新アラビア夜話
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新アラビア夜話
New Arabian Nights
ゴードン・ブラウンによる1913年版
「The Pavilion on the Links」の挿絵
著者ロバート・ルイス・スティーヴンソン
発行日1882年
発行元チャットー・アンド・ウィンダス
イギリス
言語英語
形態短編集

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『新アラビア夜話』(しんアラビアやわ、原題: New Arabian Nights)は、ロバート・ルイス・スティーヴンソン1877年から1880年にかけて雑誌に発表した作品をまとめて、1882年にチャットー・アンド・ウィンダス(英語版)より刊行された2巻からなるイギリス短編集。スティーヴンソンの処女作も含まれており、この中の数篇はイギリス短編小説の伝統の先駆となったのみならず、彼の最高傑作であると見なす評論家もいる[1][2]
第1巻

第1巻は、当初は『Later-day Arabian Nights(末の世のアラビア夜話)』と題されていた、1878年の6月から10月にかけてロンドン・マガジン(英語版)に連載された7つの短編からなり、『自殺クラブ』の3篇・『ラージャのダイヤモンド』の4篇の2部構成になっている。当時のヨーロッパを舞台としているが、恰もアラビア人による原作を紹介しているような体裁をとっている。全篇を通してボヘミアのフロリゼル王子がストーリーに絡む。『自殺クラブ』は秘密組織を巡る物語、『ラージャのダイヤモンド』は世界で6番目と謳われるダイヤモンドを巡る物語である。
『自殺クラブ』 (The Suicide Club)
「クリームタルトを持った若者の話」 (Story of the Young Man with the Cream Tarts)お忍びでロンドンオイスターバーで飲んでいたフロリゼル王子と腹心のジェラルディーン大佐は、無料で店中の客にクリームタルトを配っている不思議な青年に話しかけられる。興味を持った2人は青年を夕食に招き、彼の口から「自殺クラブ」の存在を知る。2人は自殺願望者を装い言葉巧みに青年を説き伏せて、自殺クラブ会長と対面して入会を果たす。そこは理不尽な誓約で会員をがんじがらめにし、会合の夜毎トランプのゲームで殺される者と殺す者を1人ずつ選び出すという恐るべき秘密クラブであった。その夜「処刑人」に選出されたのはクリームタルトの青年だった。翌日の新聞で2人は死のカード(スペードのエース)をひいた犠牲者の「事故死」を知る。2人は再び会合に訪れ、クリームタルトの青年の懺悔を聞いた。その日スペードのエースが配られたのはフロリゼル王子だった。「医者とサラトガトランクの話」 (Story of the Physician and the Saratoga Trunk)パリに滞在中の小心だが好奇心も強い若きアメリカ人観光客サイラス・Q・スカダモアは、美しい若い婦人から秘密めいた約束を持ち掛けられる。しかし明くる夜、指定の場所に彼女は現れず、落胆してホテルの自室に戻るとベッドに死体が横たわっていた。向かいの部屋に住む元ロンドンの開業医だったというノエル博士が異変を察知して部屋に入って来た。博士は茫然自失となっているサイラスから事情を聞くと、この巧妙に仕掛けられた罠に落ち、濡れ衣を着せられようとしている若者を助けようと申し出た。博士は部屋にあった大きなサラトガトランク(旅行用大型鞄)に死体を詰め込んでロンドンまで渡航し、指定の場所に届ければ君は悩みから解放されると説明した。博士はジェラルディーン大佐と親交があり、サイラスはパリの謝肉祭見物に訪れていたフロリゼル王子一行に紛れて、税関に掛かる事も無くトランクと共にロンドンに到着した。「二輪馬車の冒険」 (The Adventure of the Hansom Cab)インドで戦功をあげ一目置かれる存在となったブラックンベリー・リッチ中尉は、散歩中に不思議な御者から優雅に設えられた二輪馬車に手招きされる。御者はある屋敷まで中尉を送り届けると再び何処かへ去っていった。屋敷では男性ばかりの賭博場が開かれていた。ホスト役の男性は何らかの基準で客人を選別しているらしく、意に染まなかったと思しき客人が徐々に退出させられていき、最終的に残ったのはリッチ中尉と歴戦の老兵オルック騎兵少佐の2人だけだった。2人は廃屋とも思われる薄暗く広大な屋敷まで連れて行かれ、その一室で先客に紹介される。先客は当初身分を隠していたが、オルック少佐により直ちにフロリゼル王子であると見抜かれた。そしてホストの男性はジェラルディーン大佐であった。王子は自殺クラブ会長との最後の決闘の立会人になって欲しいと2人に持ち掛けた。
『ラージャのダイヤモンド』 (The Rajah's Diamond)
「丸箱の話」 (Story of the Bandbox)陸軍少将トマス・ヴァンデラー卿は、何らかの功績によりカシュガルのラージャから世界で6番目と言われる有名なダイヤモンドを贈られ、一介の軍人から金満な社交界の名士へと成り上り若く美しい夫人も娶っていた。優男のハリー・ハートリーは運良くヴァンデラー将軍の秘書の地位を得、将軍自身からの信頼は全く得られなかったが、夫人のお気に入りとなった。ある日夫人から衣装箪笥の下にある丸い帽子箱を指定の場所へ届けるよう依頼されたハリーは、その道中ヴァンデラー卿とばったり出会う。日頃夫人の浪費を咎め立てており、ハリーも信用していない将軍は帽子箱の中を見せろと詰め寄る。後から加わった夫人のいとこも含めた2人から逃げ惑う羽目になったハリーは、ある屋敷の塀を乗り越え庭に転げ落ちる。庭師のレイバーンに見咎められ詰問される内、2人は帽子箱からばらまかれた大量の宝飾類に気付いた。「若い聖職者の話」 (Story of the Young Man in Holy Orders)レイバーンの屋敷に間借りしていたサイモン・ロールズ師は騒動の顛末を見ていたが、ハリーが転がり落ちた場所で殆ど地面に埋もれていたラージャのダイヤモンドを発見し、その輝きに魅了されポケットに入れてしまう。警察の取り調べも何喰わぬ顔で切り抜け、自室でその輝きを見つめる内に将来への無限の妄想が広がっていったが、これまでに収めた学問がこのダイヤを処分するのに何の役にも立たない事に思い到った。本棚を蹴り倒しクラブに向かった彼は、世間通と思しき紳士からアドバイスを得る。ロールズ師はダイヤモンドを切り分ける技術を身に付けようという結論に至り、旅に出る前にクラブに行くと件の紳士(実はフロリゼル王子と判明する)とトマス・ヴァンデラー卿の弟ジョン・ヴァンデラーが会話している場面に遭遇する。知り合いの宝石屋のいるエディンバラに向かう列車に偶然ジョン・ヴァンデラーも乗り合わせていて、ロールズ師はジョンもまた兄の宝飾類を持ち逃げしようとしている事を知る。「緑の日除けがある家の話」 (Story of the House with the Green Blinds)エディンバラの誠実、温厚な銀行員フランシス・スクリムジャーは高名な弁護士から呼び出しを受けた。用件はさる高貴な人物が彼に年額500ポンドの手当てを支給したいと申し出ているという話だった。条件は指定された日にパリのコメディ・フランセーズに行き、用意された席に座っている事と、指定された相手と結婚する事であった。会話の過程でフランシスは今まで父親と信じていたスクリムジャー老が実の父親ではなく、この依頼が実の父親からのものらしいと知りショックを受ける。パリで劇場の入場券を受け取る際、これを預けた人物がたった今去ったばかりであり、その人物が刀傷のある老人だと聞き後を追う。そして特徴が合致するジョン・ヴァンデラーとロールズ師が言い争う場面に出くわした。ヴァンデラーが実の父親なのかも知れないと思い込み後を付けると老人は緑の日除けがある家に入っていった。フランシスは隣の空き家を借りる事にした。「フロリゼル王子と刑事の冒険」 (The Adventure of Prince Florizel and a Detective)ヴァンデラーがロールズ師から強引に奪い取ったラージャのダイヤモンドは、ヴァンデラーの心優しき娘から密かにスクリムジャーの手に渡り、更にフロリゼル王子に手渡されていた。王子はジョン・ヴァンデラーを激しく難詰し、ヴァンデラー嬢との結婚をスクリムジャーに勧めた。最後にロールズと二人で歩きながら、彼にオーストラリアに渡って全てを忘れ開拓者になるよう忠告した後、1人になって歩きながら思案する内に自分までがダイヤモンドに惑わされそうになっている事に戦慄する。王室がパリに所有する川辺の邸宅に戻ると、一人の刑事が待っていた。ヴァンデラー兄弟が窃盗のかどで王子を告発したと言う。総監に王子を逮捕する意志は無いと言う刑事と共に警視庁に歩いて向かう道すがら、王子はダイヤモンドの呪われた経緯を語り、こんなものは退治されるべきだと刑事の目の前でダイヤをセーヌ川に投げ捨てた。
第2巻

第2巻は、既に雑誌で発表されていた4編の独立した短編を集めたものである。フロリゼル王子も登場せず、アラビア人の原作者がいるという趣向も無い。そのため近年では第1巻のみを『新アラビア夜話』と看做すという考え方が多数派となっている[3]。「臨海楼綺譚」 (The Pavilion on the Links, The Cornhill Magazine, 1880)第2巻全体の半分近くを占める一篇。9章から成っている。孤独を愛する拗ね者である主人公フランク・カシリスは若い頃イングランド、スコットランドの荒野・僻地を野宿しながら放浪する無頼の生活を送っていた。スコットランド北部の荒涼たるグレイドン・イースターを訪れた時、学生時代に唯一交流のあったアール・ノースモアの住む臨海楼を思い出し、訪ねてみることにした。ノースモアは不在であったが夜中に人のいる気配がし、明らかに客人を迎える用意が為されている様子であったので、フランクは暫く野営しながら臨海楼を観察した。嵐の夜かねてより沖合にいた快速艇が危険を冒して接岸すると、一群の人々が上陸してきた。水夫達により多くの荷物が臨海楼に運び込まれ、次いで水夫に守られた長身の年配の男性と若く美しい女性(後に銀行家バーナード・ハドルストーンと娘のクララと判明する)。そしてややあってノースモアが1人でやって来た。フランクが声を掛けるとノースモアはいきなりナイフで斬りつけてきた。フランクが反撃するとノースモアは臨海楼へと逃げていった。フランクは怒りより好奇心からそのまま同地に留まる決意をする。そしてあるきっかけからクララ・ハドルストーンと親しく話すようになっていった。「一夜の宿」 (A Lodging for the Night, Temple Bar, 1877)15世紀フランスに実在した無頼の詩人フランソワ・ヴィヨンを主人公とする一篇。1456年11月末の雪の夜、ヴィヨンはならず者仲間の溜まり場の家でバラードを書いていた。2人の仲間が賭け事をしていたが、負けが込んだ一方が激昂してもう一人を刺殺した。彼は死体から財布を抜き取るとその場の全員に分配した。「皆同罪だな」とヴィヨンは自嘲し、刺殺した男は全員逃げた方が良いと主張した。皆同意したがヴィヨンは死んだ仲間を思って落胆している隙に、その場にいた悪徳坊主に財布を抜き取られていた。ヴィヨンは絞首台の幻影に怯えながらの逃亡中に無一文となっていることに気付き、途方に暮れ夜の街を彷徨う羽目に陥った。頼って行った養父の牧師からは冷たくあしらわれ、喧嘩中の友人からは頭から汚水を浴びせられそうになった。やがてある家に勝手に押し入ろうと思い至ったが、家人がまだ起きていると知ると、思い直して正面から尋ねて一夜の宿を乞おうと試みた。家の主人は軍功をあげ、地位も名誉も手に入れ優雅に暮らす老人であった。氏も育ちも違う2人は決して交わることの無い不毛な議論を戦わせる。「マレトロア邸の扉」 (The Sire De Maletroits Door, Temple Bar, 1877)1429年9月のある夜、22歳の騎士ドニ・ド・ボーリューは不案内なシャトー・ランドン(英語版)の路地を歩いていた。友人宅を訪ね、すっかり遅くなってしまったのだ。道中素性の知れぬ酩酊した歩兵のグループを見かけ、姿を隠してやり過ごそうとしたが物音を立てて発見された。咄嗟に豪壮な邸宅の楼門に飛び込み、扉に背を凭せ掛けると音も無く扉が内側に開いた。渡りに船と中に入り扉を半分だけ閉めようとしたが、何らかの仕掛けを施された扉だったらしく自動的にぴったりと閉じられた。邏卒の一群が諦めて去っていったので、扉を開けて外に出ようとするが、扉の内側には何の取っ掛かりも無く開くことは不可能だった。罠に掛かったと覚悟を決め、ドニは手近な明かりの洩れる部屋に入った。豪奢な部屋のマントルピースに刻み込まれた紋章から、由緒正しい名家マレトロアの屋敷であることが知れた。暖炉脇にはマレトロア家の領主、老大人アレーンが腰掛けていた。老人はドニを待っていたと歓迎し、姪だという美しい娘ブランシュをドニに紹介した。そしてブランシュと結婚するか死を選ぶかの二択を迫った。「神慮とギター」 (Providence and the Guitar, The London Magazine, 1878)レオン・ベルトリーニ氏は芸術家を自負しながら次第に落ちぶれて、妻エルヴィラと共にフランスの田舎町を渡り歩く旅芸人兼富くじの勧進元へと身をやつしていた。カステル・ル・ガーシーという町に辿り着いた2人は、興行許可を与える警部や宿屋の主人から散々な目に合わされ野宿の危機に陥った。


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