旅客機の構造
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旅客機の構造(りょかくきのこうぞう)では、旅客機の仕組みや構造について説明する。

旅客機は航空機としての一般的な構造を備えている。本項目では航空機として共通する部分についてはあまり解説しないで、旅客機の大きな特徴について、本項目では説明している。ボーイング747
強度部材主要構造材の例

旅客機は一般的に約20年間、3 - 6万回ほどの飛行が経済的で安全な範囲で行えるように作られており、これを実現するためには余裕をみて6 - 12万回の飛行に耐える強度が求められる[注 1][注 2]。基本的に強度部材は軽量なアルミニウム合金で作られているが、21世紀現在では金属に比べて軽量で強度も高い炭素繊維強化プラスチック (CFRP) が、主な胴体や主翼の構造を除けば採用が始まっており、1982年に動翼から採用が順次始まり、1985年には垂直尾翼2006年には尾部胴体部分まで採用が広がっている。リージョナルジェット機では主翼の端側に使われるものがある。強度部材には、引張強さ、圧縮強さ、剪断強さ、曲げ強さ、ねじれ強さなどの静的強さの他にも、クリープ強度[1]や繰り返しに対する疲れ強さも備えている必要がある[注 3][2]。金属材料の中でもアルミニウムを中心とする軽量合金は軽くて強度も比較的高いので強度部材として多用されるが、金属材料は腐食の問題やひび割れなどでの十分な強度が保てなくなることもある。このため、たとえ万が一、一部の強度が不足してもそれが急速に全体に波及しないように応力の分散化が図られており、そういった不良箇所は定期的な検査によって発見され修理されることで安全性が保たれるようになっている[注 4]。GFRP、BFRP、CFRP、AFRPといった繊維強化樹脂も部分的な導入が進んでいる[3]。旅客機の強度部材で最も考慮されるのは軽量であっても充分な強度を備えることであり、過去の教訓から強度部材の一部がたとえ破壊され強度を失っても、その破壊が進行することで大きな破壊につながらないように、フェイルセーフ構造を備えた設計がなされることである[4][注 5][5]
胴体構造旅客輸送に使用された航空機の代表的な4種の機体構造
1. トラス構造(帆布) 2. トラス構造(波板金属板) 3. モノコック構造 4. セミモノコック構造
左から右に進むに従い新しい。モノコック構造は小型航空機の一部を除いてあまり存在せず、近代以降のほとんどの旅客機には右端のセミモノコック構造(Semi-monocoque structure、半はりがら構造)が採用されている[注 6][注 7][5]

胴体にはセミモノコック構造(Semi-monocoque structure、半はりがら構造)を採用している。セミモノコック構造ではスキン(Skin、外板)とフレーム(Frame、円きょう、助材)、ストリンガー(Stringer、縦通材)[6]で構成され、スキンを15 - 25 cmほどの間隔で内側から支えるストリンガーと、その内側からさらに50 - 55 cmほどのほぼ等間隔で支えるフレームが、開口部を除く円筒状の胴体全体に走っている。フレームとスキン、そしてストリンガの間は、シェアタイ(Shear Tie)とストラップ(Strap、帯板)で結合する方法が主流である。翼なども同様であるが、各構造部材同士の結合はリベットと接着剤の併用によって行われることが多い。外板表面のリベットは皿頭にすることで空気抵抗を減らすが皿穴加工によって疲労クラックの危険性が増す。最もクラックの生じやすいリベット位置だけに丸頭のものを使うこともある[注 8]。主翼との接合部にはバルクヘッド[7]が配されて荷重を受け持つが、与圧を維持する機体では先端と後端はそれぞれ前部圧力隔壁と後部圧力隔壁によって閉じられており、これら全体が圧力容器としての機能も担っている。円筒形の胴体部でもドアや窓によってストリンガーが通せない個所がありこれらの上下のストリンガーは特に強力なロンジロン(Longeron、強力縦通材)が用いられる[8]。与圧の維持は機首レドームとテールコーンなどの尾部を除いて、床下貨物室を含む胴体のほぼ全体で行われるが、前脚と主脚を収納するそれぞれの格納室は外気圧と同じであり平板によって圧力隔壁が構成されている。後部圧力隔壁は多くの機体で球状を成すことで構造部材の量を減らしている[注 9]。広胴機でも機首部の断面形状が円形でないものは、与圧によるフレームへの曲げモーメントが大きく働くこと、窓という開口部による強度減少を補う必要があることもあって、丈夫なフレームが短い間隔で使用されている。前脚と主脚が取り付けられるフレームや主翼や尾翼などの前桁や中央桁、後桁がつながるフレームは、メイン・フレームと呼ばれる太いものになっている。与圧部分は上空で膨らむことを前提に設計されており、機内の床面が与圧胴体を左右につないで固定されている。上昇と共に機体断面はいびつな8の字型になるため、床面は引張力や圧縮力に対して強くするとともに床面との取り付け部のフレームなどの曲がりにも対応できるようになっている[2]。胴体中央は機体の曲げモーメントが最も掛かるにもかかわらず主脚の開口部が大きく開くため、中央翼の下と後ろにはバルクヘッドとつながった箱状のキールビームが配されて前後軸方向への圧縮荷重を受け持っている。床はフロアビームとシートトラック、フロアパネルによって構成され、フロアビームがフレームに結合されている。ほぼ50 cmごとで左右方向に配されるフロアビームが、床に乗るすべて物の上下方向の荷重と共に与圧による引張力も受け持っている。床に乗る物の前後方向の力はフロアビームではなく、シートトラックとフロアパネルを経由して床の左右にあるフロアサイド・ウェブ、又はフロアサイド・トラスに伝えられ、胴体外板で支えられる。フロアサイド・ウェブやフロアサイド・トラスには客室と床下空間を結ぶ多数の穴が開いており、機内空調の吸込み口となるとともに万が一に与圧が失われ急減圧となる事態でも、上下空間の圧力を等しくすることで床板へ過剰な変形力が掛からないようにしており、さらに急激な減圧では床の一部が開くようになっている[注 10]。床板はフロアビームにボルトで固定されることが一般的であり、ビームの穴には機体前後を縦断する各種のコントロール・ケーブル類が通されていることが多い。フロアパネル(床板)には金属板や合板もあったが、軽くて丈夫なハニカム構造に切り替わっている。ただし、ハニカム構造はハイヒールや荷物の角による損傷に弱いため、軽いながら局部的な荷重にも丈夫な材料が求められており、樹脂材料や複合材の使用が進んでいる[2]。胴体外板の内側はインシュレーション・ブランケットと呼ばれるグラスウールなどの断熱材によって機内の保温と外部からの騒音を吸収するようになっており、さらに内側に強度を受け持たない内装パネルがフレームに合わせて取り付けられることで、合計10 - 15 cmほどの厚みの壁を構成している。窓やドアといった胴体外板の開口部は、構造強度が低下するため可能な限り避けられ小さくされる。開口部の形状は、鋭利な角には応力が集中するために丸く作られ、その周囲は補強材によって縁取られて強度が補われる。

乗客や貨物コンテナなどの機内を使用する側からすれば胴体の断面形状は四角い方が良いが、気圧が低い高空を飛行するための耐圧性を軽い構造で実現するには円筒形の胴体は避けられない。旅客の航空運賃が主な収入源である航空会社が運航する旅客機の機体設計では、搭乗可能な乗客数の最大化が優先され、客室の座席は円形の胴体内で最も幅広い中央部に配置されている。客室の床下は空間が生じるので貨物コンテナを搭載することで有効活用している。2階客室部分を持たない、またはほとんど持たない広胴機では、客室より上の空間は空調類や乗務員休憩室が占める程度でそれほど活用されていない。また、全長に渡って2階席を備える最新の機体では胴体の断面形状が真円形よりかなり縦長になってはいるが円形であることに変わりはなく、貨物コンテナ用の搭載空間が幅広になるため新たに大きなコンテナを使わないと無駄が大きくなる[4]
翼構造
主翼エアバス A380
フラップを広げてさらに巨大になった主翼と、その基部に機体全長の半分以上もの長さの大きなフィレットがあるのがよく判る。また、胴体中央の底部は中央翼によって平らになっているのも見て取れる。ボーイング 777の主翼構造
1.前桁 2.後桁
翼桁(スパー、ビーム)や小骨(リブ)、縦通材(ストリンガ)によってインテグラル・タンクが構成されている。中央翼部分も翼の構造と連接されており、中央翼の後ろに主脚が格納される。

旅客輸送での経済性や利便性を考慮して設計された大型旅客機は、ほとんどの機種が低翼で5-7度ほどの少し上反角のついた強い後退翼であり厚みのある先細翼である[注 11][9]。胴体との結合部には翼面の不連続性に起因する渦の発生を抑えるために[注 12][10]、フィレット (Fillet) と呼ばれる板状の整流板が備わり、結合部の形状を滑らかにつないでいる[注 13]。高高度での亜音速飛行で良好な空力特性を得ながら同時に地上での離着陸時には十分な余裕を持って低速でも安定した揚力を得るために、多様な小型の翼が内蔵されている。翼の前後にはフラップやスラットといった高揚力装置や、操縦舵面としてのエルロンや、揚力削減と操舵の補助としてスポイラーが備わっている[注 14]。機体の外板はアルミニウム合金で作られることが多く、主翼は特に上下方向への変形量が大きく設計されていて、上側の外板は縮みやすく下側の外板は伸びやすいようにできている。

主翼を胴体部分と接合する構造は一般的な旅客機で共通する最も特徴的な部分であり、「中央翼」とも呼ばれる左右の翼の構造がそのまま中央まで伸びてつながり、大きな箱状の強度部材を構成している[注 15]。主翼付近の外板は胴体部が主翼から受ける曲げモーメントや剪断力を引き受けるために厚みが増されている。


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