日常系
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空気系(くうきけい)若しくは日常系(にちじょうけい)[1]とは、2000年代中頃以降に見られる特定のアニメ作品群[2][3]。登場人物、とりわけ若い女性キャラクター達の会話を軸に、大きな事件や出来事を伴わない何気ない日常を淡々と描写している点が特徴とされる[2][3]

2006年頃からインターネット上で使われ始めた用語である[4]。発祥元はブログとされ、その作品世界での「空気」を描いていることから空気系といわれる[5]

後述の通り「空気系」と「日常系」の区別は明確にされておらず、本項では特に両者の区別はしないものとする。海外では特にCGDCT(Cute Girls Doing Cute Things:かわいい女の子たちがかわいいことをする)と言われる[6]
ジャンルへの論評

「空気系」「日常系」は、主にアニメと漫画を対象とした言葉で「若い女の子たちのまったりとした日常を延々と描くタイプの作品」[7]とまとめられるが、下記のように明確な定義は示されずに、解釈や論評が行われている。

セカイ系の解説書である前島賢の『セカイ系とは何か』で、空気系(ないし日常系)と呼ばれる作品についても言及している。「萌え4コマ」と呼ばれる作品の例として『らき☆すた』、『けいおん!』、さらに同ジャンルのヒット作『あずまんが大王』を挙げて論評している[8]。『らき☆すた』と『けいおん!』は、セカイ系作品のヒット作を手掛けた京都アニメーションによってそれぞれ2007年と2009年にアニメ化されている。4コマ漫画を原作とするそれらの作品には明確な物語が無く、セカイ系に見られるような男性キャラクターが少ないことが特徴とされる。こうした作品が4コマ漫画以外にも広がり、ライトノベル『生徒会の一存』などのヒットに繋がったと述べている。

ミステリー作家の小森健太朗は、「二〇一一年テレビアニメ作品とミステリの並行関係」と題した文章の中で[7]、『あずまんが大王』『苺ましまろ』『ひだまりスケッチ』『みなみけ』『らき☆すた』『Aチャンネル』『ゆるゆり』『けいおん!』を空気系作品の例として挙げ、より多くの作品に目を向けた評論を行った。未成年の女子を中心としていることなど、おおまかに5種類の共通性を述べたうえで、これらの特徴を恋愛・目標・進学といった時間を感じさせる要素がないことにまとめ、「時間の排除」と表現した。小森は、物語が卒業によって終了する作品の存在にも触れ、大学進学以降も続いた『けいおん!』『らき☆すた』の原作については作風が空気系から変化していると評価した。

評論家の宇野常寛も著書『ゼロ年代の想像力』(2008年)など複数の文章で空気系(日常系)について論じている。宇野は北田暁大の「つながりの社会性」という言葉を用いて、コミュニケーションそれ自体が自己目的化した物語形式を規定し、その代表として日本映画『ウォーターボーイズ』(2001年)のヒットに始まる青春作品群(特に矢口史靖監督・アルタミラピクチャーズ制作のもの)を挙げた。宇野はこれらの作品について、(広義の)部活動を題材としながら、競技成績などの成果ではなく「青春」それ自体を目的化して描いているものと分析している。この論を踏まえ、『らき☆すた』等の「空気系」と呼ばれる萌え4コマの作品群についても、恋愛等の物語的な要素を忌避し、美少女キャラクターのコミュニケーションそのものを描くという点において、前出の実写作品と同じ物語形式のものとした。そしてこれらを90年代末に支持されたセカイ系に対するゼロ年代の後継であると評価した[9]。宇野はのちにアニメ・漫画と前出の実写作品はそれぞれ相互に影響がないものとしながらも、「空気系」の対象を広げ、前出の日本映画・ドラマ作品もまとめて空気系として紹介している[10]

一方で、宇野は漫画、アニメの「空気系」作品と実写作品との違いとして、前者は男性キャラクターが排除されている(ホモソーシャルである)ことに着目し、「萌え」という事実上のポルノグラフィ要素が付加されていると指摘した[11]。『らき☆すた』の時点で脱物語という可能性を評価しながらも、「男性ユーザーの所有欲」が保証される範囲のものでしかない、「萌え」サプリメント、との言及もしていた[12]

なお宇野は「空気系に物語がない」という言説について、この場合の「物語」とは狭義のものであり、自己目的化されたコミュニケーションを愛して狭義の物語性を決定的に排除するという態度は、一見すると物語性がないようでありつつもイデオロギッシュな物語とも言える、とも述べている[13]

上記のように実写作品も対象として挙げる批評家がいるほか、動物を登場キャラクターとした漫画『ぼのぼの』のような作品を空気系としているものもある[5]

空気系というジャンル分類において、「物語性の排除」を強調してきたことに対しては異論もある[14]。空気系は物語性を持たず登場人物の成長や時間変化が描かれない作品であり、女の子のキャラクターをコンテンツとして消費することに特化した作品と分析する『“日常系アニメ”ヒットの法則』といった一般書籍や宇野常寛東浩紀らの解釈に対し、日本文学研究者の広瀬正浩や禧美智章は、空気系の代表作とされてきた『けいおん!』を例にとり、同作は物語を持たないのではなく、既存の作劇法に当てはまらない表現構成によって登場人物の成長や人間関係の広がりが描かれているとの分析を示し[15][16]、空気系というジャンル規定そのものに疑問を呈した[15][16]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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