旧支配者
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旧支配者(きゅうしはいしゃ、Great Old One、Great Old Ones)は、クトゥルフ神話に登場する架空の神々、邪神(じゃしん)の別名。

Great Old One、Great Old Onesの邦訳語であり、そのまま「グレート・オールド・ワン」と呼ばれるほか、「古き神々」「古ぶるしきもの」などと訳される。ただ実際のところ、用法や意味はあまり統一されておらず、同作品内でも「邪神 Evil God、Evil One」「古きもの Ancient One、Elder One」など複数の呼称が用いられることがある[1]

グレート・オールド・ワン(ズ)の初出は、ハワード・フィリップス・ラヴクラフトの短編小説『クトゥルフの呼び声』(執筆1926/発表1928)であり、クトゥルフがその大祭司と呼ばれている[2][1]。邪神の総称としての旧支配者が定着したのは、フランシス・レイニーの『クトゥルー神話小辞典』(初期版1942)以降となる[1]

外なる神(そとなるかみ、The Outer Gods)についても述べる。
概説

小説家ハワード・フィリップス・ラヴクラフト(以下HPL)の作品をもとに、彼のファン兼自身も小説家であるオーガスト・ダーレスが、世界観を体系化したものがクトゥルフ神話であり、設定が共有されて複数の作家によって書き継がれている。

旧支配者は、クトゥルフ神話の作品群に登場する「人類史以前に地球を支配していた」とされている存在(神々)である。当初のHPL作品において、これらは、善悪で把握できる存在として描かれていなかったが(ラヴクラフト神話を参照)、ダーレスがアレンジして、善の旧神と対立する邪神のカテゴリとして設定された。

ダーレスらによる設定では[注 1]、旧支配者は四大霊(火、水、大地、大気)の勢力・派閥があり、結託や対立が存在する。人類史西暦現代では活動が制限されているが、これも星辰の移り変わりによるものとも、旧神との戦いに敗れて幽閉されたためともいう。いずれにせよ、眷属や信者が主の復活を画策しており、仮に旧支配者が復活すれば、人類の文明など、あっけなく滅ぼされてしまうだろうとされている。

HPLは神々として、蕃神(万物の王アザトース、神々の使者ナイアーラトテップ)と旧支配者(外のヨグ=ソトース、大祭司クトゥルフ)の2タイプを書いた。その後に、ダーレスらが邪神の総称としての「旧支配者/グレート・オールド・ワン」の呼称を定着させた。結果、もとの設定を継承しつつも、アザトースは邪神の最高位に位置付けられ、ナイアーラトテップは旧支配者たちの使者という側面が強くなる。後にさらなる上位カテゴリとして、外なる神という区分が登場する。

グレート・オールド・ワンズを日本語訳で旧支配者としたのは、ダーレス神話の「これらの神性が、かつて宇宙を支配していたが失権した」という設定を踏まえた意訳であり、HPLの意図に基づく正確な訳とは言えない面もある。

グレート・オールド・ワン(旧支配者)の定義は、1943年レイニーの『小辞典』では「外宇宙から飛来したアザトース以下の神々」(=最初から地球にいたやつらは違う)、1957年カーターの『神神』では「ウボ=サスラが地球上で産み出した神々」(=地球外から来たやつらは違う)となっており、最初の2事典の時点で完全に矛盾する。また外なる神の元ネタはカーター『神神』の外宇宙から飛来した邪神とおぼしいが、いざ成立した外なる神カテゴリはクトゥルフやツァトゥグァを含まない。
分類法
四大霊

邪神たちを、古代ギリシャ自然哲学のいわゆる四元素に当てはめる分類法。精霊説、などとも。ダーレス神話にて顕著にみられる分類法であり、オーガスト・ダーレス、フランシス・レイニー、リン・カーターなどが整理した。水と風、地と火は敵対する。水の首領をクトゥルフ、風の首領をハスター、火の首領をクトゥグアとすることは、どの分類法でも概ね共通している。

1943年レイニーの『小辞典』:水(クトゥルフダゴン)、風(ハスターロイガーツァールイタカ)、地(ヨグ=ソトースシュブ=ニグラスツァトゥグァガタノトーアニオス=コルガイ)、火(クトゥグア)。地は曖昧な書き方をされており、他にもいることが示唆されている。

1957年カーターの『神神』:風(ハスター、ツァール、イタカ、ロイガー)、水(ダゴン、ヒュドラ、クトゥルフ)、地(ツァトゥグァ、ヨグ=ソトース、ナイアーラトテップ、シュブ=ニグラス、ナグニョグタハン)、火(クトゥグア)。他の神々は「四大霊のどれかに分類されるだろうが未整理」ということになっている。

1988年没カーターの『ネクロノミコン』:海(クトゥルフたち)、空気(ハスターたち)、大地(シュブ=ニグラスたち)、火(クトゥグアたち)、第五元アイテール(アザトース、ヨグ=ソトース、ナイアーラトテップ)[3]

ダーレス神話の欠点として、善悪二元論と共に、ラヴクラフト神話を矮小化したと、批判に晒されることが多い分類法である。また「クトゥルフが海底に封じ込められているというのは矛盾する」「クトゥルフのテレパシーは海水で遮られている」「あらゆる時空と場所に存在するヨグ=ソトースがなぜ地の精霊に結びつくのか」「なぜ水/火、風/地ではないのか」など指摘を受けることもある[4]

ダーレス神話の登場人物たちが主張する四大霊と善悪二元論が、作中で何の文献を論拠にしているのかは判然としない。後のカーターの頃になると、16世紀頃にダレット伯爵が分類した[5]とか、ネクロノミコンに記されている[3][注 2]ことになる。

ほか、ロバート・ターナーの『ネクロノミコン註解』[6]では、火にアザトースとヨグ=ソトースを[注 3]、エーテルにナイアーラトテップを分類する。ダニエル・ハームズの『エンサイクロペディア・クトゥルフ』では、新邪神として地にシアエガを、水にガタノトーアとゾス=オムモグを分類しつつも、四大霊の難点を幾つも指摘したうえで、役に立たないと結論している[4]

四大霊カテゴリはダーレス神話、『クトゥルー・オペラ』、『邪神伝説シリーズ』などで採用されている。またエレメントではなく邪神同士の関係性(クトゥルフとハスターの対立など)のみが限定採用されることがある。
外なる神

1980年代に、ケイオシアム社のTRPGクトゥルフの呼び声』にて用いられ始めた。サンディ・ピーターセンによる分類法。魔王アザトース、副王ヨグ=ソトース、使者ナイアーラトテップなどという顔ぶれ。ダーレスらによって体系化された旧支配者カテゴリから、再び蕃神を切り離したものに近い。

外なる神カテゴリはクトゥルフ神話TRPG、『邪神伝説シリーズ』などで採用されている。旧支配者と外なる神を厳密に区別すべきという主張もあるが、無理があるのか大元たるクトゥルフ神話TRPGですら近年は曖昧に濁す傾向にある。

遊戯王では、クトゥルフ神話モチーフのカードに、古神、旧神、外神としている。
その他の分類法
レッサー・オールド・ワン
リン・カーターが提唱した。グレート・オールド・ワンに対比した名称であり、より格の劣る、奉仕種族長老クラスの小神カテゴリ。小物ゆえに、幽閉されていないというメリットがある。
クトゥルフ眷属邪神群(CCD)
ブライアン・ラムレイの世界観における、旧支配者の呼称。邪神の王がクトゥルフであるためである。人類の対邪神組織であるウィルマース・ファウンデーションが用いる。
旧支配者の七帝
ドナルド・タイスン版『ネクロノミコン』の分類。アザトース、ダゴン、ナイアーラトテップ、イグ、シュブ=ニグラス、ヨグ=ソトース、クトゥルフ。七神全てHPLが創造した神であり、スミス神話の要素が入っていない。
唯一の存在
TRPG独自カテゴリ。種族の長だったり、分類不能の単一のクリーチャーなど。レッサー・オールド・ワンとも重複する。
d20版
『コールオブクトゥルフd20』では、神を3つの面からカテゴリしている[7]。3評価軸には重複がある。
真の神々と偽りの神々:真の神々=外なる神で、偽りの神々=グレート・オールド・ワンのこと。

来訪者タイプ[注 4]とグレート・オールド・ワンタイプ

4ランク:半神、下級神、中級神、上級神。
3柱の外なる神(死のアザトース、生のシュブ=ニグラス、時間のヨグ=ソトース)が三位一体をなす。上級神はアザトースのみ、中級神がシュブ=ニグラスとヨグ=ソトース。
ゾティークの神
詳細は「ゾティーク」を参照クラーク・アシュトン・スミスによる、終末大陸ゾティークにおける神々・魔神。


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