有機EL
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有機エレクトロルミネッセンス(ゆうきエレクトロルミネッセンス、英語: organic electro-luminescence: OEL)、有機EL(ゆうきイーエル)とは発光を伴う物理現象であり、その現象を利用した有機発光ダイオード(ゆうきはっこうダイオード({{{2}}})、: organic light-emitting diode: OLED)や発光ポリマー(はっこうポリマー、: light-emitting polymer: LEP)とも呼ばれる製品一般も指す[1]

これらの発光素子は発光層が有機化合物から成る発光ダイオード (LED) を構成しており、有機化合物中に注入された電子正孔の再結合によって生じた励起子(エキシトン)によって発光する。日本では慣習的に「有機EL」と呼ばれることが多い。次世代ディスプレイのほか、LED照明と同様に次世代照明技術としても期待されている。
歴史
発明

1950年代初頭、フランスのナンシー大学のアンドレ・ベルナノーゼ(英語版)らが有機ELを発見した。塩素酸マグネシウムまたはセロファンに有機染料を吸着させた素子交流電場をかけて発光させた[2]

1960年にニューヨーク大学のマーティン・ポープ(英語版)らが、有機結晶へのオーミック暗電流注入電極接触を開発した[3][4][5]。さらに、正孔および電子注入電極接触に必要なエネルギー要件(仕事関数)を示した。これらの接触は、現代のすべての有機ELデバイスにおける電荷注入の基礎となっている。また、63年には薄いアントラセン結晶(10?20 m)に電極を付け 400Vもの大電圧をかけ初めて直流電流で発光させた。

1965年、ウルフギャング・ヘルフリック(英語版)らはキャリア注入電極を工夫することで低仕事関数の液体電極を用いてホールと電子の注入効率を向上させ、アントラセン単結晶で初めて二重注入型結合電界ELを発光させた[6]。これは現代の二重注入デバイスの先駆けである。また現在の重要な技術の一つである発光性不純物をドープした研究が、H.P. Schwobらによって報告された。彼らはアントラセンに1 ppmのテトラセンをドープし、アントラセンとテトラセンの両発光量が電流密度によって変わることを示した。しかしこの時点では結晶の厚さが数十μ~数mmと厚いため、発光には高電圧が必要だった。

そのため薄層化の研究が盛んに行われた。その中でも、イギリス国立物理学研究所のRoger Partridgeが1983年に報告した、ポリマーフィルムのELの初観測は現在につながる研究となった[7]
実用化

現在もっともよく用いられている有機EL積層機能分離型デバイス発光素子[8]は1987年にイーストマン・コダック社ケ青雲、スティーヴン・ヴァン・スライク(英語版)らによって発明された[9]。このSH構造の有機EL素子の特性は、10 VのDC電圧で1000 cd/m2、1.5 lm/Wを達成し、従来の報告を大きく上回った。

ポリマーELの研究は、1990年にケンブリッジ大学キャヴェンディッシュ研究所のJ. H. Burroughesらにより、ポリ(p-フェニレンビニレン)の厚さ100 nm のフィルムを使用した高効率な緑色発光ポリマーベースのデバイスが報告されて最高潮に達した[10]。分子材料から高分子材料への移行により、これまでの有機膜の長期安定性の問題が解決され、高品質な膜を容易に作ることが可能になった[11]。その後の研究では、多層ポリマーが開発され、プラスチックELや有機ELの研究・デバイス化という新しい分野が急速に発展していった[12]。1995年に山形大学城戸淳二らが開発した白色有機ELは[13]、有機ELバックライトディスプレイや照明の実用化を実現した[14]
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コダックと三洋電機は1999年に有機ELディスプレイの共同研究・開発・生産で提携した[15]。同年9月には、世界初の2.4インチのアクティブ・マトリクス型フルカラー有機ELディスプレイを発表した[16]。2002年9月には、CEATECでカラーフィルター付き白色有機ELをベースにした15インチHDTVフォーマットのディスプレイの試作機を発表した。

低分子有機ELの製造は、1997年にパイオニアが開始し、2001年にTDK、2002年には後に世界最大の有機ELディスプレイメーカーとして市場拡大に大きく貢献するサムスンディスプレイとなるSamsung-NEC Mobile Display(SNMD)も参入した[17][18]

2007年に発売されたソニーのXEL-1は、初の有機ELテレビとなった[19]

2017年12月5日には、ソニーとパナソニックの印刷可能な有機EL事業部門を継承するJOLEDが、世界で初めてインクジェット印刷された有機ELパネルの商業出荷を開始した[20]

有機EL材料会社の一つであるユニバーサル・ディスプレイ(英語版)は、工場こそ持っていないが、世界の大手有機ELメーカーが採用している有機ELの製品化に関する特許を多数保有していることで莫大な利益をあげている。
有機ELの発光原理

陰極および陽極に電圧をかけることにより各々から電子と正孔を注入する。注入された電子と正孔がそれぞれの電子輸送層・正孔輸送層を通過し、発光層で結合する。

結合によるエネルギーで発光層の発光材料が励起される。その励起状態から再び基底状態に戻る際に光を発生する。励起状態(一重項)からそのまま基底状態に戻る発光が蛍光であり、一重項状態からややエネルギー準位の低い三重項状態を経由し基底状態に戻る際の発光を利用すれば燐光である。励起しても光に上手く利用できないエネルギーは無放射失活(熱失活)する。

陰極にはアルミニウムマグネシウム合金、カルシウム等の金属薄膜を、陽極には酸化インジウムスズと呼ばれる透明な金属薄膜を使う。発生した光は反射面で反射され、透明電極と基板(ガラス板やプラスチック板など)を透過する。
発光材料

有機EL素子材料にはさまざまな材料が試されてきた。それらは大きく高分子と低分子のどちらかに分けられる。ポリマー状の分子を用いたものが高分子材料であり、それ以外の分子を用いたものが低分子材料である[注 1]。さらに発光層では蛍光材料と燐光材料に分けられる。低分子材料を用いた有機EL素子は、必然的に発光のために層構造が多層化し、少なくともホール輸送層・発光層・電子輸送層から構成される[注 2]。この場合の多層構造は精密に厚みが制御された薄膜である必要があるため、一般に真空蒸着が必要となる。高分子材料を用いた有機EL素子は、輸送層や発光層などの精密な多層構造を必要とせず、各層の機能を兼ね備えた1種類の有機物を1層だけ用いる。このため、印刷などの方法が利用できる[21]
蛍光材料
前述一重項発光を利用した材料で、光の三原色となる赤・緑・青色ともコスト・寿命・耐久性・成膜性に充分な要件を持った材料がそろっている。白色有機EL(: White OLED: WOLED)は山形大学城戸淳二の研究室によって1993年に発見された[22]。有機ELの照明と大型ディスプレイパネルは白色有機ELによって実用化が可能になった。
燐光材料
前述の三重項発光を利用した材料であり、原理的に蛍光材料よりはるかに発光効率がよい。しかし燐光材料は寿命、電流増加時の効率低下(三重項-三重項消滅)、精製の困難さ、熱耐性など問題があったが、現在は赤や緑などの材料が実用化され普及している。青色はまだ十分な特性を持つ材料が開発されておらず、実用化には至っていない。各社がこの青色燐光材料の開発競争を続けている状況である(2016年現在)[23]
低分子材料
低分子材料では主に真空蒸着を使用し、有機材料の薄膜化・積層化が可能なメリットを生かしてデバイスを作成している。高分子材料と比したとき、低分子材料の欠点として製造技術が挙げられる。デバイスにする際、薄膜製造(後述)には透明のガラス基板やプラスチック基板に蒸着させる方法が一般的である。しかし通常のシャドウマスクを用いた色分け成膜技術はシャドウマスクの精度、熱膨張の観点から大型化が困難である。現状の有機ELディスプレイが小型のものに限られるのはそのためである(2008年段階)。この問題を解決するために様々な手法が提案されている(「解像度」の項を参照)。印刷技術に対応するため可溶性を持たせた低分子材料も研究開発が行われている。
高分子材料
高分子材料はそれをインクとした印刷技術の応用により大量・安価・大型の有機ELデバイスが容易に生産できると言われ、次世代の材料として日本国内の大手印刷会社・化学企業・電気家電メーカー等で研究開発が続けられている。


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