日本脳炎
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日本脳炎
概要
診療科感染症内科学
分類および外部参照情報
ICD-10A83.0
ICD-9-CM062.0
DiseasesDB7036
eMedicinemed/3158
MeSHD004672
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日本脳炎(にほんのうえん、英語: Japanese encephalitis)は、日本脳炎ウイルスによる流行性脳炎アジア各地の西太平洋諸国に広く分布する。1871年(明治3年/明治4年)に、日本での臨床事例が報告されたことで、世界に認知された[1]

Japanese encephalitis の名は、1924年(大正13年)に岡山県で443人の死者を出した大流行に由来し、日本では「流行性脳脊髄膜炎」と区別されて『流行性脳炎』と呼ばれるようになった。

太平洋戦争以前は、流行性脳脊髄膜炎同様ヒト同士の接触によって流行すると誤認されていたが、三田村篤志郎ら蚊媒介説[2][3]を主張する岡山県の研究者たちは、日本脳炎という和訳を多用し、占拠地のアメリカ兵の感染者を診断するアルバート・サビンらの研究が主流になるにつれ、日本脳炎の語が一般化した。

日本脳炎ウイルスを保有したコガタアカイエカに刺されることで感染する[4]が、熱帯地域では他のでも媒介する。

日本においては、家畜伝染病予防法における監視伝染病であるとともに、感染症法における第四類感染症である。
臨床像

感染源は日本ではで、ウイルスを持つ豚から吸血した蚊に刺されて感染するが、人から人に感染する事はない[注釈 1]。感染のほとんどが不顕性感染で、感染者の発症率は0.1% - 1%と推定されている。潜伏期は6日から16日間とされ、高熱を発し、痙攣、意識障害に陥る。ウイルス性の疾患であるため、発症してからの治療方法は対症療法のみで、抗生物質は効果がない。致死率は30%程度[5]と高く、生存しても半数以上は脳に障害を受け麻痺などの重篤な後遺症が残る。豚、では日本脳炎ウイルスに対する感受性が高く、特に豚は増幅動物として重要で、鳥類爬虫類にも感受性がある。ウマの発症率は、0.3%程度である[6]
病原体

フラビウイルス科フラビウイルス属のウイルスで、1935年(昭和10年)に人間の感染脳から初めて分離された。伝播様式からアルボウイルス節足動物媒介性ウイルス)とも分類される。類似ウイルスには、ウエストナイルウイルスセントルイス脳炎ウイルス、マレーバレー脳炎ウイルスがある。
発生状況1970-1998 アジアにおける日本脳炎の発症分布(CDC資料)

発症者数は、集計を行う機関によりバラツキはあるが、世界では年間3 - 5万人の患者発生が報告されている[7][4]。地域としては南アジア東南アジアを中心に西太平洋諸島、オーストラリアクイーンズランド州北部での患者発生が報告されており、世界保健機関の推計では2011年には年間68,000人の患者が発生し、最大で20,400人が死亡したと推測されている[8]

日本では、1935年(昭和10年)8月、関西地方[9]東京都一帯で感染者数が増加。伝染病として恐れられたため飲食店や理髪店の経営が立ち行かなくなるなど地域経済への影響も見られた[10]第二次世界大戦後は、1948年(昭和23年)5月に熊本県で発生した患者を皮切りに全国で流行。東京都では同7月下旬から流行の兆しが見られ、同年8月18日までに都内だけでも患者数は1403人を数えた[11]

1960年代には年間1000人程度の患者が発生していたが、1967年(昭和42年)から1976年(昭和51年)にかけて、小児及び高齢者を含む成人へ、積極的にワクチン予防接種を行い罹患者が激減し、2013年には9人であった[12]韓国においても、ワクチン接種により流行は阻止されている[4]

1960年代までの日本では、気温上昇による媒介蚊の発生に伴い罹患者が南部から始まり、北部へと発生が移動する「北進現象」「北東進現象」が見られた[13]。ただし、北進現象の真の原因には、気温上昇だけでは無く、別な要因もあったのではないかと考えられている[13]

2000年代以降も年間10名程度が発症しており、例えば2013年には三重県内で70代女性[5]、2015年には千葉県で25年ぶりの患者が発生したと報告されている[14]。さらに、2022年には熊本県で70代の女性が発症して死亡し、他に複数人の発症が報告されている[15]

また厚生労働省は毎年、日本脳炎ウイルスの蔓延状況を調べる為、ブタのウイルス抗体獲得状況を調査している。調査結果によれば、「ウイルスを持ったコガタアカイエカは毎年発生しており、引き続き日本でも感染の可能性がある」としている。つまりワクチン接種が、日本脳炎を効果的に阻止している[16]
診断

日本脳炎の潜伏期間は6 - 16日とされ、発熱頭痛意識障害麻痺痙攣などがみられるが、日本脳炎に特徴的な症状はない。髄液検査では細胞数増多、蛋白上昇を認めるが、血液検査では異常所見を認めないことが多い。画像検査では、両側視床病変が日本脳炎の特徴とされており、MRIが診断に有用である。脳炎患者に視床病変を認めた場合、日本脳炎は重要な鑑別診断である。

診断には、
抗体検査

髄液からのウイルス分離

RT-PCRによるウイルスRNAの検出

の3つの方法がある。しかし、ウイルス分離は通常困難であり、RT-PCRの感度も低いため、これらが陰性の場合には、抗体検査が有用になる。日本脳炎を強く疑った際には、ウイルス分離、RT- PCRが陰性の場合でも、積極的にペア血清を評価することが診断に重要である[17]
予防詳細は「日本脳炎ワクチン」を参照

日本脳炎ワクチン接種のみ予防可能で、罹患リスクを75%から95%減らすことができるとされ[18]、1943年にアルバート・サビンらのグループによってマウス脳から、1946年には鶏卵からホルマリン不活化ワクチンが造られ、6万人程度の日本、沖縄、朝鮮などのアメリカ人および一部の日本人に予防接種が行われた。ウマ用ワクチンはヒト用に先立って1948年にホルマリン不活化ワクチンが実用化された[19]。ヒト用のワクチンは、1954年に、中山株を用いたマウス脳由来不活化ワクチンとして、日本で開発・実用化された[4]

なお、ワクチンによる免疫抗体価は、最終予防接種から年月を経る毎に抗体価が低下することから、1980年代生まれを中心に、抗体保有率の低い世代[20]への追加接種が必要と考える専門家もいる[5]。また、媒介蚊の感染症対策として、蚊帳蚊取線香、屋外での長袖・長ズボン・ディートイカリジンの使用が有効である。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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