本陣殺人事件
[Wikipedia|▼Menu]
.mw-parser-output .pathnavbox{clear:both;border:1px outset #eef;padding:0.3em 0.6em;margin:0 0 0.5em 0;background-color:#eef;font-size:90%}.mw-parser-output .pathnavbox ul{list-style:none none;margin-top:0;margin-bottom:0}.mw-parser-output .pathnavbox>ul{margin:0}.mw-parser-output .pathnavbox ul li{margin:0}金田一耕助 > 本陣殺人事件

本陣殺人事件
著者横溝正史
発行日1973年4月20日
ジャンル小説
日本
言語日本語
ページ数407
コードISBN 4041304083
ISBN 978-4041304082(文庫本)

ウィキポータル 文学

[ ウィキデータ項目を編集 ]

テンプレートを表示

『本陣殺人事件』(ほんじんさつじんじけん)は、横溝正史の長編推理小説で、「金田一耕助シリーズ」の第1作である。1946年昭和21年)4月から同年12月まで『宝石』誌上に連載された。降り積もった雪で囲まれた日本家屋での密室殺人を描く。雑誌連載時の挿絵は松野一夫による。

横溝は本作で1948年第1回探偵作家クラブ賞を受賞した。

2014年3月時点で映画2本、テレビドラマ3作品が制作されている。
概要

本作は横溝の戦後最初の長編推理作品であり[注 1]、それまで日本家屋には不向きとされていた密室殺人を初めて描いた作品として知られる。また金田一耕助のデビュー作でもある。

『宝石』の編集長・城昌幸から連載の依頼を受けた作者は、本格中の本格というべき「密室殺人事件」か「一人二役」「顔のない死体」という三大トリックのどれかに取り組んでみたいと思ったが、『神楽太夫』[注 2]で顔のない死体を書いてしまったので、自分に本格ものが書けるかもしれないという自信を植えつけてくれたディクスン・カーが密室作家であることからも、こんどはどうしても密室殺人を書きたいと思った[1]

本作の冒頭でも述べられているが、疎開していた農家の天井も柱も長押もすべて紅殻塗りであったことがガストン・ルルー著『黄色い部屋の秘密』を連想させ、日本式家屋での密室殺人が書けないものか考え始め、さらにカーター・ディクスン著『プレーグ・コートの殺人』の四方を泥に囲まれた離れを雪に囲まれた離れに置き換えたらどうかと考えたと作者は述べている[2]

密室トリックについては、シャーロック・ホームズ・シリーズの『ソア橋』との共通性が指摘され、本作の中でも金田一耕助が推理の根拠としてそれを引き合いに出しているが、作者自身はロジャー・スカーレット著『エンジェル家の殺人』に着想を得たものだと語っている[3]

物語は、岡山県に疎開した作者が人伝いに聞いた話をまとめたという形式をとっている。このスタイルは同じく琴が扱われている谷崎潤一郎の『春琴抄』の懐古物語形式の影響であると横溝自身が語っている[4]。トリックに関わる小細工のすべてを琴に結びつけることで怪奇幻想色を演出するとともに、田舎町の本陣という日本の古い伝統を背景に置くことで、重苦しく怪しい雰囲気を作り上げた。この横溝の作風は本作に始まり、後続の『獄門島』や『八つ墓村』で完成された。

作中、金田一耕助は、A・A・ミルン の『赤い館の秘密』の素人探偵アントニー・ギリンガムに似ているという描写があるが、後年横溝は、ギリンガムがこの一作だけなので、金田一耕助も『本陣』一作だけのつもりだったと語っている[5]。『獄門島』で金田一が再登場した経緯は、本作の連載中に『宝石』の編集長・城昌幸から「次の作品を書け」との依頼があり、新しい探偵を考えるのが面倒という理由で金田一を再登板させることになったというものである[6]。金田一とその後何度もコンビを組むことになる磯川警部も本作に同時に登場している。

作品の最後は、作者による、作品冒頭の言葉遣いがアンフェアな叙述トリックではないという説明に費やされたり、作中、海外探偵小説の密室のトリックについて「探偵小説論争」が行われたりと、探偵小説批判が盛り込まれているのも本作の特徴となっている。

佐藤友之『金田一耕助さん・あなたの推理は間違いだらけ!』(青年書館)の中で「克子が処女でなかったことに嫌悪し殺人まで計画した賢蔵なら、初夜に克子を抱くことはありえず、克子の方は初夜に自分を求めない賢蔵に対して、"やっぱりこの人は私を許してはくれていないんだ"と、考えて悶々として眠れない夜を送ったはず。従って、克子は夜中に賢蔵のただならぬ気配に気がついたはずで、寝ているところを賢蔵が刺し殺すことは不可能。」と、いう点が疑問として指摘されている。

本作中では、村・川・駅の名前の漢字がそれぞれ伏字となっているが、川―村、岡―村、総―町、清―駅、高―川については作中設定に合致する実在地名(川辺村岡田村(ともに現・倉敷市)、総社町(現・総社市)、清音駅高梁川)が存在する。久―村は久代村(現・総社市)に相当するとも考えられるが、清音駅よりも総社駅の方が近い(清水京吉が清音駅から久代村を目指すのは不自然)という問題がある。

一柳家のモデル宅は、岡田村字桜部落(現・真備町岡田)にある横溝正史疎開宅に近い西側に、本家分家がどっしりと棟を並べて村人たちから「大加藤」と呼ばれている加藤家の屋敷の本家で、もとは川辺村で本陣を構えていたが、1893年(明治26年)の高梁川大氾濫で桜部落へ移ったと、横溝の妻・孝子が記している[7]

清音駅総社市
左側に金田一耕助顔出しパネルが立てられている。

一柳家のモデルとされる邸宅跡地[注 3]
倉敷市真備町岡田)

川辺本陣跡の石碑
(倉敷市真備町川辺)
川辺本陣は明治26年の大洪水で流出した旨が、説明板に記載されている。

あらすじ

1937年(昭和12年)11月25日岡山県の旧本陣の末裔[注 4]・一柳家の屋敷では、長男・賢蔵と小作農の出である久保克子の結婚式が執り行われていた。式と披露宴は、賢蔵の妹・鈴子がを披露するなどして何事もなく午前2時前にお開きとなった。

その2時間ほどのち、明け方に近くなった頃、新郎新婦の寝屋である離れ家から悲鳴と琴をかき鳴らす音が聞こえてきた。父代わりに克子を育てた叔父の久保銀造らが雨戸を壊して中に入ると、賢蔵と克子が布団の上で血まみれになって死んでいた。しかし離れ家内には死んだ夫婦以外に誰もおらず、庭の中央には血に染まった凶器の日本刀が突き立っているほかには、披露宴終了直後に降り出して積もった雪の上にも犯人の逃げた跡がなかった。銀造は名探偵と見込んで自らが出資している金田一耕助が偶然家に遊びに来ていたので、彼を呼ぶ。

警察による捜査の結果、結婚式の直前に顔を隠し手袋をした3本指の男が一柳家を訪れ、賢蔵に「君のいわゆる生涯の仇敵」と署名した復讐遂行を示唆する手紙を託したこと、および「生涯の仇敵」と書かれた男の写真が賢蔵のアルバムにあったことが判明し、さらに日本刀についていた指紋と2日前に3本指の男が駅前で水を飲んだコップとの指紋が一致したため、3本指の男がその「生涯の仇敵」であり、犯人であると目される。しかし、夢遊病が疑われる鈴子が式の前夜に死んだ愛猫の墓に参っていたときに出くわしたと証言した以外、その足取りがつかめなかった。

やってきた金田一は、一柳家の三男・三郎の本棚いっぱいの探偵小説の存在に非常な興味を示し、三郎と探偵小説における密室殺人の論議を交わす。その夜、同刻に再び琴の音が響き、同じ離れ家で重傷を負った三郎が発見される。やはり庭に凶器の日本刀が突き立っていた。三郎は金田一との探偵小説論議がきっかけで密室殺人の秘密を暴くべく離れ家に来たところ、不審な男に斬りつけられたと証言する。

そんな時克子の友人が訪れ、克子とかつて交際のあったある不良青年が犯人に違いないと主張する。その男と「生涯の仇敵」の写真の男が別人なので警察は混乱するが、金田一は、克子が処女でないことを賢蔵に打ち明けていたということを知って事件の大筋に見当をつけ、鈴子の愛猫の墓から手首から切り落とされた3本指の手を発見。さらに家の近くの炭焼き窯から3本指の男の死体を発見する。

金田一は一同を事件現場に集め、事件のトリックを再現してみせた。水車に結びつけてあった糸に引かれて、凶器の刀は雨戸上部の欄間より外に出、幹に刺さった鎌で糸を切られ、地面に刺さるという仕掛けなのであった。事件のたびに琴が鳴らされたのは、琴糸をその通過経路上にある叢竹が弾いて音を鳴らしてしまうことをカムフラージュするためであった。


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:79 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef