日本の鉄道車両検査
[Wikipedia|▼Menu]

日本の鉄道車両検査(にほんのてつどうしゃりょうけんさ)では、日本鉄道事業者による鉄道車両の検査(点検や整備)について説明する。鉄道車両検査は、故障による運休鉄道事故を防いで安全に運行するために保線と並んで重要であり、法令で実施が義務付けられている。主に車両基地(車庫)やその中に設けられている車両工場で行なわれ、車両に対する外側のチェックから、いったん分解しての全般検査まで、規模や周期は様々である[1]
省令と告示

日本の鉄道車両検査の法的な背景について以下に説明する。国土交通省の「鉄道に関する技術上の基準を定める省令」(平成十三年十二月二十五日国土交通省令第百五十一号)の第89条及び第90条では次のように定められている[2]

第89条(本線及び本線上に設ける電車線路の巡視及び監視並びに列車の検査)

本線及び本線上に設ける電車線路は、線区の状況及び列車の運行状況に応じ、巡視しなければならない。

2 本線において列車の安全な運転に支障を及ぼす災害のおそれのあるときは、当該線路を監視しなければならない。

3 列車は、その種類及び運行状況に応じ、車両の主要部分の検査を行わなければならない。

第90条(施設及び車両の定期検査)

施設及び車両の定期検査は、その種類、構造その他使用の状況に応じ、検査の周期、対象とする部位及び方法を定めて行わなければならない。

2 前項の定期検査に関する事項は、国土交通大臣が告示で定めたときは、これに従って行わなければならない。

さらに上記の省令と同時に告示の『施設及び車両の定期検査に関する告示』(国土交通省告示第千七百八十六号)が通達され、告示第5条で車両の検査項目や間隔などの大筋の内容が定められている[3]。これらの省令と告示に従い、各鉄道事業者が鉄道車両の検査の詳細で具体的な内容を定め、国へ届け出ることになっている[4]

2002年(平成14年)以前までは『鉄道車両運転規則』『新幹線運転規則』などの省令に従って検査が定められていた[4]。これらの旧省令では、「仕様規定」と呼ばれるような車両の使用実態とは無関係に検査内容や検査周期を画一的に定める内容となっており、各鉄道事業者が実情に合わせて個別に検査基準を定めることができなかった[4]。2002年の省令・告示では、技術の進歩や経済・社会のグローバル化に柔軟に対応できることを目的にして、車両が満たすべき機能が保持されていれば良しとする「性能規定」の考え方を盛り込んだ内容となった[4]。これにより、2002年の告示では従来の検査周期も定められているが、一方で「ただし、耐摩耗性、耐久性等を有し、機能が別表の下欄に掲げる期間以上に確保される車両の部位にあっては、この限りでない。」[3]とされ、安全性が確認されれば機器毎に検査周期を各鉄道事業者が定めることができる[4]。後述のJR東日本の新保全体系と呼ばれる検査体系は、このような省令の変遷によって許容されるようになった[4]
検査の種類

国土交通省告示『施設及び車両の定期検査に関する告示』では、

状態・機能検査:車両の状態及び機能についての定期検査

重要部検査:車両の動力発生装置、走行装置、ブレーキ装置その他の重要な装置の主要部分についての定期検査

全般検査:車両全般についての定期検査

以上の3つが検査の種類として定められている[3]。さらに、新幹線、新幹線以外の電車貨車内燃機関車などのような鉄道車両の種類別に、これら3つの検査における検査周期を定めている[3]。なお2001年12月の鉄道運転規則廃止にともない設定した国土交通省の省令では事業者自らが検査体系を独自に定めることができるようになった。これにより重要部検査は新重要部検査として簡素化する事業者が増えたほか、JR東日本の新保全体系やJR西日本の車体検査体系のように大きく異なる体系を設定している事業者もある[5][6]

重要部検査や全般検査に関しては多くが工場で実施されるため、車両の改造工事[注釈 1]と同時に行われることもある。また車両を廃車とする場合は、タイミングを検査期限の直前に合わせることが多い。
列車検査(仕業検査)列車検査が行われる検車区検車庫の様子(東京メトロ新木場検車区検車庫)

「列車検査」(れっしゃけんさ)は、おおむね数日毎の短い周期で行なわれる検査で、特に運転に必要不可欠な装置とされる集電装置台車ブレーキなどの点検を、車両を運用から外さずに行う検査である[7][8]。対象機器類の状態確認と動作確認、必要に応じて消耗品の交換が行われる。「列検」などと略される。国土交通省令第八十九条における「列車の検査」に相当する[9]

事業者によっては「仕業検査」(しぎょうけんさ)とも呼び、その場合は「仕業検」と略される[8]

交換される消耗品としては、ブレーキの制輪子や集電装置のスリ板、室内灯などがある[7][10] [11]。検査周期は事業者によって異なり[8]新幹線車両では48時間毎に実施される[10]東京メトロやJR西日本などでは10日程度毎、北海道旅客鉄道(JR北海道)などでは6日毎[12]で列車検査を実施している[13]
月検査(交番検査)

「月検査」(つきけんさ、げつけんさ)[14][15]は、仕業検査より長期検査周期で行われるもので、仕業検査と同じく車両を分解せずに在姿状態で行われる検査だが、より詳細な検査を行われる。由来は1985年まで日本国有鉄道の当検査は30日以内に行うと日本国有鉄道運転規則で定められていたため[5]。「月検」とも略する。国土交通省告示においては、「状態・機能検査」に相当する検査となる[9]。このレベルの検査までは1日程度で終了し、車両の日常の運用・管理を行う車両基地で行うことが多い。

事業者によっては「交番検査」(こうばんけんさ)とも呼び[16]、その場合は「交検」などと略される。

各機器のカバーを外して、内部の状態や機器の動作確認だけでなく、主回路で絶縁不良が起きていないかなどの試験装置を用いたより詳細な試験が行われる[14][13]車輪の踏面形状を確認して、正規形状からの逸脱が大きい場合は、研削機で正規形状に削り直すこと(車輪転削)も行われる[14][10]


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:101 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef