数学、特に順序論
(英語版)において、半順序集合の部分集合 S の最大元(さいだいげん、英語: greatest element)とは、S の全ての元の中で最も大きいものである。また、半順序集合の部分集合 S の最小元(さいしょうげん、英語: least element, smallest element)とは、S の全ての元の中で最も小さいものである。最大元(resp. 最小元)は最小元(resp. 最大元)の双対概念(英語版)である[1]。本項では数学での用語について述べ、それ以外は「その他」に記載している。 正式には次のように定義される。(P, ≦) を 1 つの半順序集合とし、S を P の 1 つの部分集合とする。そのとき、次の条件 S の任意の元 s に対して、s ≦ g を満たす S の元 g を S の最大元という。また、次の条件 S の任意の元 s に対して、g ≦ s を満たす S の元 g を S の最小元という。定義より、S の最大元(resp. 最小元)は S の 1 つの上界(英語版
厳密な定義
注
上界と同様に、最大元は必ずしも存在しない[1]。たとえある集合が上界や上限(英語版)を持っていたとしても、その集合が最大元も持つとは限らない[1]。例えば、実数全体の集合 R において、負の実数全体の集合は無数の上界と上限 0 を持つが、最大元を持たない。最小元と下界と下限とについても同様である[1]。有限全順序集合の空でない部分集合は常に最大元と最小元とを持つ。最大元を極大元(英語版)と混同してはならない。たとえある集合が極大元を持っていたとしても、その集合が最大元も持つとは限らない[1]。しかしながら、もしも最大元が存在するならば、それは唯一の極大元である[1]。最小元と極小元とについても同様である[1]。
半順序集合 S 自身の最小元と最大元とを、それぞれ bottom と top あるいは zero (0) と unit (1) ということもある。また、その最小元と最大元とを、それぞれ記号 ⊥ と ⊤ とで表すこともある。半順序集合自身の最小元と最大元とが存在する場合、その半順序集合を bounded poset という。半順序集合が可補束であるとき、記号 0 と 1 とが好んで使われる。さらに初歩の情報については「順序論(英語版)」を参照 全順序集合においては、極大元は必ず最大元であり、それを maximum[注 1] とも呼ぶ。同様に極小元は最小元であり minimum[注 1] と呼び、最大元と最小元をまとめて extremum[注 1] と呼ぶ。[2] また、特に確率論などにおいては(指示関数との親和性のために)実数 a, b ∈ R の最大値と最小値({a, b} ⊂ R の最大元と最小元)をそれぞれ a ∨ b = max { a , b } , a ∧ b = min { a , b } {\displaystyle a\vee b=\max\{a,b\},\quad a\wedge b=\min\{a,b\}}
全順序に関する最大元・最小元
例
R において、整数全体の集合 Z は上界を持たない。
有理数全体の集合 Q において、S = { x ∈ Q | x < √2 } は無数の上界を持つが、上限も最大元も持たない。
R において、1 より小さい実数全体の集合は上限 1 を持つが、最大元を持たない。
R において、1 以下の実数全体の集合は最大元 1 を持つ。そしてその最大元は上限でもある。
S = { (x, y) ∈ R×R | 0 < x < 1 } とすれば、S は R×R の部分集合である。R×R に直積順序を導入するとき、S は上界を持たない。一方で、R×R に辞書式順序を導入するとき、S は上界を持ち(例えば、(1, 0) ∈ R×R)、上限を持たない。
その他
統計学においては数値データは昇順にソートされており、最初の値を最小値、最後の値を最大値と呼ぶ[9]。
日常会話では、「非常に巨大な最小値」や「非常に小さい最大値」は最大や最小と言わずに別の表現に置き換える場合がある(数学としての定義ではその空間上に「コンビニ」という物が存在すれば、全ての場所に「最寄りのコンビニ」が存在するが、日常会話としてはあまりにも距離が長い場合は「最寄りのコンビニ」は無いという回答をするのが普通である。)。「最短ルート」という言葉も長すぎる距離の場合は最短ルートとは通常は言わない。
日常会話での最小の定義も文脈により異なり、「0に近い物」又は数学の定義と同じ「?∞に近い物」のどちらかとなる。
日常会話では「巨大な数値の集合」での最大値は「全て大きい」、最小値は「無い」となる。
モハメド・アリは「私は最強ではない、二倍最強である」 (“I’m not the greatest, I’m the double greatest.”)と新聞のUSAトゥデイが取り上げている[10]。報道された著名人の発言であるが、数学的には反する点がある。
秤における「最小測定量」とはそのはかりで精度の保証ができる最小の測定値の事を示し、目盛の最小値の事ではない[11](目盛の最大値は「ひょう量」と呼ばれる。)。
注
注釈^ a b c 単数形が "-um", 複数形は "-a"
^ a ∨ b {\displaystyle a\vee b} と a ∧ b {\displaystyle a\wedge b} は通常の順序に関して実数全体がなす束の交わりと結びでもある。
^ これと極大元とを混同すべきではない。極小元と極小値についてもそう。
^ 極値 (extremal value) を最大値・最小値あるいは極大値・極小値の総称として用いるものもある。[6][7]
出典[脚注の使い方]^ a b c d e f g h i 松坂 1968, pp. 90?97.
^ a b extremum: 1. Idea. in nLab