栞と紙魚子
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『栞と紙魚子』(しおりとしみこ)は、諸星大二郎による日本漫画少女向けホラー雑誌ネムキ』にて1995年Vol.23から2008年5月号まで不定期連載されていた。2008年、第12回文化庁メディア芸術祭においてマンガ部門優秀賞を受賞。

「栞と紙魚子の怪奇事件簿」として連続ドラマ化され、栞役を南沢奈央、紙魚子役を前田敦子が演じた。
概要

諸星大二郎の初めての少女向け作品。基本的に一話完結の短編である。

胃の頭町(いのあたまちょう)に住む主人公の二人が、周囲で起こる怪奇現象に巻き込まれる、少女向けホラーコメディ作品。作中に登場する脇役達はクトゥルフ神話などを元ネタとする奇妙な生き物などだが、主人公たちが非日常に溶け込み、独特の不条理めいてユーモラスな世界を作り出している。なお、伝承などある程度の事実に基づく同作者の『妖怪ハンター』シリーズと異なり、劇中の出来事の大半は事実無根のフィクションで、劇中に登場する書籍なども全く架空のものである。

胃の頭町のモデルは東京都三鷹市井の頭。ただし単に名前のモデルとなっているだけでほぼ無関係。
あらすじ

胃の頭町に住む美少女だが若干猟奇趣味があり、友人たちから「神経が何本か抜けている」と称される栞と古本屋の娘で稀少本のためなら身の危険をも冒す紙魚子。親友である二人は好奇心や諸事情から様々な出来事に巻き込まれていく。

売れっ子ホラー作家ながら奇妙な奥さんと奇矯な娘クトルーちゃんと仲良く暮らしている段一知先生。その段先生に一方的に惚れ込み彼のストーカーとなって公園暮らしをしている新進気鋭の猟奇詩人菱田きとら、栞の飼い猫だが人間の男性に化けるボリスなど一風変わった人々が織りなすホラーコメディ。
主な登場人物
栞(しおり)
主人公であり、「生首事件」から登場。新刊書店の娘。バラバラ死体の生首を持ち帰ったり、幽霊と噂される生物を虫取り網で捕まえたり、変わった実が流れてきたからと自殺者のある川に近づいたりと、「神経が何本か抜けている」と評される
天然ボケ女子高生。ロングヘアの美少女であり、その容姿が怪現象を引き起こすこともしばしば。基本的に面倒なことが嫌いな質なのだが、怪異事件に遭遇した友人達から面倒ごとを丸投げされ、それを断り切れないでいる。
紙魚子(しみこ)
主人公であり、栞同様「生首事件」から登場。古書店「宇論堂」の娘。三つ編みで眼鏡を掛けた理屈屋な女子高生。栞の好奇心を諌める役割を持つが、一方で古本・珍本マニアであり、希少本を目の前にすると見境を失くしてしまう。また性格は豪胆で、本を立ち読みする幽霊を相手にハタキで挑発する他、悪霊をひっぱたいて説教するなど、栞以上に怪異に対して耐性がある。読書家であるため割合に博識。劇中でその知識を披露する時、稗田礼二郎に扮することも。お下げをほどいて髪を下ろすと結構な美少女らしく、面食いな管がずっとそのままが良いと気にするくらい。
栞の関係者
ボリス
栞の飼う6歳の雄猫。人語を解し、人を襲うヨグの天敵であるなどそれなりに貢献している。詳しくはねこや参照。
栞のパパ
本屋店主。気さくで温厚、なにより天然ボケでのんき。町を巡る様々な出来事に巻き込まれることもあるがあまり深刻には思っていない。
栞のママ
専業主婦。性格は温厚でごく普通の主婦。
章(しょう)
栞の弟で小学生。掠われるなどして姉を心配させているが、むしろ姉のほうが傍迷惑。
紙魚子の関係者
紙魚子の父
宇論堂の店主。眼鏡をかけたやせぎすの中年男性。だが事実上店番は娘に丸投げしており、自身は珍本探しに明け暮れている。「室井恭蘭全集」
[注釈 1]を全て収集するのをライフワークとしており、これを巡って怪異事件に巻き込まれたこともある。
段さん一家と関係者
段 一知(だん いっち)
名前は
ハワード・フィリップス・ラヴクラフトの作品ダンウィッチの怪から。クトルーちゃんの父であり、連載初期に胃の頭町の木造平屋建てのボロ借家に引っ越してきたホラー作家。容姿はラヴクラフトによく似ており、作中ではほぼ常に黒いスーツを着用している。初対面の人には、人形のふりをして驚かせることを趣味にしている。性格は温和で割合に社交的。ただ遅筆に加えて仕事をサボりがちであるため常に締め切りと編集に追い回されている。考古学、民俗学に通じており怪異には好奇心旺盛な態度を見せ、若い頃は世界崩壊を企む魔導師と魔道書がらみの事件解決などをやっていた模様。栞同様に天然ボケかつ剛胆な性格をしており、血塗れのきとらを見ても動揺せずに食事を続け、自分の妻が胃の頭町七不思議の一つに数えられる事実については一切知らない。奇矯な娘が幼稚園から出禁を食らうなどしているため養育に頭を悩ませており、ベビーシッターとして栞を頼みにしている。ごく普通の夫婦間におけるケンカ(例としてグラビア雑誌をこっそり家に隠し持つ等)では妻には全く頭が上がらず一方的に怒られている。
「クトルーちゃんのお母さん」あるいは「段先生の奥さん」
巨大な顔を持つ、段一知の妻。「外国人」だが、日本以外の国家出身という意味ではなく異界の住人らしい。準レギュラーキャラだが固有の名前が明示されておらず、劇中では「クトルーちゃんのお母さん」または「段先生の奥さん」と呼ばれている。そもそもムルムル、ヨグをはじめとして胃の頭町の生態系が劇的に変化したのも奥さんが実家から持ち込んだ(あるいは実家から届いた)様々なものにくっついてきたせいである。太古の邪神「プープービヨマンカ」を遠縁の叔母に持つ。世界滅亡を図る魔道師の呪文によって呼び出されたところ、偶然段一知と出会い、それをなれそめとして結婚に至った。色白で整った巨大な顔と長い腕、節足動物軟体動物を彷彿とさせる足を持つが、作中で全身が描かれたことはない。連載中盤で怪魚に拉致された一件以降は、姿を自在に変化出来るようになり完全な人間体にもなれるようになった。性格は至って普通の妻であり、良き母親。栞や紙魚子、烏賊井らが来訪した際には普通にお茶を出す。段一知を熱烈に愛しており、一同で「百物語」を開いた折、なれそめをのろけながら周囲に語る程。しかし夫の浮気を疑えば猛烈に攻め立てる。ムルムルの佃煮が得意料理でご近所や知り合いに巨大なビン詰めにして配っている。ゼノ奥様とは仲良しで彼女の家を訪問して執事の出す得体の知れない茶も愛飲している。胃の頭七不思議「お化け屋敷の小説家の奥さん」に数えられている(七不思議のスタンプも持ち合わせており、本人“には”自覚があるらしい)。町の物の怪達からも胃の頭イチの実力者として認知されており、劇中ほぼ最強の存在。菱田きとらや長姫、更には弁財天ですら一目置いている。
クトルーちゃん
名前はクトゥルフ神話クトゥルーから。栞がベビーシッターのアルバイトを通じて出会った子供。ボサボサの髪、大きなリボン、大きく影の濃い目、暗めの色のドレスと不気味な容姿をしている。「テケリ・リ!」と叫び、ぬいぐるみを振り回しながらはしゃぐ、虫を食べる、首が180度回る、股間と首が入れ替わるなど、変形するなど奇行が多い。初登場時も足は裸足、片手に包丁、片手に血の滴る袋を持つという不気味な様相で栞達が絶対に関わりたくないと思わせるほどだった。その奇行ぶりは周囲にとうてい受け止められるものではなく、幼稚園からは1日も経たずに出禁を食らってしまったり、公園にいる母親集団から例のあの子と呼ばれて警戒されたりしている。
ヨグ
名前はクトゥルフ神話ヨグ=ソトースから。クトルーちゃんのペット兼友達。栞達にとっては恐怖の対象で、ボリスのライバル。
烏賊井(いかい)
段先生の担当。ゲロゲロノベルズの編集者。前任者と交替で赴任した。大きめの黒縁眼鏡と尖った髪型が特徴。段の仕事ぶりには毎度振り回され、よく怪異現象の巻き添えを食らっているのだが、天然ボケなのかあまり深刻には受け止めていない。段の担当に選ばれるだけあってムルムルもごく普通に食したりする。
ねこや関係者
ボリス
栞の飼い猫で化け猫。人間の姿をとることもできるが、猫の6歳は人間年齢にすると40歳程度であり「禿げ気味の中年男性」にしかなれない。物語後半では、人間に化けた子分の野良猫・シマキチともに雑貨屋「ねこや」を経営している。あざとい商売で儲けては好物のマグロの切り身を購入している。つくも堂とゴブリンは商売敵。割合に博識で目利きだが、店の商品は盗品やゴミ、出所の怪しいものばかり。猫だけあってコタツを見ると条件反射で丸くなってしまうが、温泉好きでもある。モデルは作者の飼い
ムサシ。
シマキチ
ボリスの部下。若い化け猫。ボリス同様に食い意地が張っている。助平でちゃっかり者。人間の姿になっても髭があるなど猫っぽい。
川さん
ねこやに商品を卸す行商人。どじょう髭が特徴。先祖が徳川譜代の武家だったと吹聴したりするが、その正体は人間に化けたカワウソ。股毛神社の神主とは仲が良い。
胃の頭町とその周辺の住人たち
菱田きとら(ひしだきとら)
目が細く、ロングヘアーで背が高い女流詩人。代表作は死体を切り刻むありさまを表現した限定500部の詩集「殺戮詩集」。「血だまりの詩」「胆嚢を堪能」「腸でなわとび」などの作品が収録されている。なお、「腸でなわとび」は、
中原中也の詩に似ている。恋人を殺し、死体を解体しながら詩を書いたとされるが、心神喪失で無罪となり精神病院に入院、その後退院し、公園などで野生のムルムルを食料としながら充実した放浪生活を送っている。段一知へ熱烈に想いを寄せており、隙あらば段先生の奥さんを亡き者にして愛妻の座を射止めようと暗躍する。凶暴かつ豪胆な性格であり、物の怪に監禁されたり体がカニに変身したりと受難のたびにパワフルな破壊活動を見せている。腕っ節も相当の物であり、胃の頭町の怪物や妖怪の類を相手にして単身で倒している事も多い。
海老名(えびな)
きとらの担当。絞殺社の雑誌「ぐるがる」の編集者。おかっぱ頭で眼鏡をかけている小太りの女性。きとらの生態には詳しく、携帯電話も持たない彼女の野宿生活先に的確に現れる。
ゼノ奥さんと執事
胃の頭町の奥地に住み、姿が見えない奇怪な生物「ジョン」、「ベティ」などを飼う品の良い女性。ジョンを連れて胃の頭町を散歩させるのが趣味。奥さん自身の見た目は普通だが住んでいる所が尋常ではない。ジョンの散歩代行を栞に頼んだことがきっかけで知り合う。毛むくじゃらのペット2匹が執事として仕えているが、彼らは適当な名前で横柄な態度で客人にお茶を振る舞う。このお茶を飲むと人間が植物化して彼女の家に「忘れ物」(お茶を飲んだ人間の魂)をしてしまうこともある。執事たちも元々は人間だったらしい。
帽子好きの兄弟
帽子好きな兄弟たち。繋がった帽子を被り、連なって歩く。上から見るとエンドウマメのような見た目。実は頭自体が繋がっている。騒動に巻き込まれて数人犠牲になることもあるが、毎度何事もなかったかのように登場する。親戚も含めて何人いるのか不明だが登場ごとに数が変わり、人数が増えると帽子も長くなる。付けたり外したり割と自由自在らしく、紙魚子から「やっぱりこいつら人間じゃない」と呆れられたりしている。
胃之頭公園のママ友たち
三人組の母たち。危険が迫ると魚のマウスブリーダーのように我が子を口の中に隠すのが特徴。うっかり我が子を飲み込んでしまうこともある。胃の頭町が怪魚に襲われた際には魚の姿になってすっかり馴染んでいたせいで、「もともとここの出身では?」と思われている。
つくも堂店主
ねこやの商売敵。チョンマゲ、作務衣姿の店主。売り物は付喪神で騒動の元になることも。当人は繭姫騒動の時に逃げ出したが、残された付喪神達はその後も胃の頭町に残り、他の妖怪達と仲良くやっている模様。


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