会社等(証券取引所上場する株式会社など)の「株券等」[注釈 2]を発行者以外の者が市場外で一定数以上の「買付け等」[注釈 3]をする場合などには、原則として公開買付けによらねばならないと定められている。

同法に定められた公開買付けは、その実施主体者の違いにより「発行者以外の者による株式等の公開買付け」と「発行者による上場株券等の公開買付け」に分けられている。

公開買付けが強制されることの趣旨は、経営権の移転に関する情報開示、株主平等の原則、コントロール・プレミアムの平等分配の3つにあるとされる。

実施に際しては、条件の新聞への公告や、財務局への届出の手続が必要となる。実施中は、この方法以外で当該株を購入することはできない。

公開買付けの方法及び公開買付けに関する開示方法等については金融商品取引法第27条の2?第27条の22の4に、公開買付者等関係者の禁止行為は同法第167条に、それぞれ規定されている。

特定企業が保有している株式を容易に取得し易くするために市場よりも割安な価格で株式公開買付けを行うこと(「ディスカウントTOB」と呼ばれている)も日本国内では可能[注釈 4]三菱商事[注釈 5]コカ・コーラボトラーズジャパンホールディングス[注釈 6]などが実施している。この方法は市場で大量の株式を売却すると株価が下がり、他の株主に影響を受けることを回避することが出来る一方、価格の妥当性などに不透明な余地が残ることから、「本来受け取るべき利益を毀損している」との批判の声もある[注釈 7][2]
歴史

日本で公開買付制度が導入されたのは1971年(昭和46年)で、1990年(平成2年)にほぼ現行の制度となった[1]

のちに市場内で議決権が全体の3分の1以上の株式を取得しても問題とならない、との解釈に基づき、ライブドア東証の取引開始前の時間外取引ニッポン放送株式の29.5%を取得、グループとして発行済み株式のうち35%を保有するに至った件(2005年2月)や、村上ファンドが市場内・市場外を併用して阪神電気鉄道 株式38%を取得した件(2005年10月)などの反省から、平成17年の証券取引法改正により、市場内取引でも、ToSTNetなど証券取引所の立会外取引(時間外取引)によって、買付け後の株券等所有割合が3分の1を超えるものについては、同じく公開買付けによらなければならないこととされた。「ニッポン放送の経営権問題#ライブドアによる敵対的買収事件」および「阪急・阪神経営統合」も参照

これらの騒動の影響により、2006年(平成18年)12月13日に施行された政省令によって、3か月以内に、市場外で5%超取得し、市場内と合わせて10%超取得し、保有割合が3分の1を超える場合は公開買付けが義務付けられた。しかし、この時点では市場内のみでの株式買い集めは対象外だったこともあり[注釈 8]アジア開発キャピタル子会社による東京機械製作所株式の急速な買い集めを防ぐことは出来ず、問題になった。これを受けて、市場内のみでの株式買い集めについても買付け後の株券等所有割合が3分の1を超える場合は公開買付けの義務づけを検討する方向で調整していることが2023年3月に報じられた[3][4][5]

なお、買付け後の株券等所有割合が3分の1を超えなくても公開買付けを行うことは可能である。2022年8月から同年10月までシダックス株式の公開買付けを行っていたオイシックス・ラ・大地ユニゾン・キャピタル(ユニゾン)が保有しているシダックス株式(27.02%)の取得を目的としているため、通常であれば公開買付けを行う必要性はないが、ユニゾンによる意向により、敢えて公開買付けを実施していた事例がある[6][7][8]
手続
公開買付開始公告

公開買付けによって株券等の買付け等を行わなければならない者は公開買付開始公告を行う必要がある(金融商品取引法27条の3)。
公開買付者による公開買付届出書の提出

公開買付開始公告を行った者(公開買付者)は買付条件等を記載した書類及び内閣府令で定める添付書類(公開買付届出書)を内閣総理大臣に提出をしなければならない(金融商品取引法27条の3)。
公開買付期間

公開買付期間とは公開買付開始公告を行った日から公開買付けによる買付け等の期間の末日までをいう(延長した場合は延長した期間を含む)(金融商品取引法27条の5)。公開買付期間は公開買付開始公告を行った日から起算して20日以上で60日以内でなければならない(金融商品取引法施行令8条)。
公開買付対象者による意見表明報告書の提出

公開買付けをされる株券等の発行者は、公開買付開始公告が行われた日から10営業日内に、当該公開買付けに関する意見等、所定の事項を記載した意見表明報告書を内閣総理大臣に提出しなければならない(金融商品取引法27条の10)。

意見表明報告書の意義は、公開買付けをされる株券等の発行者による当該公開買付けに関する意見を開示することで、当該公開買付けの位置付けを明らかにすることにより、投資者を保護するとともに証券市場の信頼性を確保することにあるといえる。

提出を義務付けられている者は、第4号様式により意見表明報告書を3通作成し、関東財務局長に提出し、かつ、公開買付者に対しても送付しなければならない。

意見表明報告書の記載事項は以下のとおり。
公開買付者の氏名または名称および住所または所在地

当該公開買付けに関する意見の内容および根拠

当該意見を決定した取締役会の決議または役員会の決議の内容

当該発行者の役員が所有する当該公開買付けに係る株券等の数および当該株券等に係る議決権の数

当該発行者の役員に対し公開買付者またはその特別関係者が利益の供与を約した場合には、その利益の内容

当該発行者の財務および事業の方針の決定を支配する者の在り方に関する基本方針(会社法施行規則第127条)に照らして不適切な者によって当該発行者の財務および事業の方針の決定が支配されることを防止するための取組み(買収防衛策の導入等)を行っている場合には、その内容

法に掲げる記載することのできる事項があるときは、当該事項
公開買付者に対する質問

公開買付開始公告に記載された買付け等の期間を延長することを請求する旨およびその理由

※ 期間の延長は、当該買付け等の期間が政令で定める期間より短い場合に限られ、政令で定める期間まで延長可能。

内閣総理大臣は当該意見表明報告書を公衆の縦覧に供する。


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