木星の大気
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ガス惑星である木星大気は、岩石惑星が持つ大気とは異なり、惑星本体と大気との間に明確な境界が存在しない。ただ、約1 atmになっている高度を木星の地表と定義した時、大気の厚さは約5千 kmに及ぶ。なお大気上層と宇宙との境界が明確でない点は他の大気を持つ太陽系の惑星と同様である。木星の大気は水素分子を主成分としている。ただし大気は全球に渡って均一ではなく、宇宙から見ると帯状の構造や渦が見られ、さらに、雷のような気象現象も観測されている。しかしながら、これらの成因などは21世紀初頭においても完全には解明できずにいる。
概要2000年の木星の雲景木星のジェット

ほとんどが水素分子とヘリウムから構成され、大気における両者の比率は太陽とほぼ同じである。メタンアンモニア硫化水素等のその他の化学物質も少量存在する。水は大気の深くにあると考えられているが、直接測定される量は非常に少ない。酸素窒素硫黄希ガスの量は、太陽より3倍程度多い。

木星には地殻がなく、大気は明確な境界なく徐々に液体状の木星の内部に遷移していく[1]。下限から上限に向けて、大気の層は、対流圏成層圏熱圏外気圏に分けられる。それぞれの層は、温度勾配によって特徴付けられる[2]。最下層の対流圏は、複雑なのシステムを持ち、アンモニア、硫化水素アンモニウム、水の層で構成される[3]。木星の地表から見える上層のアンモニアの雲は、赤道に平行な数十の帯状であり、ジェットとして知られる赤道に平行な強い風によって区切られている。帯は色が異なり、暗い帯はベルト、明るい帯はゾーンと呼ばれる。ベルトよりも冷たいゾーンは上昇気流、ベルトは下降気流に相当する[4]。ゾーンの明るい色は、アンモニアの氷のためであると考えられているが、ベルトの暗い色の原因は分かっていない[4]。帯状構造とジェットの起源は良く分かっていないが、2つのモデルが提案されている。浅灘モデルでは、これらは、安定な惑星内部を覆う表面の現象であるとし、深層モデルでは、バンドやジェットは、水素分子から構成される木星の円筒状のマントルの深層循環が表面に表れているものであるとする[5]

木星の大気は、低気圧等の様々な活発な現象を見せる[6]。低気圧や高気圧による渦巻きは、赤色、白色、茶色等の大きな楕円形の斑点を形成する。そのうち最大のものは、大赤斑[7]オーバルBA[8]で、どちらも赤色である。これら2つやその他の大きな斑点のほとんどは、高気圧である。より小さな高気圧は、白色になる傾向がある。このような渦巻きは、深さ数100kmを超えない比較的浅い構造であると考えられている。南半球に位置する大赤斑は、太陽系で既知の最も大きな渦巻きである。地球をいくつか飲み込むほどの大きさであり、少なくとも300年は存在し続けてきた。大赤斑の南にあるオーバルBAは、大赤斑の3分の1程度の赤い斑点で、2つの白いオーバルが融合して2000年に形成された[9]

木星には、常に雷を伴う強力な嵐が吹いている。この嵐は大気中の水分の対流と、水の蒸発と凝縮の結果である。大気が強く上昇する場所では、明るく濃い雲が形成される。嵐は、主にベルトの領域で発生する。木星の雷は、地球のものよりも強力であるが、回数は少なく、平均的な雷の活動レベルは、地球と同程度である[10]
垂直構造木星の大気の垂直構造。圧力は緯度とともに小さくなる。ガリレオは、気圧1バールの木星の「表面」から132km下の深さで送信を停止した[2]

木星の大気は、4つの層に分類され、高度が高くなるにつれて、対流圏、成層圏、熱圏、外気圏となる。地球の大気とは異なり、木星には中間圏はない[11]。木星には、固体の表面はなく、大気の最下層である対流圏は、惑星の液状の内部構造に滑らかに繋がっていく[1]。これは、温度や気圧が水素とヘリウムの臨界点よりも上であるためであり、気相と液相との間に明瞭な境界がないことを意味する。水素は、12バール前後では、超臨界流体の状態になる[1]

大気の下限がはっきりしないため、気圧1バールの高さより90km程度下にあり気温が340Kである、気圧10バールの高度が一般的に対流圏の底として扱われている[2]。ただし科学においては、1バールの気圧が通常、高度0、つまり木星の「地表」として選ばれる[1]。地球と同様に、大気の最上層である外気圏の上限は曖昧である[12]。密度は徐々に低下し、「地表」から約5,000km上空で、惑星間空間に滑らかに繋がる[13]

木星の大気の垂直方向の温度変化は、地球の大気の温度変化と似ている。対流圏の温度は、高度とともに徐々に低下し、成層圏との境界である対流圏界面で最低となる[14]。木星では、対流圏界面は雲の観測される1バールの高さよりも約50km高く、気圧は約0.1バール、気温は110Kである[2][15]。成層圏では、高度約320km、気圧1マイクロバールの熱圏との境界までに気温は約200Kまで上昇する[2]。熱圏では、温度は上昇し続け、最終的には、高度1,000km、気圧1ナノバール程度の地点で、温度は1,000Kに達する[16]

木星の対流圏には、複雑な雲のシステムが存在する[17]。上層の雲は、気圧が0.6から0.9バールの高度にあり、アンモニアの氷でできている[18]。このようなアンモニアの雲の下に、硫化水素アンモニウムや硫化アンモニウム(1-2気圧)、水(3-7気圧)でできたより濃い雲が存在すると考えられている[19][20]。凝縮するには温度が高すぎるため、メタンの雲は存在しない[17]。水の雲は最も密度の濃い層を形成し、大気の動きに最も強い影響を与えている。これは、アンモニアや硫化水素と比べて、水の高い蒸発熱と豊富さによる(酸素は、窒素や硫黄と比べてより豊富に存在している)[11]。対流圏(200-500ミリバール)や成層圏(10-100ミリバール)の様々なもやの層は、雲の層のさらに上にある[19][21]。後者は、凝縮した重い多環芳香族炭化水素ヒドラジンで構成されており、成層圏上層(1-100マイクロバール)で、太陽の紫外線の影響を受けたメタンから生成される[17]。成層圏におけるメタンの水素分子に対する存在量の比は、約10-4であり[13]、またエタンアセチレン等のその他の軽い炭化水素の水素分子に対する存在量の比は、約10-6である[13]

木星の熱圏は、気圧が1マイクロバールより低く、大気光オーロラX線放射等が行われる領域である[22]。この層では、電子イオンの密度が上昇し、電離層を形成する。モデルでは、400Kを超えないのに対し[13]、熱圏の温度は全体的に800Kから1,000Kと高い。


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