早期アクセス
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早期アクセス(そうきアクセス)またはアーリーアクセス (Early access) は、コンピュータゲーム業界における資金調達モデル。

消費者が様々な開発段階(プレアルファ、アルファ、ベータ)にあるゲームに金を支払うことができ、ゲームの準完全版のリリースへのアクセスを得ることができる。一方、開発者にとってはこれらの資金をゲームの制作継続に充てることができる。早期アクセスのゲームに金を払う人たちは通常、ゲームのデバッグの協力やフィードバックの提供とゲームについての提案を行うほか、ゲーム内の特別物資にアクセスすることができる場合もある。早期アクセスの手法はインディーゲームの資金調達手段として一般的であり、クラウドファンディングなどの他の資金調達メカニズムと共に利用されることもある。多くのクラウドファンディングのプロジェクトは、開発の進行に応じてゲームのアルファ版およびベータ版へのアクセスを提供することを約束する。しかし、資金を求めるがプレイ可能なゲームを用意していない一部のプロジェクトとは異なり、すべての早期アクセスゲームはゲームの未完成版をプレイヤーに即時提供する。
歴史

伝統的に、ゲームのパブリッシャーは自社製品の未完成版を一般販売することはないが、その代わりに社内での秘密保持契約下のテストに頼っている。これはそのようなバージョンがソフトウェア海賊版の標的になることを防止し、競合に情報が渡る蓋然性を抑止することになる[1]。そのため、パブリッシャーはゲーム完成までの開発費全額を拠出するが、実験的な作品へのリスクを取ることに消極的になる。一部のケースではパブリッシャーはゲームのベータ版へのアクセスを制御された環境でプレイヤーが購入・獲得できる手法をとっている。例えば、『Halo 3』のマルチプレイヤー部分のベータ版の招待状はゲーム『ライオットアクト』 に同梱され、同作の高い売上に寄与した[2]

通常パブリッシャーなしで配信されるインディーゲームにおいては開発資金調達源は容易に利用できない。小規模なインディーズ企業の多くは個人の基金を使用しているが、大規模なインディーズ企業は他からの出資を受けることがある。そして最近は「Kickstarter」のような企業規模にかかわらず利用可能であることが証明されているクラウドファンディングプログラムがある。インディーズ開発者にはリリース前のゲームのテスト手段、パブリッシャーのリソースの欠如、リリース前に十分なフィードバックを得られないという他の難点も存在する[1]

早期アクセスのコンセプトは両方の問題を緩和するのに役立つ。ゲームへの早期アクセスは通常ゲームがプレイできる状態であるが、機能の完全実装が完了していないまたは発見されるべきいくつかのソフトウェアバグがまだ存在している可能性がある。多くの場合、これらのゲームはアルファ版またはベータ版でのリリースと考えられており、完成予定は数ヵ月または数年先のこともありうる。開発中のゲームを購入するつもりの関心のあるプレイヤーは、制作中のソフトウェアにアクセスすることができ、ソフトウェアをプレイしたりストレステストを行うことが推奨されている。彼らのフィードバックは、開発者が最終リリースを見越してゲームの方向性、芸術性、ソフトウェアのメカニクスを調整するのに役立つことになる。ゲームがリリースされると、プレーヤーは引き続きソフトウェアにアクセスするか、作品の最終版と追加報酬(サウンドやゲーム内クレジットに名前の記載など)を入手する手段が与えられる。これらのプレイヤーはゲーム完成への資金を援助することになるが、ゲームが最終リリースに達することは決してない事態に陥り得るリスクを取ることにもなる[2]。早期アクセス状態のゲームの予備的な口コミからさらなる利益がもたらされ得る。プレイヤーは通常早期アクセスに参加する際に機密保持契約にとらわれないため、ソーシャルメディア上にレビューを提供したり、ストリーミング放送でゲームをプレイしたりすることができ、それが作品の関心を呼び起こすことになりうる。

このモデルで最もよく知られる初期の例の一つが『マインクラフト』である。2009年にマルクス・ペルソンが常勤の仕事の傍ら同作の開発(当初はインターネットブラウザ用)を始めた。ゲームのアルファ版はリリースから1ヶ月以内にかなりの人気を得たことを証明し、ペルソンはプレイヤーが10ユーロ(約15米ドル)を支払いゲームを入手できる手段を追加したことで彼が同作の開発を継続できた。ゲームの売上が上昇していったことで、約8ヶ月後に彼はゲームをフルタイムで開発するために仕事を辞めることができ、より大規模な開発チームを連れてくるために「Mojang」を設立した。マインクラフトは開発期間を通じて早期アクセスを提供し続けそれらを購入した人は無料で最終版(2011年11月リリース)をもらえることを保証した。これより前に約200万人のプレイヤーがアルファ及びベータ段階でのリリースを購入しておりこれらの初期の売上が3300万ドル以上に上った[3]。マインクラフトの成功により早期アクセスアプローチがインディー作品を販売するための人気の手法へと変化してくことにつながった。
アプローチ

早期アクセスを支援するために一部のデジタル配信ストアでは開発者が早期アクセス下で作品を提供するために使用する販売および供給の仕組みを提供している。これらのストアはサービスの対価として売上の一部をとっているが、ストア側はまたクレジットカードやPayPalのようなサービスでの決済、ソフトウェア配信の帯域幅、他のデジタルストア用のキーの償還、ストア内での宣伝などの複雑な問題も処理している。 デジタル配信ストアのDesuraは、2011年にインディーの開発者が今後の作品を販促しやすくするためのアルファ資金調達の取り組みを開始した[4]Valve Corporationは2013年3月にSteamに早期アクセスを導入し、開発者はSteamストアとSteamworks APIを利用できるようになった[5]。デジタル配信ストアのGOG.comは、2016年1月にSteamのものと類似した早期アクセスプログラム「Games in Development」を開始したが、ストアの哲学であるDRM(デジタル著作権管理)フリー作品を維持しており、サービスを使用している作品を吟味するためのより多くのキュレーションを提供している。 GOGは早期アクセス作品用の14日間の無条件払い戻し方針を策定しており、それにより購入者の潜在的リスクの一部を排除した[6][7] 。itch.ioは2016年5月にリファイナリー早期アクセスプログラムを導入した。これにより、開発者はユーザー数を限定したアルファ版や招待制のベータ版などの早期アクセスモデルから選択することができた[8]

Humble Bundleグループは、ゲームへの早期アクセスを販売したいインディーゲーマー向けのストアと配信方法を提供する「Humble Store」を開設した。また、Steamを利用しようとする開発者向けに、これらの作品がストアに掲載されたらSteamの償還キーを提供できるようにする仕組みを提供している。またプレイヤーが基本費用に加えて、開発者に支払いをしたりチップを投じたりできるようにする方法を組み込んでいる[9]

家庭用ゲーム機メーカーも早期アクセスの成功を見ており、ゲーム機ユーザー向けの同様の独自プログラムを作成した。2014年7月にソニー・コンピュータエンタテインメント(現ソニー・インタラクティブエンタテインメント)は、Steamモデルに倣ったPlayStation 4の独立開発者向けの早期アクセスプログラムの作成を検討していると述べ、2015年9月にゲーム『Dungeon Defenders II』でこのアプローチを開始した[10] [11]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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