この記事は特に記述がない限り、日本国内の法令について解説しています。また最新の法令改正を反映していない場合があります。ご自身が現実に遭遇した事件については法律関連の専門家にご相談ください。免責事項もお読みください。
映画の盗撮の防止に関する法律
日本の法令
通称・略称映画盗撮防止法
法令番号平成19年法律第65号
種類知的財産法
効力現行法
成立2007年5月23日
公布2007年5月30日
施行2007年8月30日
主な内容映画館における映画の盗撮行為には著作権法30条1項(私的複製)の適用排除等
関連法令著作権法
条文リンク映画の盗撮の防止に関する法律
映画の盗撮の防止に関する法律(えいがのとうさつのぼうしにかんするほうりつ、平成19年5月30日法律第65号)は、映画館における映画の盗撮行為を禁止するために制定された日本の法律である。超党派の議員立法により成立し、2007年(平成19年)5月30日に公布、同年8月30日に施行された。通称、映画盗撮防止法。 映画館等における映画の録音・録画を原則として「盗撮」と扱い、「盗撮」行為については、私的使用を目的とした著作物の複製には著作権が及ばないとする著作権制限規定(著作権法30条1項)を適用せず、更に著作権侵害罪の私的使用を目的とした著作物の複製行為についての適用除外規定を適用しないものとした。よって、映画の「盗撮」行為(音声の録音を含む)は直ちに著作権(複製権)の侵害となり、かつ刑事罰の対象(著作権侵害罪)になる。 さらに、著作権侵害罪は親告罪であったが、環太平洋パートナーシップ協定(TPP協定)に伴い制定された環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律(平成28年12月16日法律第108号)が、環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(TPP11協定)の締結により、環太平洋パートナーシップ協定の締結及び環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律となり、TPP11協定協定発効日である2018年(平成30年)12月30日から施行された[1]。この法律による著作権法の改正により、所定の要件(対価として財産上の利益を受ける目的または著作権者等の得ることが見込まれる利益を害する目的、原作のままの映画の複製物を公衆に譲渡し 又は原作のままの映画の公衆送信を行うために、映画を盗撮する)が認められる場合には告訴権者の告訴は不要となる著作権法における非親告罪化が行われた。 1980年代に、映画館で上映される映画をビデオカメラで録画して作成されたと考えられる映画の海賊版が出回るようになった。これは、家庭用の録画・録音機器の普及によって、映画館内に機器を容易に持ち込めるようになったためだと考えられている。映画館で録画された海賊版は、正規版のメディアを複製した海賊版と比較すると、影像や音声が不鮮明である一方で、映画が一般公開された直後に流出する点で興行収入への影響が無視できないものであった。 2000年代に入ると、カメラやマイク、カメラ付き携帯電話などの小型・高性能化により、映画館における映画の録画・録音をより鮮明に、かつ隠密に行うことが可能になった。さらに、これまで海賊版の流通媒体として主に使われてきたアナログのビデオテープに代わり、DVDやインターネットといったデジタル技術を基盤としたデータ複製、送信手段が普及した結果、海賊版の映像や音声を劣化させることなく複製し、短時間に世界中に流通させることが可能となった。その結果、海賊版の流通による興行収入への影響はいっそう深刻なものになっていった。 アメリカ映画業協会(MPAA)の海外管轄団体であるMPAの試算によると、2005年、日本国内の映画館における盗撮によって流出した海賊版による日本国内の損害額は、邦画と洋画を合わせて180億円であったという。同年の日本における映画興行収入は約1980億円であったことから、海賊版の流通が、興行収入を1割近く減少させていると指摘している[2]。 本法律を適用するまでもなく、日本の著作権法によれば、海賊版を作成し、流通させる目的をもって映画を録画・録音する行為は原則として著作権侵害にあたり(著作権法21条)、刑事罰の対象である(著作権法119条1項)。一方で、著作権法30条1項によれば、著作権者に無断で著作物を複製しても、その目的が著作物の私的使用であるならば著作権侵害とならない。 著作権法30条1項の存在は、著作権法を根拠とする映画盗撮の取り締まりを困難にしていた理由の一つであると指摘されていた。実際には海賊版の作成が目的で盗撮が行われていたとしても、盗撮者が本条文を盾として「録画・録音の目的は私的使用(家に持ち帰ってもう一度鑑賞し、保存しておくなど)である」と主張した場合、その主張を覆すことは容易ではなかった。海賊版業者はこういった事情を熟知しており、盗撮の実行者に対して、劇場の職員から行為を制止された場合には私的複製であると反論するように教育しているともいわれていた[3]。実際に、暴力団関係者と思われる者が映画館の客席に堂々と三脚を立てて録画を行い、劇場の職員が制止しても「おまえは著作権法を知らないのか、これはおれたちが撮って私的に楽しむんだ、だからどこがいけない」と開き直られる事例もあったという[4]。 著作権法には、映画館における録画・録音の時点では私的使用の目的があったとしても、その複製物を販売したり、複製した映画をネット配信したりするなど、私的使用の範囲を越えて利用した場合には、映画館で行われた録画・録音も複製(著作権法21条)とみなされて、結果として複製権侵害となる規定がある(著作権法49条1項1号)。しかし、映画館での録画・録音行為が事後的に著作権侵害となったところで、一旦、ネットに海賊版が流出してしまうと、全ての複製物を回収することは事実上不可能であり、権利者の救済を十分に図れないという問題があった。 著作権法によることなく、映画館における映画の録画を禁止できる法律上の根拠として、映画館の施設管理権、および観客との契約がある。 映画館の施設管理者は、その施設管理権を行使することで、館内における映画の録画、館内への録画機器の持ち込みなどを禁止できる。実際に盗撮が行われた場合には、盗撮を制止し、盗撮者を映画館から退場させ、再入場を禁止するといった措置も可能である。 また、映画館における映画の録画、映画館内への録画機器の持ち込み等を禁止する規則、約款を制定し、その規則や約款への同意を映画館への入場の条件とすることによって、映画館への入場者にはその規則や約款を守らなければならないとする契約上の義務(債務)が生じるものと解される。そうすると、観客に対して契約に基づく義務の履行を求め、違反者には契約違反(債務不履行)による契約の解除、再契約の拒否といった措置をとることができる。 現に、多くの映画館には館内における映画の録画や録音を禁止する規則があり、録画機器の持ち込みや実際の録画を禁止する旨の掲示がみられる。また、映画上映前には映画の録画を禁止する内容のフィルム映像が上映され、観客に注意を促す措置がとられている。 しかし、施設管理権に基づく禁止措置では違反行為に対する直接の刑事罰の適用はなく、契約違反にも刑事罰の適用はないため、盗撮行為を効果的に抑止できないという問題が指摘されていた。 本法律の成立に向けた具体的な検討は、2006年9月6日、自由民主党の知的財産戦略調査会において、日本映像ソフト協会会長・角川グループホールディングス代表取締役会長の角川歴彦が議員立法による映画盗撮の防止の法制化を要望したことに始まる[5]。 角川の要望を受けて、同調査会の会長であった衆議院議員甘利明は、岸田文雄議員に対して法案のたたき台の作成を指示するとともに、10月に開催された第19回東京国際映画祭において、盗撮防止法制定の考えを公に表明した[6]。
概要
成立の背景と経緯
スクリーン録画による海賊版の流通
従来法の限界
著作権法を根拠とした禁止措置
映画館の施設管理権や契約を根拠とした禁止措置
立法
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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