日本の高山植物相
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.mw-parser-output .pathnavbox{clear:both;border:1px outset #eef;padding:0.3em 0.6em;margin:0 0 0.5em 0;background-color:#eef;font-size:90%}.mw-parser-output .pathnavbox ul{list-style:none none;margin-top:0;margin-bottom:0}.mw-parser-output .pathnavbox>ul{margin:0}.mw-parser-output .pathnavbox ul li{margin:0}高山植物 > 日本の高山植物相北アルプスの小蓮華山に群生するハクサンイチゲとシナノキンバイ。後方に見える山は白馬岳。

日本の高山植物相(にほんのこうざんしょくぶつそう)では、地形地質気象と植物との関連、植物の起源と変遷について概説し、またヨーロッパアルプスなど他地域と比較してその特徴を説明する。

日本列島は海洋プレートの収束帯に位置し火山活動が活発なため、狭い地域に多様な地質や地形が発達し、高山では冬季の大雪と強風、他の時期の多雨という気候の影響が加わる。結果それぞれの環境で、そこに適応した高山植物を見ることになった。

日本の高山植物は北極海周辺に由来するを中心に、千島カムチャッカ北米太平洋沿岸、ヒマラヤ山脈周辺、アルタイ山脈に起源を求められる。一方低山帯から高山に進出した種も見られる。やって来た時期については、本州中部の高山帯や、石灰岩、またかんらん岩蛇紋岩などの超塩基性岩のもとでは、最終氷期以前という古い時期に渡来した植物が生き残っている。逆に分布を広げている例としては、富士山に、近接する赤石山脈から来たと考えられる植物が生育しているなど、現在も変化の途上にある。しかし盗採や開発などの干渉、シカなどの食害、そして地球温暖化によると考えられる気象の変化などの危機下にあることも否めない。
高山植物の定義と日本の高山植物群落

高山植物の定義は、一般的には森林限界より高地の、草本を中心とした高山帯に分布する植物のことを指す[1]。しかし高山帯の定義については、日本の高山の場合、亜高山針葉樹林帯の上部にハイマツ帯が分布し、ハイマツ帯の上部に草本を中心とした植生が広がる場合が多く、ハイマツ帯を高山帯に含めるか否かについては現在研究者間の説は統一されていない[2]。ハイマツ帯を高山帯に含めない見解に遵うと、日本では高山帯が高山の極めて狭い範囲に限定されることになる。しかし現実の日本の高山では世界各地で高山植物とされる植物の群落が多く観察されており、ハイマツ帯やその周辺でも高山植物の群落が見られる。またハイマツ帯は日本の高山の自然環境についての大きな特徴の一つであるため[3]、高山植物についての専門書においてはハイマツ帯について詳細な説明を加えている。この項でも森林限界より上部の植生だけではなく、ハイマツ帯についても説明を行なう[† 1]

また高山植物は森林限界より高所に分布する植物とされているが、実際には高山帯やハイマツ帯にはならない低標高であるのにもかかわらず、高山植物の群落が見られることがある。例えばミズゴケを中心とした泥炭が堆積した高層湿原や、地中の冷えた空気が常に流出することによって夏季も寒冷な環境が保たれる風穴、火山活動によって噴出した溶岩や火山灰が降り積もった場所、石灰岩かんらん岩蛇紋岩などの特殊な地質を持つ場所などである[4]。これら低標高地でありながら高山植物が生育する場所についても説明をしていく。
日本の高山地形による地質の特徴と高山植生大雪山系旭岳に群生するチングルマとエゾノツガザクラ

日本列島大陸プレートであるユーラシアプレート北米プレートに、海洋プレートである太平洋プレートフィリピン海プレートが沈み込む場所に位置している関係上、火山活動が活発である。そのため日本列島の高山帯は、富士山大雪山などといった、主に第四紀後期という最新の地質年代の火山活動によって形成された高山帯、南八ヶ岳のように第四紀後期以前の火山活動によって形成された高山帯、赤石山脈木曽山脈など火山活動以外の理由で形成された高山帯が見られる。富士山や大雪山のような新しい火山に比べて、古い火山や火山以外の成因によって形成された高山帯は侵食によって急峻な地形となっているが、日本では非火山の高山帯でも山頂付近に比較的起伏がなだらかな地形が多く見られる。この山頂付近の比較的起伏がなだらかな地形は、隆起前に形成されていた地形が残存しているものと考えられている。またヒマラヤ山脈アルプス山脈で見られるような極めて急峻な山稜や岩壁は日本の高山帯では多くない。これは日本の高山帯は氷期氷河による侵食活動の影響が比較的少なかったことと、日本の高山帯がヒマラヤやアルプスなどよりも新しい時代に形成されたためと考えられている[5]

また、日本列島の多くが海洋プレートの沈み込みの際、海洋プレートの堆積物の一部が剥ぎ取られて陸地に付加した、付加体によって形成されている点も日本の高山植物相に大きな影響を与えている。付加体の中にはよくメランジュと呼ばれる周囲の地質とは連続性を持たない岩塊層が見られるが、中生代ジュラ紀ないし白亜紀の付加体内にある蛇紋岩質のメランジュである早池峰山至仏山、同時期と考えられる飛騨山脈白馬岳や赤石山脈の北岳で見られる石灰岩のメランジュ、そして新生代に形成された日高山脈やその周辺にはかんらん岩、蛇紋岩質のメランジュであるアポイ岳夕張岳、石灰石のメランジュである崕山など、日本国内には蛇紋岩やかんらん岩、石灰岩という特殊な地質に生育する多くの希少な高山植物で知られる地域がある[6]コマクサは移動が激しい径の小さな礫地に適応した植物である。

このような成り立ちを経て形成された日本の高山は、様々な性格の地質が比較的狭い地域に存在するという多様性に富んだ特徴を持つようになった。例えば飛騨山脈では、白馬岳付近では流紋岩質の岩石とともに海洋プレート沈み込みに伴う付加体起源のメランジュである石灰岩や蛇紋岩が見られ、また比較的新しい火山地形である立山火山、そして日本で最も険しい山体の一つである槍ヶ岳穂高岳は、主にかつて存在したカルデラ内に約180万年前噴出したとされる穂高安山岩で形成されており、常念岳野口五郎岳などは花崗岩によって形成されている。一方赤石山脈では四万十帯起源の砂岩泥岩が主体であるが、鳳凰三山甲斐駒ヶ岳では花崗岩が見られ、北岳には付加体起源のメランジュである石灰岩やチャートがあるという多様性が見られる[7]。本州中部の高山など、日本の高山帯はヨーロッパアルプスなどと比べると規模は小さいものの、ヨーロッパアルプスでは一つの山系はおおよそ同一の地質をしており、日本の高山のように狭い地域に様々な地質が存在するのは極めて珍しいことといえる。このような様々な地質の存在が、狭い地域であるにもかかわらず多様性に富んだ日本の高山植物相を育む要因の一つとなった[8]

地質の違いは植生に大きな影響を与える。例えば花崗岩質の場合、節理があまり発達していないことが多く、岩礫地帯となりやすい傾向がある、花崗岩の岩礫地帯にはクロマメノキガンコウランなどが生育する風衝矮低木林などが形成される。また流紋岩質の場合は花崗岩よりも径が小さい岩礫地帯となって、礫の移動が激しいためにそのような環境に適応したコマクサタカネスミレが生育するようになる。一方砂岩や泥岩地帯は土壌を形成しやすいために草原となりやすく、見事な高山植物のお花畑が見られることも多い。そして石灰岩地やかんらん岩、蛇紋岩地などの場合は岩に含まれる微量元素の影響などによって、その特殊な環境に適応した高山植物群落が形成されることになる[9]
日本の高山気象と高山植物冬の八甲田山。日本の冬山の環境の厳しさは世界有数である。

日本の高山は、本州の標高が高い山でも3000メートル台である。これは夏季の7月から8月にかけての平均気温が10度を下回る、世界的に亜高山針葉樹林の分布限界とされる森林限界は本州中部では約2900メートルとなるが、ハイマツは気温的にはそれよりも高い約3200メートル付近でも生育が可能であり、富士山を除く日本の高山では、気温の面からのみで言えば山頂付近まで亜高山針葉樹林やハイマツ林が分布するはずであり、高山植物が多く生育する草原などは出来ないことになる[10]


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