柔の形
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柔道形(じゅうどうかた)とは、日本伝講道館柔道において、攻撃防御の理合いを習得するために行われる形稽古のことである。柔道では単に(かた)と呼ばれる。)(かた)による形稽古は日本の武道日本の武術)では普遍的な稽古法である。

柔道(柔術)では、技を掛ける「取(とり)」と技を受ける「受(うけ)」にわかれ、決められた手順で技を掛け、受け止め、反撃し、それを反復することによってその理合いを理解し技を完成させる我が国の修行方法といえる。柔道の前身である柔術では形稽古から順序対応法を変えた「形残り」という稽古法が工夫され、乱取り(乱捕)に発展した。後年の柔道では自由な乱取り攻防がなされている。Hiki-otoshi

嘉納治五郎は、「一般の修行者に形の練習を勧める」と題して形を練習する順序に触れ、「柔の形から始めるのが適当である」としている。その理由として「相手の力に順応して勝ちを制するという理屈を理解せしむるに都合がよい。次に投げられることもなく、かつ静かな運動であるから、初心者に習いやすい」ことを挙げている。さらに古式の形に関しては「起倒流の竹中派に伝えられた形をそのまま伝えたものである。これは柔道の勝負上の高尚なる意味合いを理解せしむるため、また柔術が柔道に移っていく経路を示す上に極めて適当のものであるから、今日昔のままに伝えているのである」と述べている[1]
概要

柔道における形と乱取の関係は、柔道創始者嘉納治五郎によると「乱捕と形は、作文と文法の関係」[2]と説明され、そのいずれが欠けても不十分とされる。柔道形の技には、試合や乱取では禁止されたものも含まれている。

柔道の形には投の形(なげのかた)、固の形(かためのかた)、極の形(きめのかた)、講道館護身術(こうどうかんごしんじゅつ)、精力善用国民体育(せいりょくぜんようこくみんたいいく)、柔の形(じゅうのかた)、五の形(いつつのかた)、古式の形(こしきのかた)がある。剛の形(ごうのかた)も存在するが、未完成ということでほとんど行われていない。本家講道館で開催される形の講習会においては、精力善用国民体育、剛の形は扱われていない。また、講習会の最後には、演技会が行われ段階に応じて、習得証、精熟証、熟達証が発行されている。

昇段の際には試合の成績と並んで、形も審査対象として重要である。「講道館昇段資格に関する内規」(2015、平成27年)によれば、初段で投の形(手技、腰技、足技のみ)、二段で投の形全部、三段は固の形、四段は柔の形、五段は極の形、六段は講道館護身術、七段は五の形、八段は古式の形が審査対象である。女子は「講道館女子柔道昇段資格に関する内規」(2016、平成28年)によると、初段で投の形(手技、腰技、足技のみ)、二段で投の形全部、三段は固の形、四段は柔の形、五段は極の形、六段は講道館護身術、七段は五の形、八段は古式の形である。

例年正月に行われる講道館の鏡開式(かがみびらきしき)においては、投の形、固の形、極の形、柔の形、講道館護身術、五の形、古式の形の7種の形が行われ、一度に観覧することが出来る。また、全柔連主催の大会においても、いくつかの形が決勝の前などに披露されるようになっている。
競技の始まりと組織

国内では、競技柔道偏重への憂いも叫ばれるようになり、全日本柔道連盟の教育普及委員会が中心となり講道館と共催のかたちで、1997年(平成9年)9月講道館大道場において公式競技として初めて「全日本柔道形競技大会」が開かれ、形の競技化がはじまった。

大会会長の嘉納行光(財)講道館長、(財)全日本柔道連盟会長は、「形の本質を考えた場合、その基本に忠実でなければならないのは勿論であるが、ただ形式を真似ただけでは何の意味もなく、それぞれの個性からかもし出された味わい深みと云った芸術性を有する主観的内容が要素となっているだけに、審査基準設定の難しさ、又審査する者自身が形を十分に習得し、評価について判断力を有することが強く要求される事から今日迄実現に踏み切れなかった」と述べている。大会要項では「修行の本質を改めて認識し、体育、勝負、修心の目的を達成していくために、修行者の年齢や体力、性差等を越えて、生涯柔道を確立するための一環として『講道館柔道形』による競技大会を開催する」と謳っている[3]

さらに国内で10回(10年間)の選手権大会を経てから、形の国際大会開催の機運が高まり、いよいよ第1回講道館柔道「形」国際大会が2007年(平成19年)10月27,28日に、東京の講道館で開催されることになる。このとき実施されたのは、投の形、固の形、極の形、柔の形の4種目であった。審査員は5名で、各形2人の日本人と3人の外国人で構成された。

審査方法として審査員の最高点と最低点が省かれ、残り3人の合計点が 得点とされ、100点満点で表示された。審査員は、投の形に醍醐敏郎、小野沢弘史、ショウジ・杉山(イタリア)、ミゲル・エンジェル・ルソー(アルゼンチン)マイケル・ジョブ(南アフリカ)、固の形に大沢慶巳、岡本栄八郎、ミシェル・リー(イギリス)、ホセ・ヘラルド・セルナ・ノレナ(コロンビア)、ヘルミ・フセイン(エジプト)、極の形に西岡弘、貝瀬輝夫、ペーテル・マーチン(スウェーデン)、ヒロシ・ナカムラ(カナダ)、アイボア・インデコット・ディビス(オーストラリア)、柔の形に安部一郎、梅津勝子、レイモン・ドゥクレルク(ベルギー)、タカユキ・ヨシナガ(アメリカ)、ヤシン・アルアユビ(シリア)らがあたった。

これを契機とするかのように、国際柔道連盟は[4]、発展プロジェクト委員長のジャン・ルック・ルージェ理事のもと、ヨーロッパ柔道連盟が中心となり2008年1月に各大陸代表者を集めてパリで形委員会(フランコ・カペレッティ委員長:イタリア)を結成した。最初の形委員は、杉山正治(ヨーロッパ)、竹内久仁子(パンナム)、小俣幸嗣(アジア)、アイバー・エンディコット・デイビス(オセアニア)であり、アフリカからはトーマス・デュンケル(南アフリカ)が2013年に加わった。そこでは競技として投の形、固の形、極の形、柔の形、講道館講道館護身術の5種目をおこなうこと、各大陸で審査員を認定し、世界選手権のプレ大会であるワールドカップにおいて国際審査員を認定することが決定された。ルールや競技方法はヨーロッパ柔連のものが採用されたが、形は講道館のものであるという認識のもと、講道館発行のビデオを元にすることになった。

2009年(平成21年)には、全柔連に形特別委員会(松下三郎委員長)が設置され、世界代表選手の選考、強化を図る強化部会と、規定や審査員制度等の整備充実を図る普及部会で構成されることになった。形競技大会の運営に関しては、全日本柔道形競技大会実行委員会が担当している。2018年(平成30年)からは、教育普及・MIND委員会の中に形部会(松井勲部長)として位置付けられて活動している。

国際柔道連盟は、2017年から担当業務を明確にして形委員会を一新した。委員長はフランコ・カペレッティ(イタリア)が継続し、主任としてダニエル・アンジェリース(カナダ)、副主任ミシェル・コズロウスキー(ベルギー)、コンピュータ担当ディミトリー・ネメガイレ、形専門家として、向井幹博(日本)、大辻広文(日本)、推進・発展・管理部門に、エンビック・ガレーア(マルタ)、ミシェル・ユイト(フランス)、ベルトレッティ(イタリア)で構成された。
競技方法全日本形競技大会 得点表

競技は講道館の形テキスト、ビデオに基づいた競技者の演技に対して、競技審査規定に基づいた審査員の評価を点数化して競われる。点数の高い方から順位が決まるが、日本国内と国際柔道連盟では、審査方式などで若干異なる。
国内は、講道館柔道形競技規定によって行われる。競技が行われるのは、国内では投の形、固の形、極の形、柔の形、講道館護身術、五の形、古式の形の7種である。審査員は5名で、各技のほか、「礼法」(最初と最後を合わせて1項目)「全体の流れ」を評価項目とする。審査員は各評価項目毎に10点満点で評価し、その数字を0.5点刻みで記入する。5人の審査員の点数の最高点と最低点はそれぞれ1個除外され、残りの3人の点数の合計がその項目の得点となり、さらに、それらを合計したものが合計点となり、チーム(組)の得点となる。各形の技数の違いにより評価項目数が異なるので、合計点と100点満点で換算した点数を表示する。例えば投の形では、各評価項目10点満点×3人の審査員で得点となり、それを技数15と「礼法」「全体の流れ」の評価項目数分17で、510点満点となる。国内の競技会では、最初からルールが制定されていたわけではなく、しばらくの間、審査員は審査要領に従って審査を行っていた。
外国では国際柔道連盟形競技規定によって行われる。競技は、五の形、古式の形を除く5種で競われる。さらに、シニアのほか、年齢を制限したジュニア部門(16歳以上23歳まで)が設けられている。審査員はリザーブを含む6人を配置し、当該国の審査は行わない。ルールに従って各評価項目を、大きなミス(5点減点)を1個まで、中位のミス(3点減点)を1個まで、小さなミス(1点減点)を2個までを、各々の欄に??を記入する。さらに必要であれば調整点0.5点を加減することができる。各評価項目ごとに5人の最高点と最低点はそれぞれ1個除外され、3人の点数の合計を得点とする。形によって技数がことなることもあり、合計点も違っている。例えば投の形では、各評価項目10点満点×3人の審査員で得点となり、それを技数15と「はじめの礼法」「終わりの礼法」の評価項目数分17で、510点満点となる。
競技規程

講道館柔道形競技規定の内容(2013年施行、2017年6月改正)は、以下の様である。
形の種類

試合場

得点表示

服装

衛生

演技順序

審査及び審査員

審査方法

審査基準 (1)評価の観点 (2)評価の判断基準 (3)間違いがあった場合の評点について

失格

負傷/病気等の発生

抗議の禁止

その他

国際規定の内容(2010年1月)は、以下の様である。


試合場

得点の表示

参加者

服装

衛生面

審査員

形の評価法

形のはじめの動作、終わりの動作

怪我、病気、事故

規定外の事態が発生した場合

技等の評価(服装、衛生面、形の評価、はじめの動作、終わりの動作)は大きな間違いは5点、中程度の間違いは3点、小さな間違いは1点の減点となる。減点なしの場合は満点となり10点。2022年1月から、評価基準が改正され、評点を0点とする「技を忘れる」場合に加えて「重大な間違い」が設けられ、10の事例が示された。また、大きな間いにも新たに7例が加えられた。


形審査員が審査している
審査員

審査員は国内、国際ともに試験によって資格が形毎に認定される。全日本柔道連盟は公認形審査員規程によって、これを定めている。2008年6月には、アジア柔道連盟が初の審査員セミナー、試験を講道館で開催し、日本、イラン、シリア、香港、台湾、カザフスタン、韓国の審査員が認定された。さらに11月には、パリで国際柔道連盟の審査員試験が行われ32人が認定された。形ワールドカップはこれらの審査員によって行われ、その後の世界形選手権も継続されている。国内では、2012年から毎年、試験が行われ公認審査員が認定されており、研修会も行われている。国際柔道連盟では、不定期であるが、ほぼ2年に一回試験が行われている。
競技会
国内
全日本柔道形競技大会における演技全日本柔道形競技大会
全日本柔道形競技大会は1997年(平成9年)9月27日講道館において、第1回の形競技大会が開催された。実施種目は投の形、柔の形、古式の形の3種であった。審査員は、投の形主任が大沢慶己、柔の形主任が安部一郎、古式の形が川村禎三であり、ほかに講道館から高田勝善、和村公男、山本四郎、尾形敬史、梅津勝子、石橋桂子、秋山澄子、若松節子、永井多恵子があたった。地区柔連からは、柳沢甚之助(北海道)、大野木利永(東北)、長谷川博之(関東)、佐藤哲也(東京)、岡本栄八郎(北信越)、山本富男(東海)、桑形宗光(近畿)、浅田耕平(中国)、村田利行(四国)、宮川善一(九州)らがあたった。審査は各形ごとに7名以上の審査員で行うことが定められ第1回は9名であった。審査員席は2名ずつ演技場の各辺から四方を囲む形で配置された。優勝者は、投の形は鵜沢忠男・岩佐誠一組、柔の形は横山悦子・大森千草組、古式の形は佐藤正・宇津木俊博組であった。10回大会までは、全種目が行われていなかったが、11回(2008年)からは、全7種目が行われるようになった。出場選手は、全国10地区からの代表と、前年度優勝者、世界形選手権代表選手、アジア形選手権代表選手、さらに地区の異なる選手同士のチームを全国枠として別個に予選会を実施して最大2組を選考している。この全国枠からの優勝者も出ている。


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