東京乗合自動車
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東京乗合自動車のバスと女性車掌(白襟嬢)。(1934年、撮影:石川光陽

東京乗合自動車(とうきょうのりあいじどうしゃ)は、かつて日本に存在したバス運行会社。設立当初は東京市街自動車(とうきょうしがいじどうしゃ)という社名で、1918年(大正7年)に営業認可を受けた[1]1919年(大正8年)3月1日から東京市で最初のバス営業運行を行った企業とされる[2][注釈 1]。車体が深緑色を基調とした塗装がなされており、「青バス」という愛称がついた[3][4]昭和金融恐慌の引き金となった東京渡辺銀行の破綻に際し、1928年(昭和3年)に社債デフォルトとなった[5]。その後、経営混乱を来したが、根津嘉一郎が実質的オーナーであった東京地下鉄道傘下に入り、戦時統合によって東京市営(現:都営バス)に吸収された[6]
設立背景
日本でのバス営業の状況

1903年(明治36年)大阪で開かれた第五回内国勧業博覧会で、会期中、梅田駅から会場の天王寺公園までの間で蒸気自動車による乗合自動車の運行が行われた[7]。一般には、1903年(明治36年)春に広島県で行われた乗合自動車の運行が日本で初めてとされる。1903年(明治36年)9月に京都市で七条駅から祇園までの運行が始まった[8]。1905年(明治38年)に兵庫県[9]、1906年(明治39年)に大阪府[9]、1910年(明治43年)に長野県[10]、1912年(大正元年)に山口県[10]、1913年(大正2年)に山形県[10]、岐阜県[10]、1914年(大正3年)に徳島県[10]、愛知県[10]、長崎県[10]で乗合自動車営業が許可された。

このような状況のため、東京市街乗合自動車が営業を開始したとき「田舎にはとうの昔にある乗合自動車が、いまさら東京の大通りを走るのも一つの皮肉である」と新聞に書かれている[11]
東京市のバス営業計画

1911年(明治44年)8月、東京市は東京鉄道の路面電車事業と電力供給事業を買収し、東京市電気局(現:東京都交通局)を発足させた[12]

東京鉄道の買収直後、路面電車の補助的な交通機関として電気駆動のトロリーバスによる運転計画を立案し、1911年(明治44年)12月に警視庁へ認可申請を行った[13]。しかし警視庁は申請を4年間放置し、1915年(大正4年)になって前例がなく、交通取締上の不安ありとして却下した[13]
陸軍の自動車保護政策案

1917年(大正6年)、8月に陸軍は自動車産業の保護法案を議会に提案する意向を示した[14]。陸軍省軍務局砲兵課長であった鈴木孝雄は、東京朝日新聞の取材に対して、第一次世界大戦で自動車輸送が効果を発揮し、またヨーロッパの交戦国が戦争前から民間自動車の保護奨励を行っていたことに着目し、日本でも同様の自動車保護奨励が必要であると説いた[15]

1918年(大正7年)の帝国議会で、軍用自動車補助法が審議され、3月2日に、貴族院で可決された[16]。これにより、貨物自動車の1トン以上1トン半未満には4,500円、1トン半以上には5,300円の補助金が交付されることになった[17]。当時、輸入されていた該当車輌は約5,000円から5,800円程度で販売されていた[17]
渡辺家の状況

渡辺家は、江戸時代のはじめに摂津国から三河国を経て江戸にやってきた渡辺久右衛門からはじまる[18][19]。中興の祖とよばれる第8代渡辺治右衛門のときに日本橋魚河岸に一大勢力を築いた[18]。その子、第9代渡辺治右衛門が東京渡辺銀行を経営し、株式と不動産への投資を中心に一族の事業を発展させた[18]

平民新聞1906年(明治39年)に発表した東京市の大地主によると渡辺家当主の第9代渡辺治右衛門が108人中第5位であった[20]。「昔は日本橋から上野に帰るまでの道筋は大通りを除いては、たいていが渡辺の地所であり、渡辺の地所でない所は極少なかった《原文ママ》」という伝聞もある[21]。東京市街自動車の初期計画路線として新橋と上野の間をはじめ東京下町一円を中心に計画されており、渡辺家の地所、東京渡辺銀行の営業範囲とほぼ一致していた[22]

また大正期に渡辺家当主であった第10代渡辺治右衛門は「ダイムラーをはじめ、四、五台の車あり・・・もと車夫に運転させて乗りまわし」というほど自動車マニアであったといわれる[23]
若尾家の状況

甲州財閥の若尾、雨宮、小野、根津などが東京電車鉄道や東京市街鉄道を設立し、東京市内の路線敷設をすすめた[24]。しかし計画線の至るところで渡辺家の所有する地所にかかるため、渡辺家の同意が必要であった[24]1892年(明治25年)、若尾逸平が東京馬車鉄道を買収すると、第9代渡辺治右衛門を取締役として招いた[25]。これが、若尾家と渡辺家を結ぶ契機になった[24]


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